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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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14 一芸コンテストに出る




 青空の中、私はふわふわと浮かんで進む。

 ああ、まるで、私は雲。

 雲だねえ。


 最初は銀魔法の『飛行』で飛んでいたんだけど、『飛行』の魔法には集中力が必要になる。

 集中力が途切れると魔法が消えて、墜落。

 死にかけた。

 MPもどんどん消費されて疲れるし、長距離移動は辛かった。


 逆に『浮遊』は楽だった。

 あっちに行こうと思えば、勝手にあっちに進んでいく。

 MP消費もない。

 ゆっくりと進む分、風も気持ちいい。


 というわけで、速度は遅いけど、私は空の上を完全にリラックスした寝転んだ姿勢で『浮遊』して進んでいた。


 あー眠い。


 もう寝ちゃおうかなーと思うんだけど、どうなるかわからないのでさすがに我慢している。


 いい天気だ。

 目を閉じると、陽射しの暖かさがちょうどいい。


 ああ、アシス様。


 私、ふわふわしていますよ。


 仕事、立派にやっています。


 一緒に出かけた最後の旅、楽しかったですねー。


 私、また旅していますよ。


 またいつか。


 一緒に旅、しましょうね。



 ――また、いつか



 どこかから、遠くから、アシス様の声が聞こえた。

 優しい声だった。

 気のせいかも知れないけど。


「……ここ、本当にいい世界ですよ、アシス様。

 嫌なやつもいたけど。

 綺麗な、いい世界――」


 いかん、本格的に眠い。


 私は頭を振って、地面のほうを見ることにした。


 お。


 城郭都市があるっ!


 それなりに見えるくらいに降下。


 広場に人が集まっているね。


 なんだろ?


 『透化』して近づいてみると――。


 お祭りだ!


 屋台がたくさん。

 ステージもある。


 やっほう!


 私は地面に降りて、木陰で『透化』を解いた。

 屋台からいい匂いが広がっている。


 早速、屋台巡り。


 鹿の肉串、美味しそうー!

 キノコ汁、芳醇な香りがいいねー!


 たくさんの恵みがあるみたいで山の幸がいっぱいだ。


 何か買ってみようかな。

 お金なら少しあるし。


 でも、少ししかないんだよなぁ。


 お。

 焼きトウモロコシがある!


 昔、好きだったんだよねえ……。


「ねえ、アンタ」


 んー。


 でも、我慢だなぁ……。


「ねえ、アンタ」


 ああ、いいなー。

 美味しそうに食べている人たち。


「ねえってば!」

「ん?」


 肩を掴まれたので振り向くと、仕立ての良いシンプルなドレスを着た赤毛の女の子がいた。

 可愛いけど、なかなかに勝ち気な感じの子だ。


「私?」

「もう、さっきから声かけてたのに」


 ぷりぷりと怒ってくる。


「知らないよー」

「知ってるのっ! 私がっ!」

「で、何?」

「アンタも出るのよね? ライバルになりそうだから、レディとして挨拶しておこうと思ってね!」

「何に?」

「一芸コンテストの未成年部門。出るんでしょ?」

「ううん」

「出ないの?」

「うん」


 さっき町に来たばかりだし。


「そんなにおめかししているのに?」


 まあ、精霊の服は可愛いけどね。

 作りも完璧だし。


「もったいないっ! ほら、行くわよっ!」

「どこに?」

「ねえ、名前は?」

「クウだけど……」


 引っ張られるままついていくと、女の子によって勝手に一芸コンテストにエントリーされた。


「これでライバルねっ! 私、アンジェリカ・フォーン。アンジェって呼んでいいわよっ!」

「ねえ、アンジェ」

「なーに?」

「ライバルなんて少ないほうがいいと思うんだけど」

「バカね。そんなので勝ったって意味ないでしょ。私は強い相手と戦って人生を切り開いていくの」


 ものすごく勝ち気だけど、悪い子ではなさそうだ。


「よろしくね、クウ! 正々堂々と戦いましょ。たぶん、一騎打ちねっ!」

「コンテストって何をするの?」

「歌ったり踊ったり、好きな自己アピールね。私、こう見えて魔力持ちなの。少しだけど、もう魔術だって使えるのよ。コンテストで見せてあげるから、びっくりするわよー?」

「学校で教えてもらったの?」

「ううん。私、まだ11歳だし。帝都の学院には来年から。おじいちゃんに教えてもらったの」

「へー」

「私、この町で最高の魔術師、水魔術の天才にして精霊様の伝道師、ラルス・フォーン神官の孫なのよ!」

「そうなんだー」

「……アンタまさか、おじいちゃんのこと知らないの?」

「私、さっきこの町に来たばかりなんだよ」

「そうだったんだ。どこから来たの?」

「帝都だよ」

「へー! クウって帝都の人なんだ! よかった友だちになって! 私、来年から帝都に行くからよろしくね! 帝国中央学院っていうところに行くんだ!」

「うん。来たら案内してあげるよ」

「ありがとう! 嬉しい!」


 元気だなぁ。

 うん。

 とっても元気な子だ。


 手を握ってぶんぶんと振られて、痛かったよ。


 なんにしても、学院って12歳からなんだね。

 エミリーちゃんは8歳だし行けたとしてもまだ先だけど、皇女様なセラは通ったりするんだろうか。


 ちなみにここは城郭都市アーレというらしい。

 ローゼント公爵が治める、帝都ファナスに次ぐ第二の都市なのだそうだ。


 さあ。

 というわけで。


 コンテストに参加することになった。


 テントで待機。


 くじ引きで順番を決めて、1番の子から出ていく。


 参加者は16名。


 みんな着飾って、やる気満々だ。


 ちなみに私は16番。

 トリだった。


 アンジェは15番。

 私のひとつ前だ。


 会場は大いに盛り上がっている。

 テントからもステージの様子は見ることができる。

 1番の女の子が楽しそうにステップを踏んでいた。


 私は何をしようか。


「ねえ、帝都ってどんなところ? 人がたくさんいるのよね?」

「ごめん思考中。私はやることを決めないといけない」

「早く決めなよー」

「いきなりは無理」

「もー」


 目立つことは避けたい。

 でも、せっかく参加するのなら少しは驚かせたい。

 幸いにもトリなので時間はある。


 私はユーザーインターフェースからメニューを開いて、いろいろと項目を見てみた。


 何かないかなぁ……。


 あ、これでいいか。


 いいものを見つけた。


 エモート。


 実行すると体が勝手に動いて、いろいろな動きをする。

 ダンスや空手の型を覚えることができるので、一部で人気だった。


 でも、ただのダンスや型では面白みがない。


 これだな。


 決めた。


 私は実行委員のお兄さんに、剣がないか聞いてみた。

 木剣でもいいけど。


 お兄さんはいい人だった。

 広場には衛兵もいたけど子供に本物の剣は貸せないということで。

 わざわざ冒険者ギルドまで走って、木剣を借りてきてくれた。

 ありがとう。


「ふうーん、剣で私の魔術と勝負するってわけね」

「うん」

「剣、振れるの?」

「軽いやつなら得意だよ」

「私の後だから、盛り上がらなかったらゴメンね」

「ふふーん。どうかなー」

「自信ありげね。そういうの大好きっ! 楽しみになってきたわ」


 さあ、アンジェの番が来た。


「私がただの美少女じゃないってところ、見せてあげるっ!」


 アンジェが堂々とステージに上がっていく。


「がんばれー」

「任せてっ!」


 楽しみだ。

 なにしろこの世界の魔術を見るのは、これが初めてだ。

 魔術師は希少な存在のようだし。


「さあ、続きましてはエントリーナンバー15!

 あのフォーン神官の孫娘!

 アンジェリカ・フォーンちゃん、11歳!

 なんと!

 今日は火の魔術を披露してくれるとのことです!

 私も見たことがないので大いに期待!

 張り切ってどうぞー!」


 司会のお姉さんがノリノリでアンジェを紹介する。


「みんな、見てね! 私の魔術!」


 アンジェが腰のベルトからワンドを外す。

 ワンドを両手に持って、胸の前で掲げ、目を閉じる。


「――我が内に流れる魔力よ。

 我が内よりいでて、赤き火の力となれ。


 サイル・イルメシア・ソル・フレイス


 現われよ!

 輝け!

 ファイヤーアロー!」


 アンジェがワンドを突き出す。


 おお。


 ワンドの先から発生した火の矢が空へと飛んでいく。

 会場が盛り上がる。


「ありがとー!」


 アンジェは会場に手を振って、最後に優雅に一礼、テントに戻ってきた。


 私は拍手で出迎える。


「どう?」

「魔術、初めて見た」

「ふふーん。すごいでしょー」

「うん。呪文を唱えるんだね」

「そうよ。精神を集中させて体の中の魔力を収束して、定められた呪文でそれを形に変えて外に出すの」

「ちゃんと理屈があるんだね」


 考えてみると私の魔法。

 なんの理屈もない。


 さて、次は私だ。


 呼ばれてステージにあがる。

 大観衆が待っていた。


「さあ、最後に登場するのは帝都からのお客さまっ!

 空色の髪の女の子!

 クウちゃん、11歳ですっ!

 今日は剣を使った技を披露してくれるとのこと!

 楽しみですねー!」


 たくさんの視線にさらされるの、思ったよりずっと緊張する。


「えっと、クウです。よろしくお願いします」


 自分でやるならカチコチになってしまいそうだったけど、今回はエモートを実行するだけなので楽勝だ。


 実行。


 刃の先を下にして、木剣をステージに立てる。

 私は跳躍。

 剣が倒れるよりも早く剣の柄の上に着地。

 両腕を天に掲げて、静止。


 そのままもう一回ジャンプして、くるっと身を返して、今度は逆立ちの姿勢で片手で体を支えて柄の上に静止。

 もう一方の腕を横に伸ばして、ゆっくりと両足をVの字に広げるっ!


 どうよー!


 お気に入りだった大道芸エモート。


 ふふ。


 会場は静かだけど、みんなびっくりしているんだよね。


 わかるわかる。


「あのクウちゃん……?」


 横にいた司会の女の人が声をかけてくる。


「どやー!」


 私は剣の上で逆立ちしたまま、笑顔で答えた。


「女の子がね、こんな大勢の人の前で……。

 大胆な格好をしちゃうのはよくないと思うよ……?

 ほら、みんな困ってるよね?」


 え。


 私は剣から降りて、普通に立った。

 スカートをきちんと正す。


 そうか。


 私はスカートだったね。

 ゲーム時代はショートパンツでいることが大半だったし、ゲーム時代にはスカートには重力がなかったので、まったく気にしていなかったよ。


 変なヤジを飛ばしてこないあたり、この町の人も倫理観、高いね。

 お酒、飲ましてもらえなさそうだ。


 うん。

 帰ろ。


 私は一礼してテントに戻った。


「……ねえ、アンタ。あんな決めポーズ、恥ずかしくないの?」

「言わないで」


 お願い。


 結局、優勝したのはアンジェだった。

 賞金は銀貨1枚。

 そんなにもらえるんだったら、もっと頑張ればよかった。


 最後にみんなでステージに上がってご挨拶。

 真ん中に立つのはアンジェだ。


 多くの声援が優勝したアンジェに送られる。

 私にも少し声援があった。


「君もすごかったぞー! パンツの子ー!」

「そうだな! パンツの子もよかったぞ!」

「パンツの子ー!」

「パンツの子ー!」


 やめて。


 次にステージでは、大人部門が始まる。


 私たちはこれで解散。


「ねえ、賞金で奢ってあげるからカフェに行きましょっ」

「いいの?」

「ええ。行きましょ」


 なら遠慮なく。

 手を取られて私はついていった。


「あ、パンツの子だ」


 って子供!

 指を指すな!


「……アンタ、優勝した私より有名になったわね」

「言わないで」


 お願い。


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[一言] パンツの子だー!
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