143 閑話・冒険者ロックの買い物
俺の名はロック。
15歳の時から、かれこれもう7年は冒険者をしている。
大怪我で引退していた時期もあったが……。
あの夜――。
唐突に起きた精霊の祝福によって全快し、今では現役に復帰している。
クウとはその夜に出会った。
不思議な奴だった。
他では見たことのない空色の髪をきらめかせ、せっかくの整った顔を台無しにして能天気によく笑う。
自称は精霊。
そういえば最初の夜からそう言っていたな。
まあ、普通にハイエルフだろうが。
同じハイエルフの友達と、今は同居しているみたいだしな。
普通に、といっても、ハイエルフは貴族扱いされることもある存在だ。
普通に良家の娘なんだろう。
でなければ、帝都の一等地に店なんて持てるわけがない。
で、今……。
そんな良家の娘は、『ふわふわ美少女のなんでも工房』と名付けた自分の店で渾身の一芸を披露したところだった。
「どうでしょうか、ブリジットさん……? これが私の必殺芸、にくきゅうにゃ~ん、なのですが……」
「正面から構えて見る芸としては火力不足だね」
「そかー」
「でも、可能性は無限大」
「と言いますと?」
「思い出してみて。どんな時にウケてきたのかを」
「……うーん。そうだなぁ……。いきなりシルエラさんにやった時はウケたし、ダメダメではないと思うんだけど……」
「それが答えだよ。にゃーんは不意打ち武器。正面突破だけがお笑いじゃない。意外な場面で使うほど、きっと威力は倍増だよ」
「なるほど……。なるほど……。そうかぁ、考えてみれば、そうだったなぁ。要は使いどころですよね……」
「うん。そうだね」
「ありがとうございますっ! なんか、目の前のモヤが晴れた気持ちです!」
まあ、クウとブリジットのことはいい。
こいつらの談義は理解できん。
俺は犬のぬいぐるみが装備する武具を見ているルルとダズに声をかけた。
2人は俺の仲間。
ルルは弓や格闘を得意とする獣人族の娘。
ダズはハンマーを振るう巨躯の男だ。
「どうだ?」
たずねるとルルが答える。
「アタシが見る限り、大工房の上級品に匹敵するぞ、これ……。それがこの値札価格で注文可能って反則だろ……」
「そうだな。見事な作りだと感心する。本当にあの子が作ったのか?」
「本人が言うには、な」
ダズに問われて俺は肩をすくめた。
少なくともクウはすべて自作と言っている。
「これならアタシ、投擲用の短剣を10本はほしいね。あとせっかくだし、普段遣いの防具も更新しようかな」
「俺もそうしよう。ザニデアダンジョンのドロップ品には劣るが、このクオリティなら十分に実用に耐えうる」
「おい、クウ。一気に注文しても大丈夫なのか?」
俺がたずねても返事なし。
ブリジットと夢中でお笑い談義している。
しょうがないので首根っこを掴んで強引に連れてきた。
「もー。いいとこだったのにー。これからぬいぐるみ大喜利だったのにー。もーもー」
「おまえは牛か。それより商売しろ。注文だ」
「はいはーい。注文ねー。りょーかーい」
というわけで装備一式をみんなで注文することにした。
革製もオーケーとのことだったので、ルルは革の軽鎧を、俺とダズは鉄と革を組み合わせた動きやすい鉄鎧を。
あとは、ルルの短剣に俺の剣。
驚いたことに、ダズが愛用する戦闘用のハンマーも製作できるとのことだったので注文しておく。
ずっと黙ってオルゴールやランプを見ていたグリドリーも鉄の防具一式を発注した。
寡黙な男グリドリーは俺達のパーティーの盾役だ。
グリドリーは装備に加えて、オルゴールとランプとぬいぐるみも買った。
家族へのお土産だろう。
グリドリーは俺と同い年なのに、すでに結婚して子供もいる。
ブリジットは杖とローブ。
欲しがるだろうからノーラの分も注文した。
「納期はいつになりそうだ?」
「明日の午後でお願いー」
「はぁ?」
「あ、遅い? 朝の方がいい?」
「いや、早すぎだろ」
大工房でも1日じゃ無理だろ、6人分を揃えるなんて。
さすがに冗談が過ぎると俺は思ったが、クウは普通に話を進めていく。
「じゃあ、1人ずつ奥の工房に来てね。体のサイズを測らせてもらうね。そういえばノーラさんって、今更だけど今日はいないんだね」
「あいつは下級とはいえ貴族の娘だからな。今は忙しいんだよ」
Aランク冒険者パーティー『赤き翼』のメンバーは6人。
まずは、この俺。
パーティーリーダーで最強剣士のロック様。
加えて、大盾使いのグリドリー。
ハンマー使いのダズ。
斥候のルル。
水魔術師のブリジット。
そして、火魔術師のノーラだ。
「そうなんだー。何かあるの?」
「皇帝陛下の聖者騒ぎと派閥令嬢の聖女騒ぎと皇女殿下のデビュー騒ぎにタイミング悪く巻き込まれちまったみたいでなぁ……」
「……そ、そかー」
なぜかクウの顔色が変だが、こいつが変なのはいつものことか。
そして翌日。
再び店に行くと、注文通りの品が完成していた。
すべて見事な出来だった。
とても1日で仕上げたとは思えない。
商品を受け取って店を出る。
かなり多いので用意してきたリアカーに載せて運んだ。
いったい、クウって奴は何者なのか。
本当に不思議な奴だ。
口にしたところ、ルルに笑って受け流された。
「裏にエルフの職人集団がいるだけだろ」
「うーん……。そうなのかねえ……」
どうも俺は、クウが自分で言う通り、エルフだか精霊だかの力で、自分で作っているようにも感じる。
なにしろあいつが嘘を上手につけるとは思えない。
とにかく単純な奴だし。
「そうだな。あの子はハイエルフなのだろう? どれだけふざけていても身のこなしに生まれの良さが見える」
ダズはルルの意見に同意のようだった。
俺的には、「そうかー?」と眉をひそめてしまうクウへの高評価だったが。
いや、だってな。
ハイエルフなんだろうと、わかっちゃいるけどな。
でも、あいつ自身でだけ見れば……。
陽気で気楽な精霊さんでーす、と踊って笑っている姿のほうがしっくりくる。
自称は精霊だしな。
実はあいつ、最初から本当のことを言っていたのかもしれないな。
さすがにそれはないか。
精霊が普通に町で遊んでいるわけがない。
「そういやビディもよかったな。もしかして初めてじゃないか? おまえとお笑いのセンスが合うやつは」
「楽しかった」
「そっか。そりゃよかった」
「くくく……。私もさらに磨きをかけなければ……」
「ダンジョン内では頼むからやめてくれよ?」
ビディ、たまにダンジョン内でも平気で自分の世界に入るからなぁ。
いつも戻すのに苦労する。
一番に被害を受ける盾役のグリドリーが深くうなずいた。
さて。
まあ、正直、そのあたりはどうでもいい。
俺には更なる大問題があった。
今、俺のポケットに入っているものを、どうみんなに渡すか。
特にブリジットに。
実は帰り際、クウから強引に渡されたのだ。
もちろん断わった。
俺は断わったのだけど、友達の証だと言われれば受け取るしかなかった。
だってそうだろう?
断れば、まるでおまえは友達じゃないって言うようだし。
俺はこれでクウのことは気に入っている。
面白い奴だしな。
なので、受け取ったわけだ。
超強力な付与が込められた、6つの、真紅の指輪を。
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