166 リゼス聖国へ
精霊界を抜けて、森の中の泉に出た。
空の上に浮かんで周囲を見渡す。
目的地は簡単にわかった。
真っ白に輝く大聖堂が、青空の中に高くそびえている。
その下には町が広がる。
帝都と違って城壁はなく、町は街道にそって星の形のように広がっている。
うん。
リゼス聖国の聖都アルシャイナで間違いなさそうだ。
私はいつものように姿を消して、空中から街道へと近づいた。
明らかに帝都と違うのは巡礼者が多いことだ。
白服姿なので一目でわかる。
みんな、ユイに会いに来ているのだろうか。
気になったので近づいて聞き耳を立ててみると、やっぱりそうだった。
聖女様に会えるといいねえ。
一目だけでも見られれば、もう人生に思い残すことはないよ。
とかの会話が聞こえる。
ユイの凄さはいろいろ聞いてきたけど、こうして自分自身で見聞きすると、あらためて凄さを感じる。
検問所は華麗に上空からスルーして、市街地に入った。
おお……。
白い町並みが広がった。
建物も道路も、だいたいが白い。
さらに白い幕までかけられて、どれだけ白が好きなんだろうという感じだ。
そして並ぶお店には、お約束のように聖女ユイの肖像画。
幼い頃から最近のものまで。
治安はよさそうなので、『透化』を解いて普通に歩くことにした。
ローブは羽織っておく。
しばらく歩くと、噴水の広場があった。
たくさんの屋台が出ている。
いい匂いが広がっていた。
巡礼者たちも、ここで大勢が一息をついていた。
広場には両替屋もあったので、まずは聖国のお金を手に入れた。
帝国の金貨1枚を聖国の銀貨と銅貨に替える。
貨幣の価値は同等だった。
手数料はしっかり取られたけど、特にトラブルなく完了した。
さあ、食だ!
屋台を見て回る。
ふむ。
まずは肉串のお店。
定番だ。
ただ、帝都とはタレが違うようだ。
一本、買ってみた。
帝都の肉串は、基本的に岩塩かバーベキューソースだった。
こちらは醤油ベースみたいだ。
食べてみると、懐かしい味で思わずほころんだ。
次のお店はおにぎり屋さんだった。
海苔がしっかりと巻いてある。
買って食べてみると、中には焼き魚の切り身が入っていた。
鮭みたいな味だった。
さらにはとなりには、羊羹のお店があった。
なんか、すごい。
帝都と比べて、かなり前世の日本に近い食文化だ。
「なんだ嬢ちゃん、羊羹が珍しいか? ぷよぷよでスライムみたいだろう?」
見てたら店員さんが話しかけてきた。
「私、帝都から来たんだけど、こんなの初めて見たよ」
「……嬢ちゃん、帝国人なのかい?」
怪訝そうに聞かれた。
帝国の印象は、やっぱり悪そうだ。
「うん。そうだけど……。でも、聖女様に会いに来たんだよ、私」
「ああ、そうか。そうだよな。すまん、わざわざ遠くから来てくれたっていうのに嫌な顔を見せちまったな」
巡礼者と思ってくれたようだ。
態度が軟化したので、もう少し会話してみる。
そうじゃないかなーとは思ったけど、おにぎりや羊羹はユイの好物として聖国で今や大人気の食べ物らしい。
あと、帝国のこと。
噂で聞いていた通り、祝福の件は悪質な政治工作だと思われているようだ。
帝国などに精霊が現れるはずがない、と。
いやー、現れているんだけどね、私。
仮に私が違うとしても、ゼノも普通に来ているし。
町ではなんと、帝国との戦争に備えて民兵団まで作られ始めているそうだ。
今のところ、聖女からの声明はなく、軍にも動きはないので、あくまで市民の自主的な行動でしかないようだけど……。
ただ、聖女の友人である隣国のエリカ王女が声高に帝国の野心を訴えているので聖女の声明も時間の問題だろう、とのことだった。
帝国は、聖女の権威を失墜させることで東諸国に混乱をもたらし、大陸全土の支配を目論んでいるのだそうだ。
いや、そんな話、聞いたことないんですけどね……。
だいたい陛下って事なかれ主義だ。
現状維持を一番に考えていることは明白だ。
領土の拡大なんて狙うタイプではない。
ここでお客さんが来て、話はおわった。
最後に小声で、もう出身地は言わないほうがいいよ、と忠告された。
私は噴水の近くに座って、羊羹を食べる。
甘くて懐かしい。
日本の味だ。
しかし、ひとつ、わかった。
騒動の原因はエリカだ。
エリカのやつめ!
王女なんて立場で何を扇動してくれているのか!
うん。
しっかりとお話し合いの必要があるね、これは。
まあ、でも、急げば回れ。
まずはダンジョンで転移陣の登録だ。
私は羊羹を食べおわると、冒険者ギルドを目指した。
人に聞きながら歩いて、到着。
中の雰囲気は、帝都の冒険者ギルドと一緒だね。
冒険者のたむろするホールがあって、その奥に受付窓口が並んでいる。
早速、受付のお姉さんに話しかける。
「すみませーん」
「はい、ご依頼ですか?」
「いえ。私、他国から来た冒険者なんですけど――」
冒険者カードを見せた。
「このカードで、こちらでも仕事することはできるんでしょうか?」
「はい。鑑定さえ受けていただければ大丈夫ですよ。ただ、あの、失礼ですがまだ未成年ですよね……?」
疑わしげに、まじまじと見られた。
「私、カードにある通り、これでも22歳なんですけど! ハイエルフなので……ハイエルフの血が混じっているので若く見えるだけなんですけど!」
カード情報では「人間の22歳」なので、ハイエルフでは不味い。
なので混血にしてみたけど……。
どうだろか。
誤魔化せたかな?
そっぽを向いてから、ちらりと相手の顔色を窺ってみる。
「失礼しました」
よかった誤魔化せたっ!
ごめんね嘘だけどっ!
ともかく、早速、鑑定をしてもらった。
結果は合格。
犯罪記録はなし。
カルマは強善性。
属性は判別不能。
魔力は計測不能。
さすがは私。
ただそのままだと騒動になることは確実なので、再計測の前に頑張って魔力を抑えるだけ抑えてみた。
すると魔力は一流程度になれた。
さらに属性も、私は風、私は風と念じていたら見事に風属性と判別された。
やったことはなかったけど、やればできるものらしい。
よかったよかった。
最初の測定はミスということで収まった。
というわけで。
人間の22歳、風の魔術師として聖国での冒険者登録完了。
やったぜ。
帝国の『女神の瞳』と違って、精霊であることはバレなくて済んだ。
出身や年齢についても同様だ。
このあたりは事前の情報通りで安心した。
個人情報を読み取る力については、帝国の魔道具だけが飛び抜けて優秀らしい。
さて。
問題もなくなったところでダンジョンのことを聞いた。
近場では、聖都から2時間歩いた山の麓にあるとのことだった。
Fランクのダンジョンで、危険なギミックはなく、普通に敵を倒して魔石を集めることができるらしい。
ただとはいえ、死者はそこそこ出るみたいだけど。
「……本当に行かれるんですか?」
「はい。ちょっとだけ」
「薬草採集の仕事の方がいいと思いますが……。ちょうどいいのがありますよ?」
かなり心配された。
私みたいな子供が1人で行くとか、それは危険だよね。
でも、薬草採集はもう懲りています。
気持ちだけ、ありがとう。
そうやって話していると、うしろからガラの悪い冒険者が来て、
「おいおい、こんなガキが冒険者とか舐めてんのか?
冒険者ってのはな、命懸けの仕事だ!
とっととガキは家に帰ってママの――」
と、お約束な絡み方をしてくれたので、軽く一撃で沈めたら受付のお姉さんも納得してくれてよかった。
かわりに他の冒険者たちから思いっきり注目されたけど。
おい、アレだれよ……。
暴れ牛のメガモウを簡単に倒しやがったぞ……。
少なくとも、うちの冒険者じゃねーよな……。
他国のAランクか……?
パーティーに誘ってみるか……?
声をかけられても困るので、そそくさと逃げました。
ついに帝国を出て、舞台は隣国へ\(^o^)/
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