138 激闘! ロックvsボンバー!
「さあ、いよいよ始まりです!
カウント5から始めて、0でスタート!
みなさん、ご唱和をお願いします!」
5!
4!
3!
2!
1!
「スタート!」
運命の戦いが始まった。
観衆の注目はもちろん、ロックさんとボンバーだ。
私もこの2人を中心に実況していく。
まずはボンバー。
大きな口にものを言わせた、とにかく押し込め作戦。
もう力ずく。
ヤケクソのような食べ方だ。
押し込めて、押し込めて、顎の力にものを言わせて数を重ねていく。
次にロックさん。
意外にもスマートな食べ方をしている。
無理なく口の中に入れて、咀嚼。
水を飲む。
無理なく口の中に入れて、咀嚼。
水を飲む。
瞬発力で言えばボンバーの方が圧倒的で、序盤3分の時点では、これはボンバーの圧勝かという空気もあったけど……。
中盤に進むに連れ、一定のスピードでテンポよく食べ進めていくロックさんが次第に差を詰めていった。
逃げのボンバー!
差しのロック!
会場は2人の激闘に煽られ、大いに盛り上がった。
ロック! ロック! ロック!
爆発! 爆発! 爆発!
コールが響き渡る。
「さあ、時間は6分を過ぎて、残り4分! 中盤戦から終盤戦に入ろうとしている! 果たして競り合いを制してトップを飾るのは爆発野郎のボンバー選手か! はたまたAランク冒険者ロック選手かー!」
私も実況者として全力で2人の戦いを煽った。
「2人ともさすがにペースは落ちてきていますが未だ手と口は止まらず! ここから先は胃袋だけでなく精神力がものを言う! さあ、心を燃やせ! 体を燃やせ! すべてをエネルギーに変えて食べろ! 食べ尽くすのだ! フードの若きアスリート! 早食いの世界が今ここに幕を開ける! 新世紀! 新時代! 新しい戦いが! 記念すべき第一回大会の結果が、あと少しで出ようとしている!」
ロック! ロック! ロック!
爆発! 爆発! 爆発!
「さあ、残り時間3分! 現在、ボンバー選手が10皿! ロック選手も10皿! 最後に来てついにロック選手がボンバー選手を捉えた! さあ、どうなる! どうなってしまうのか! この戦いは辛さと甘さの戦いでもあります! ホットドッグは辛く、ロールは甘い! 早食い大会ということで辛さレベルは1! 姫様ドッグとしてはもっともマイルドになっておりますが辛さは蓄積する! それをいかに! ロールで薄めるのか! はたまた水の力を借りてごまかしていくのか! その駆け引きも勝負の見どころ! 皆様もぜひ、この戦いが頭脳戦でもあることを刮目してご覧ください!」
大盛りあがりの中、誰かが私の背中を叩いた。
スタッフの1人だ。
「……どうしたの?」
邪魔しちゃダメだよ。
今いいところなんだから。
「……横を見てください。……ビディです」
「ん」
ビディとはブリジットさんの愛称だ。
おや。
え。
「おおおおおおおっと! これは大変に失礼しましたぁぁぁぁぁぁ! 伏兵です! 伏兵がこの大会には潜んでいました!」
なんとブリジットさんが、今、9皿目を食べおえた。
10皿目のホットドッグを手に取った。
「ローブの女性! ビディ選手が今、なんと、10皿目に突入! 申し訳ありませんでした! 中盤の段階では目につく記録ではなかったため、確認が遅れてしまいました! これで3人がトップに並んだ!」
ブリジットさんは、手に取ったホットドッグをすぐには食べなかった。
まずはソーセージを取り出す。
そして、そのソーセージを2つに折ってから、口の中に入れた。
こ、これは……。
私は戦慄した。
ブリジットさんはソーセージを食べ終わると、今度は水と共にパンを食べ始めた。
私は、この食べ方を知っている。
これは前世で、ホットドッグ早食いの世界において、「ソロモンメソッド」と呼ばれた食べ方だ!
ホットドッグをホットドッグとしてではなく、ソーセージとパンとして食べる。
それによってホットドッグは大幅に食べやすくなるのだ。
まさかこの異世界で。
この食べ方を見ることになるとは……。
ブリジットさんはこれを戦いの中で、
自力で見つけ出し、
そして実践したというのか――!?
「残り1分! 追込! まさかの追込が! 屈強な冒険者2人を向こうに回して、1人の女性によって成されようとしているぅぅぅぅぅ!」
ブリジットさんのことは、中盤まではちらちらと見ていた。
その時にはこんな食べ方はしていなかった。
ゆっくりと、マイペースで、食べていただけだった。
故に勝利はないと思ったのだ。
「まさに革新! 新時代の到来をまさに思わせる! 新メソッド! 卵を立てるような発想の転換による新たなる食べ方によって! 今、革命が起きるのか!」
ブリジットさんが加速していく。
対するボンバーとロックさんは、もはや限界のようだ。
ペースは上がらない。
むしろ落ちていく一方だった。
「止まらない! 止まらない! ホットドッグからソーセージを抜いて、食べる。そして水と共にパンを食べる! 食べる! そして、姫様ロールへと突入! 女性にとって甘いものは別腹! まさに別腹のようにパクパクと食べる! そして、完食! 13皿目が運ばれてきたところで――」
ピピー!
高らかに笛が鳴り響いた。
「終了――! 勝者! ビディ選手! ダントツ、12皿完食!」
屈強な冒険者2名を抜き去って優勝したのだ。
思わぬ結果だったけど、会場からは惜しみない祝福の声が届いた。
私もすっかり興奮してしまって、思わず叫んでしまった。
「歴史が!
早食いの歴史が!
今、ここに!
この帝都広場から――。
始まったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……なんだそりゃ。……あー、気持ちわるぅ。……なんにしてもあの野郎が負けたんならそれでいいわ」
ロックさんが力なくつぶやく。
「だねー」
ボンバーの優勝は阻止できた。
しかもブリジットさん自らの手によって、だ。
「……こ、この私が負けるなんて」
ボンバーは愕然としていた。
まあ、気持ちはわかる。
まさか小柄な女性が、ここまで食べるとは思ってもみなかっただろう。
さあ。
表彰式だ。
ブリジットさんのほっぺに私がキス。
ブリジットさん相手なら、喜んでしちゃうよ!
わーっと盛り上がったところで、終了。
みんな解散。
すぐにテーブルを元に戻す。
急いで営業を再開しないといけないので大わらわだ。
「ふう。疲れたぁ」
屋台の前に出来る行列を眺めつつ、私は息をついた。
隅でしゃがみこむ。
思いっきりしゃべったから、本気で疲れたよ。
「おまえ、恐ろしい勢いでしゃべってたよなぁ……。司会者の才能あるぞ……」
となりにロックさんがしゃがんだ。
「まあねー」
「……おえっぷす」
「ちょ。吐かないでよ私の近くで!?」
ホントにやめてね!?
「……おまえなぁ。せめて背中をさするくらいの優しさを見せろ」
「えー。やだよー」
「……あー。やべ、気持ちわるぅ」
「まあ、あんだけ一気に食べればそれはねえ」
「やらせたのは誰だ……」
「しょうがないじゃん。大切なパーティーメンバーのためでしょー?」
「……おえっぷす」
もう。
しょうがないので背中をさすってあげた。
ブリジットさんは着替えて、すでに仕事を始めていた。
激闘の後なのに普通に元気だ。
すごいね。
元のタイトルは「精霊はふわふわするのが仕事です」です。
今更なのですが、よりわかりやすさを目指してタイトルとあらすじをいじっています。
迷走している気もするので、元に戻すかもですが><
あと今日は、夜にも閑話をアップしようと思っています。
よかったら見てやってください。
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