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158 ノーラさんと合流



 さあ、何から食べようか。

 ざっと見渡して特に目につくのは色とりどりのスイーツだ。

 深く考える必要はない。

 本能のままいこう。

 というわけで私はスイーツを食べまくった。


 すぐにお腹いっぱいになった。


「……じ、自分の容量の少なさを忘れていた」


 食べすぎの気持ち悪さに耐えていると、1人の女性が近づいて声をかけてきた。


「お嬢さん、お加減が悪いのなら人を呼びましょうか?」

「あ、いえ。ただの食べすぎなので――って、ノーラさんっ!」

「こんばんは、クウちゃん」

「こんばんはっ!」


 現れたのは、ロックさんのパーティーメンバーの1人、ノーラさんだった。

 火の魔術を操る美人さんだ。

 赤いドレスが似合っている。


「びっくりしました。そういえば参加するって言ってましたよね」

「クウちゃんからは聞いていなかったから、見かけた時には驚いたわ」

「あはは。すみません」


 ロックさんたちには、王女様設定のこととか、大宮殿によく出入りしていることは話していなかった。

 なんとなく話すタイミングがなかったんだよね。

 実は私、王女になりまして。

 とか、改まって言うのもなんか変だったし。

 ロックさんたちも、私の素性をアレコレとは聞いてこなかったし。


「よかったらテーブルについて、少しおしゃべりしない?」

「はいっ」


 冷たい水を飲みつつ、ノーラさんとはダンジョンのことで盛り上がった。

 ノーラさんは私より遥かにダンジョン経験豊富で、お宝を手に入れたことも死にかけたこともたくさんあった。

 最後にはほとんど失明して、引退。

 祝福がなければ、閉ざされた家の中で静かに生涯を終えていたわね、と、なんでもないことのように言う。


「でも、すごいですね。それで回復して、またすぐに冒険なんて」

「スリルがたまらなく好きなの。あと、全身全霊で魔術を放って、魔物を焼き殺すのも大好きなの。もう病気ね」

「わかるといえばわかります」


 私もダンジョンには楽しんで入っちゃうしね。

 戦いにも高揚するし。

 グロい敵じゃなければ……。


「クウちゃんは1人で攻略したんでしょう? それもすごい話ね」

「いやー、私の場合は、反則みたいなものなんで」


 話の流れで、私のダンジョン攻略も普通にしゃべってしまった。


「さすがは精霊さんね」

「それほどでもー」

「でもそうね。実は私は、クウちゃんは本当に精霊さんだと思っているのよ。返事はしてくれなくてもいいけれど」

「いいえ。実は本当にそうなので、その通りです。でも、それなりに秘密なので言わないでくれると嬉しいです」

「わかっているわ。ロックたちも何も言わないでしょう?」

「……えっと。みんなわかってるとか? ですか?」

「クウちゃんの気配は、そうね――。人のものでも魔物のものでもない――。聖域のそれに近いものを感じる」


 ロックさんもブリジットさんも、そこはかとなくいろいろ感じつつも、変わらない態度でいてくれたのか。


「みんな優しいんですね」


 感謝だ。


「クウちゃんだって優しいでしょう? こんなものを押し付けてくれて。これがあれば竜でも焼けそうな気持ちになるわ」


 そう言ってノーラさんが見せてくれるのは、指に嵌めた真紅の指輪だ。

 私が作ったものだ。

 もちろん、付与効果もつけて。


「つまり、私の目に狂いはなかったということですねっ!」

「そう言ってもらえると嬉しいわ」


 2人で笑いあった。

 うん。

 私、いい人たちと出会えて幸せ者だ。


「――失礼、ノーラ嬢。私もご同席させていただいてよろしいですかな」


 む。


 そこに返事も聞かずに貴族の男性が同じテーブルについた。


「ノルロア、貴方に丁寧な挨拶をされると虫唾が走ります」


 ノーラさんはかなりそっけない。


「まさか君がいるとは思わなかったので驚いたよ。噂に名高いセラフィーヌ殿下の力を見極めてやろうという腹積もりかな」

「そんな不敬な気持ちなどあるものですか。たまたま帰宅したところを捕まっただけです。運がありませんでした」


 ノルロアさんという男性は、ノーラさんやロックさんよりも年上――20代半ばか後半くらいの人だ。

 軽薄な笑みを浮かべているものの、鍛えられた体をしている。


「王女殿下には、お初にお目にかかります。俺はノルロア・フォン・タージェ。中央騎士団所属の正騎士です。ノーラとは祖母を同じくする者です」

「クウ・マイヤです。初めまして」


 ノルロアさんは、ノーラさんの親戚なんだね。


「ところでノーラ、君はマイヤ殿下とは元からの知り合いなのか? 親しそうだが」

「ええ。それなりには」

「俺が混じらせてもらっても?」

「用があるならどうぞ」

「では――。不躾な質問ですが、マイヤ殿下」

「マイヤ殿下はやめてください。私、ただの居候なので。クウちゃんでいいです。口調もノーラさんと同じでいいですよ」

「では、クウちゃん。君は戦火から逃れて帝国に来たのか?」

「えっと……。ちがいますけど……」

「そうか――。東諸国では亜人への当たりも強いと聞いていたのでな」


 東諸国というのはザニデア山脈の向こう側の国々ということだろう。

 ナオの居た獣人国を滅ぼした人間至上主義のトリスティン王国とかがあるし。


「本当に不躾ですね。いきなり質問することですか」


 ノーラさんが冷たい目を向ける。


「すまん。そうだとは思うが、帝国もきな臭くなってきているだろう? 向こう側のことが知れればと思ってな」


「――そうね」


 ノーラさんがため息をついた。


「……何かあるんですか?」

「クウちゃんの耳にまでは届いていないのね。今、町では、聖女ユイリア様が帝国に対して非難宣言を行うらしいということで不安が囁かれているの。我々は精霊様に見捨てられるのかもしれないって」

「見捨てられるって……。陛下に祝福があったばかりだよね?」


 それに帝都にも。

 セラもいるし。


「ええ。だから大半の人は気にしていないけど――。聖女ユイリア様の影響力は絶大だから非難されれば帝国の混乱は必至ね。なにしろこの大陸でただ1人、光の大精霊に認められて光の力を得た正真正銘の聖女だもの」

「そかー。精霊が帝国を見捨てるわけがないのにねー」


 この精霊第一位にして精霊姫のクウちゃんさまがそう言っているのだ。

 間違いはない。


「しかも、だ。聖女ユイリアはジルドリア王国の薔薇姫エリカと懇意の仲だろ。非難宣言を2国が合同で行う情報もあってな。もう大変だぞ。すでに俺ら中央軍なんて戦争まったなしの空気でピリピリさ」

「……そんな機密を気安くしゃべらないでもらえる?」

「機密も何も市井で思いっきり噂されてることだろ。なあ、ノーラ。いつまでも遊んでいないで、そろそろ中央軍に来い」



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 容量不足って、クウちゃんが精霊になったからですか?それとも、転生する前からですかねぇ〜?他の方の作品を見ると、大体の話の精霊は食が細いんですよね。もしかしたらこの作品もそうなのかなーっ…
[良い点] 食い倒れツアー……出落ちった_| ̄|○ くっ! やはり戦力不足だったか……ここに、ひおりんかテイクアウト容器があれば! ……きっと前日に、ひおりんは拾い食いでもしてポンポン痛くて、今回は休…
2021/09/04 13:49 退会済み
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