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148 ダンジョンの冒険者たち



 ボスのスケルトンを倒して、さらにマーレ古墳の探索を続けていると……。


 すごい場所でキャンプするパーティーを見つけた。


 そこは、通路に空いた穴から落ちた先にあった、古墳の地下広場だった。

 広場は天然の洞窟にも見えた。

 とはいえ、空間自体は薄く発光しているので、マーレ古墳のダンジョンエリア内なのだろうけど。


 私は、その広場に通路の穴から『浮遊』でふわふわと降りた。

 高さは5メートルほどあった。

 生身でひょいと降りるには、かなり無理のある高さだ。


 広場には、たくさんのスケルトンがいた。

 ゴーストもいる。

 さらにはダンゴムシのような甲殻類が砂と岩の地面を這っている。


 パーティーは壁際に陣取り、ダンゴムシと戦っていた。

 矢を当てて怒らせて、壁沿いまで寄せて、倒す。

 ダンゴムシだけを狙って戦闘を繰り返していた。


 戦闘のテンポはよい。

 なかなかに優秀なパーティーのようで、大きなダメージを負うことなくダンゴムシを倒している。

 貴重な水魔術師もいて、ダメージを受けてもすぐに回復していた。


 ただ、それでも見ていて心配になる。


 なにしろパーティーがいるのは壁際。

 逃げ場がない。

 まわりには、スケルトンやゴーストがうようよといる。

 絡まれてしまえば大惨劇だ。


 というか、どこから来たんだろう……。


 私はふわふわとあたりを漂ってみた。


 すると、20メートルほど離れたところに、幅の広い上り階段があった。

 ここから降りてきたのかな。


 階段には、長い牙のコウモリが何匹もいた。

 安全な場所ではない。


 なので移動して、ダンゴムシの群生地に近い壁際をキャンプ地としたのか。

 少なくとも壁の近くにスケルトンやゴーレムはいないので、壁際から動かなければ安全のようだった。


 お。


 連戦がおわって、2人の魔術師が息をついてしゃがんだ。

 疲れた顔でクッキーを食べる。

 一休みするようだ。


 戦士たちは立ったまま壁に背を預ける。

 脇に置いた袋から干し肉と水筒を取り出して、肉をかじりつつ水を飲んだ。


「触角、今、いくつ手に入った?」

「10本です」


 魔術師の1人が、ショルダーバッグの中を確かめて答える。


「ふぅ。あと10本かぁ。先は長い。魔力はどうだ?」

「休めばまだ余裕」

「帰り用の消音魔術の魔力は残しておいてくれよ」

「わかってる」


 そんな会話をしていた。

 私は姿を消したまま、なんとなく聞いていた。


「この納品クエストをおえれば、いよいよ我々もCランクですね」

「おう。ついに目標達成だな」

「Cランクになれば大商会の護衛にも雇ってもらえますし、ようやく冒険者稼業も安定しそうですね」

「いつまでもダンジョンには潜っていたくないわよねえ」

「ま、護衛でも死ぬ時は死ぬけどな」

「ここよりは安全よ」


 彼らは今、Dランクの冒険者ってことみたいだ。

 そしてこの任務をこなせばCになると。


 ちなみに私はFランク。

 まだ薬草採集しかこなしたことのない完全なる新人だ。


 彼らとの差は2ランクかぁ。

 F、E、D、だよね。


 ダンジョンを制覇していけば、あっという間にランクアップ。

 なんて簡単に考えていたけど、実際には大変なことのようだ。


「しっかし、『狼の牙』と『疾風』の連中は大丈夫なんかねえ。Dランクの分際でネームド退治なんて」

「一攫千金狙いなんだから、危険なのは当たり前」

「そろそろポップ時間だよな?」

「そうね。前にBランクの『黄金の鎖』が倒してから、もう50時間だし」

「俺らも行ってみるか? ちょうどこの奥だし」

「やめて。死ねる」

「冗談だよ、冗談。俺らは安全第一、とまではいかないけど、きちんとリスク管理するのがモットーだよな」

「うん。それでいい」


 ネームドモンスター、いるんだね。

 そして、ちょうどポップ時間?


 気になる。


 この人たちは大丈夫みたいだし、私は奥に行ってみよう。


 スケルトンとゴーレムの群れの間を抜けて、ふわふわと『浮遊』していく。


 すると、見つけた。


 大きな岩をぐるっと回った先に、たくさんの冒険者がいた。


 ひい、ふう、みい……。


 ちょうど20人いる。

 5人ずつで固まっているので、たぶん、4パーティーということだろう。


 油断なく周囲に目を配る面々。

 ピリピリと張り詰めた空気だ。

 口を開く者もいない。


 間違いない。


 ネームドモンスターのポップ待ちだ。


 あ、スケルトンが湧いて、1パーティーに襲いかかった。

 他のパーティーは……助けない。

 完全無視だ。


 ふむ。


 同盟を組んでいるわけではなく、それぞれ別個にネームドを狙っているようだ。

 先のパーティーの話では少なくとも2パーティーはDランクらしいけど、単独でネームドを倒す力はあるのだろうか。

 一攫千金。

 危険。

 と言っていたけど。


 みんなで同盟を組んで戦利品は山分け……。

 のほうが安全確実だと思うけど、それではウマミが足りないのかな。


 果たしてどんなことになるのか。


 私は姿を消したまま、様子を見守ることにした。


 なんというか、うん。

 心配というか……。

 正直に言えば……。

 見ているだけで、わくわくする。


 こういうネームドの取り合いって、私はゲームではあまりやらなかったけど、ハマる人はハマっていた。

 それこそ血眼で現場に張り付いて、何時間をも過ごすのだ。

 プレイヤーがどれだけいようと、ポップするネームドの数は増えない。

 熾烈な取り合いだった。

 他のプレイヤーと大喧嘩になることも普通だった。


 私は思い出す。

 あれは、フレンドの武器取りを手伝った時のことだった。


 狙うのは、中衛用の複数回攻撃武器だった。

 凄まじい速さで攻撃を繰り出せて威力も十分だったため、一般プレイヤーには大人気の逸品だった。


 当時、私はすでに神話武器を持っていてその武器は不要だったので、物欲もなく軽い気持ちで手伝いを引き受けた。


 現地には誰もいなくて、私たちだけだった。

 なので楽勝だと思ったのだけれど。


 しばらくすると、他のパーティーがやってきた。

 そして陣取る。


 どうしても武器の欲しかったフレンドが、彼らに、先に私たちがいたんだから後から来て邪魔をするな帰れと文句を言った。


 向こうは、こっちはポップ時間を知っていて来たんだ、何日も前から狙っているんだからそっちこそ帰れと文句を言ってくる。


 いやもう。


 本気で悪口の応酬だった。


 そこに、さらに別のパーティーが来て、陽気にこうたずねてきた。


「今ってポップ時間ですか?」


 シーン。


 まさに沈黙が降りた。


 それを肯定と受けとった彼らが、


「あ、そうなんですね♪ ラッキー♪」


 と、湧き待ちを始めてしまった。


 いやー、うん。


 あの時の空気は、今でも忘れることができない。


 結果?


 もちろんネームドが湧いた瞬間に私がゲットして、即座に撃破しましたとも。


 精霊族は俊敏だしね。

 私はガチガチのガチプレイヤーだったしね。

 一般人には負けません。


 フレンドには大いに感謝されましたとも。

 発狂するほどに踊って喜んでいたフレンドの姿は今でも覚えている。


 同じパーティーにいた他のフレンドが、「できれば私も欲しいなぁ……」とつぶやいたのは完全無敵に聞かないフリをしたけど。



 とにかく。

 うん。


 人間の欲望がこれでもかというくらいに凝縮された凄まじい世界だった。


 それがここにある。


 これから果たして、どんな取り合いになるのか。

 どんな戦いになるのか。


 人生を賭けた真剣勝負なのはわかっているけど、私は観客の気持ちにならずにはいられないのだった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 【たぶん最強の新米冒険者、野次馬しちゃう】 の巻\(^o^)/ [気になる点] 「ま、護衛でも死ねる時は死ねるけどな」の台詞。 『死ぬ時は死ぬ』じゃなくて? そう言う表現ですか? 『彼ら…
2021/08/26 15:38 退会済み
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