1381 閑話・ナオは告白されて/閑話・アンジェリカは祝福されて
★閑話・ナオは告白されて
あまりに突然のことに、私はしばらくの間、完全に止まった。
だって、有り得ないことだ。
私はナオ・ダ・リム。
銀狼族にして、ド・ミ新獣王国の戦士長。
恐れられる存在。
ラブなんて……。
愛しているなんて言われる立場にはない。
ただ、ここは帝国。
新獣王国ではない。
帝国庶民の間では、ナオ・ダ・リムの名は知られていても、その姿は銀狼族ということくらいしか知られていない。
熊より大きな若い男という噂が存在するくらいだ。
だからもしかしたら……。
私のあまりの可愛さに我慢できず――。
思わず叫んでしまったのかも知れない。
だって今の私はカメ。
カメの帽子とカメのリュックは、我ながらとてもよく似合っている。
とてだ。
ただ残念ながら、服はカメではないけど。
服までカメにしてしまうとさすがに悪目立ちがすぎるとユイに諭されたので、服は普通の女の子のものにしている。
カメラブ。
なんて直線的で情熱的な言葉なのか。
私は男の子の叫びを思い出して、ほんのりと感動した。
ただ、時間が少し過ぎて、少し冷静になる。
カメラブ。
つまりそれは、私の帽子やリュックが素敵だと言ったのかも知れない。
告白ではなかった可能性がある。
考えていると――。
先程の男の子が両手にアイスクリームを持って帰ってきた。
「ごめんね! おまたせ! はい、どうぞ!」
男の子がアイスクリームを渡してくる。
せっかくなのでいただいた。
男の子の手には、もうひとつ、アイスクリームが残っている。
「ありがとう。一緒に食べる?」
なので確認のためたずねた。
「しまった。急いでいたから、反射的に君と僕の分を2つ頼んでしまったよ」
「一緒に食べよう」
「そうかい? それなら、せっかくだし」
私たちは脇のベンチに座った。
木漏れ日が優しく照らす、人波から少し離れた居心地の良い場所だ。
「さっきのは私? それとも帽子? それともリュック」
私はさっそくたずねた。
「え?」
「気になるから確認する」
「えーと、それは……」
男の子は戸惑った顔を見せる。
「大きな声で叫んで、今更恥ずかしがるのは反則」
「と言われても……」
「もしかして全部? そんなのは贅沢」
「贅沢かぁ」
男の子がアイスクリームを食べる。
返事はもらえていないけど、私も仕方なく食べた。
「あ、そうだ。僕はカエル」
「カエル?」
「そう。君は?」
「私はカメ」
「カメ?」
「そう」
「そうか。見た目通りだね」
「カエルは、見た目通りじゃない」
「僕は学院生だしね。そりゃ、学校では制服を着ているよ」
なんと、男の子はカエルだった。
びっくりした。
ただ、カエルなら理解できる。
なぜなら、カエルとカメは池や川で仲良くしている。
私は思いきって自分から聞いてみた。
「カメラブ?」
「ああ、もちろん僕はカメラブさ」
「やっぱり」
そうなのか。
私のことが好きなんて、物好きなニンゲンもいたものだ。
「もしかして、武闘会を見ていてくれた?」
「見ていない」
武闘会の時間も、私たちは中庭での出店やイベントを楽しんでいた。
お笑いコンサートは合わなくて、散歩することにしてしまったけど。
「なのに、僕がカメラブってわかったんだ? カメとは、以前にどこかで会ったこととかあったっけ?」
「ない。叫んだから」
「そうか。それはそうだね。ははは」
笑った後、なぜか男の子は元気をなくした。
「どうしたの?」
「僕はこれでもね、ついさっき、武闘会の本戦で見事に優勝したんだ」
「それはすごい。おめでとう」
「ありがとう。でもね、その後の王国学生との対抗戦を見て、もうね、あまりの自分のレベルの低さにガッカリして。ああ、僕は、本当に小さな世界にいて、小さなものしか得ていなかったんだなって、思っちゃってさ」
井戸の中にいたのね。
カエルだけに。
と、私は思ったけど、さすがに口には出さなかった。
王国学生との対抗戦は、ローズ・レイピアとクウの友人たちとの試合。
普通の学生とレベルが違うのは当然だ。
気にする必要はない。
とも私は思ったけど、それも口には出さなかった。
「カエルはカメラブなら、カメに頼るべき」
「カメ?」
「実は私も、少しくらいはカメラブがほしいと思っていた。人生は一度きりなんだから何でも挑戦したい」
正確には、私の人生は二度目だけど。
一度目の人生では、ラブな青春はまるでなかった。
クウとユイとエリカと、四人でワチャワチャ過ごす内に大学生になって、泥酔して気づいたら死んでいた。
二度目の人生でも、ラブな青春はまるでなかった。
生きるだけで必死だった。
ただ幸いにも、二度目の人生は、まだ青春も始まったばかり。
新獣王国ではとても無理だけど。
遠く離れた異国ならば。
できるなら、一度くらいはやってみてもいい。
「でもちょっとだけ待ってて」
「ああ、いいけど……。どうしたんだい?」
アイスクリームを食べ終えて、私は立ち上がった。
「友達に挨拶だけしてくる」
「え。うわっ!?」
私は全力で走って、マリエのところに行った。
全力過ぎて、ちょっとまわりに風を撒き散らしてしまって、迷惑をかけてしまったかも知れないけど。
マリエはユイと図書館にいた。
「マリエ」
「ナオさん! よかった来てくれたんだね!」
「今日はありがとう。またよろしく。カメはラブするのでこれで」
「ラブ? それっていったい――」
「ユイ、私も青春を楽しむ。お互いに頑張ろう」
「うん。頑張ろうね」
「って、二人とも何の話を」
「じゃ」
私はカエルのところに戻った。
「ただいま」
「お、おかえり……。なんか、すごかったね……」
「さあ、行こう、カエル」
「どこに?」
私は転移した。
生まれて初めてのデート先は、カエルの希望通りにした。
もちろんダンジョンだ。
強くなれる。
初めての青春、私も楽しもう。
* * *
★閑話・アンジェリカは祝福されて
私、アンジェリカ・フォーンは見事に勝利した。
そして控室で、友人たちから祝福を受けていた。
「おめでとう、アンジェ。高速戦闘での見事な魔力制御、恐れ入ったよ」
「ありがとう、スオナ。ギリギリだったけどね」
「本当にすごかったですよ! わたくし、感動しました!」
「ありがとう、セラ」
「戦いの中でアンジェちゃんの思い、わたくし、確かに感じました。あれこそまさに、クウちゃんだけに、くう! ですよね。クウちゃんだけに、くう! クウちゃんだけに、くう! クウちゃんだけに――くう!」
「そ、そうね。はは」
なぜいつも三回は言うのか。
一度でいいのに。
とりあえず祝福なので受け取ってはおくけど。
そのクウは、真っ先にお祝いをしていくらか会話をした後、なにやら神妙な顔つきへと変わっていた。
「クウ、どうしたの?」
「あ、ごめんね、アンジェ。お祝いの最中で」
「それはいいけどさ。どうしたの? 悩み事なら言ってよ」
「いやー、大会の優勝者の名前、大歓声だったし、さっきはちゃんと聞いてなくてさ。あらためて聞いて驚いちゃって」
「カメラブ先輩?」
「そ」
今回の大会の優勝者は、カエル・フォン・カメラブ。
騎士科の五年生の先輩だ。
「ナオがいなくてよかったなーって」
「どうしてって……。カメだから?」
ナオさんは、カメをとても好んでいる。
それは知っている。
「カメラブとか聞いたら、自分のことと勘違いして、とんでもない暴走とかするんじゃないかと思っちゃってね」
「あはは。なにそれ。いくらなんでもないでしょ」
「そうですよ。さすがにそれは」
私の言葉にセラが同意して、さらにスオナも「そうだね」とうなずいた。
「それはそうか。だよね。それに、そもそもいなかったわけだし」
クウはすぐに納得したようだ。
「ねえ、ところで、クウとセラは明日の用事はどう? 久しぶりにさ、みんなで集まって何か食べない?」
「んー。どうしようか、セラ」
私が提案すると、クウはセラの方に顔を向けた。
するとセラが頭を下げてくる。
「ごめんなさい、アンジェちゃん。実は明日は、クウちゃんに武技を教えてもらうお願いをしていて。わたくしとしては、そちらを――」
「ちょっと待って! クウから武技を教えてもらうの!?」
「はい。今日の試合を見て――」
「それならそうと言ってよ! もちろん私もいいでしょ!?」
「はい。それはもちろん――」
「僕もぜひ。参加できるのなら、機会は逃せないよ」
セラとクウは快く了承してくれた。
というか、誘ってよね!
と怒りかけたくらい、それは魅力的な話だった。
私も覚えたい!
と丁度思っていたところなのだ。
でも、まあ、参加できることになったから、よし!
私は上機嫌に集合場所と時間を確認するのだった。




