146 ボンバーズの激闘
魔術師タイプのスケルトンを退治した後は、再び姿を消して、ふわふわ浮かびつつ迷宮の奥へと向かう。
道中、いくつかの部屋があったけど、どれも中にはアンデッドしかいなかった。
部屋にドアはついておらず、姿を消したままで確認できた。
通路には、あちこちにコウモリとナメクジがいる。
姿を消していなければ、それなりに連戦するハメになりそうだ。
なるほどみんな、手前の階段でやりたがるわけだ。
しばらく歩くと大きな門を見つけた。
門は閉まっている。
門の手前の広間をキャンプ地にして、冒険者たちがナメクジと戦っていた。
「ストーンショット!」
魔術師の杖から飛び出した石のつぶてがナメクジに直撃する。
石を浴びてナメクジが怯んだ。
大剣を掲げた岩のような大男が飛び出す。
「うおおおおおおおおおおお! 大岩! 大爆発――――!」
体重を乗せた上段からの一撃でナメクジを両断。
ナメクジは溶けるように広がり、やがて塵となって消えた。
あとには小さな魔石が残る。
「今日も快調ですね。我らボンバーズに敵などいるはずもありませんが」
大男、というか、うん、ボンバーが魔石を拾い上げて魔術師に渡す。
受け取って、魔術師は魔石を腰のポーチに入れた。
パーティーで狩りをしているようだ。
軽装の戦士が、次の獲物を探しに通路に出ていく。
パーティーは、ボンバーを中心にして、釣り役の軽装戦士、土の魔術師、あとは左右に剣士が2人いた。
すぐに次の獲物が来る。
今度はコウモリだ。
土魔術師がボンバーに防御の呪文をかける。
このパーティーは、ボンバーが守りも攻めも要となっているようだ。
ボンバーが受け、ボンバーが攻め、それを左右の剣士がフォローし、軽装戦士は背後からの不意打ちを狙う。
さすがはボンバーズといった感じだ。
というか、私、けっこうボンバーに縁があるね。
また会うとは。
いや、うん。
真面目な話、特にほしい縁じゃないけど。
コウモリも順調に、ボンバーが攻撃を受けつつ、コウモリの素早い動きを読んで左右の剣士がそれぞれに一撃を当てて倒した。
連携は取れている。
ボンバーが爆発するだけの、ネタパーティーというわけではなさそうだ。
「よし、ではそろそろ、強めの敵に行きますか」
「奥に騎士タイプのスケルトンがいましたけど、釣ってきますか?」
「ええ。お願いします」
「了解!」
「皆さん、気合を入れていきますよ!」
軽装の戦士が敵のところに向かう。
やがて戻ってきた。
「すみませんボンバー先輩! リンクされました! でも、雑魚1です!」
見れば甲冑を着たスケルトンの他に、槍を持ったスケルトンがいた。
ただ、それだけではなかった。
さらにうしろから、杖を持ったスケルトンが追っている。
「おい、魔術師タイプもいるぞ!」
剣士の1人が叫ぶ。
「これは厄介ですね。私が2体を引きつけます。その内に魔術師タイプを!」
「すみませんボンバー先輩! 俺のミスで――」
「反省会は後です! 勝ちますよ!」
「はい!」
ボンバー、なかなかによいリーダーっぷりだ。
ただ状況は悪い。
魔術師タイプのスケルトンは、後方から前に出てこない。
そして、近くにはコウモリが2匹も飛んでいる。
近づけば絡まれるだろう。
「マズイ! スケルトンが唱えているのは、範囲睡眠魔術です! 喰らえば壊滅の危険があります!」
土の魔術師が悲鳴のような声を上げる。
「突貫! コウモリくらいで死なねえよな!」
「噛まれても無視して、まずは骨!」
「クソー! すまねえ!」
覚悟を決めて、2人の剣士と軽装の戦士が飛び込む。
あ。
物陰からいきなりナメクジが現れた。
剣士の1人の足に絡みついて動きを止めてしまう。
「ぐわわぁぁぁ!」
「ストーンショット!」
土の魔術師がすぐに石のつぶてを放って、そのナメクジを引き剥がす。
5対6の乱戦だ。
うーん。
すぐに助けていいものか迷う。
だって挫けてないしね、ボンバーズのみなさん。
私がさくっと助けてよかったねでは、矜持を傷つける事になりかねない。
逆に怒られる気がする。
ギリギリまで様子を見るべきだろう。
私はやきもきしながらも、『透化』したまま戦況を見守った。
スケルトンの魔術は止めることができた。
軽装の戦士がほとんど体当たりのように短剣で斬り込んで、自身もろともスケルトンを地面に倒したのだ。
倒れたスケルトンの頭を、すかさず剣士の1人が強烈に踏みつける。
その剣士の肩にコウモリが噛み付いた。
2匹目はなんとか剣で牽制して、近づかれるのを阻止した。
もう1人の剣士はナメクジと向かい合っていて動けない。
ボンバーは騎士タイプのスケルトンと、正面から剣と剣とで押し合っていた。
同時に、もう1体のスケルトンの槍も、なんとか回避している。
たいしたものだ。
とはいえ、1人で撃破するのは難しそうだった。
こうなると土の魔術師がカギだ。
しかし乱戦の中、彼は次の行動を決められないでいた。
あっちを見て、こっちを見て、戸惑ってしまう。
迷った末、彼は防御の呪文を更新しようとボンバーに杖を向けた。
「――ダメ。
ボンバーはまだ耐えられる。
コウモリに噛まれている剣士にかけて」
私はうしろに回り込んで早口に囁いた。
「わ、わかった!」
彼は混乱もあってか、私の囁きにすぐに従った。
防御効果を受けたことでコウモリの牙が緩み、剣士はコウモリを引き剥がすことに成功した。
そのまま床に叩きつけて、剣で刺す。
そこに残る1匹が襲いかかるけど、スケルトンを倒して立ち上がった軽装の戦士が短剣で斬り裂いた。
よし、なんとかなりそうだね。
あとはナメクジと槍持ちのスケルトンを順に3人で倒して、最後の騎士タイプを土魔術の援護を受けつつ、死闘の末に撃破。
みんな満身創痍ながらも、死者は出ずに済んだ。
さすがに限界なのか門に背を預けて、崩れるように床に腰をつけた。
「……ハァハァ。……こ、ここまでの死闘は、久しぶりですね。……このボンバーもさすがに最後かと思いました」
「ボンバー先輩……すみませんでした……俺のせいで……」
軽装の戦士が落ち込む。
「なぁに……。リンクなんてよくあることです……」
「凌げたしな」
「だな」
ボンバーに続いて剣士2人が明るく振る舞う。
「問題は、どう帰るかですね……。自分、もう精神が限界です……」
土魔術師は今にも昏倒しそうだった。
私はいったん離れた。
通路の角に潜む。
ほとんど意味はない気もするけど、普通に歩いてきた風を装う。
「あれ、ボンバーじゃん。どうしたの?」
近づいて気楽に声をかける。
「え。君は――? ま、まさか……早食い選手権で司会をしていた!?」
「うん。そだよー」
「ここはダンジョンですよ……どうしてここに?」
「散歩」
「……え?」
混乱するのはわかる。
うん。
屋台の売り子が気楽に来る場所じゃないよね、ここ。




