137 負けられない戦いがここにある
「……一応、言っておくが、俺たちはパーティー維持のために、パーティー内で恋愛はしないようにしているんだ」
「そかー」
わかるな?
と、ロックさんが怒ったような顔で私に言ってくる。
「でも、そうなっちゃったものはしょうがないよね?」
「ロック! やっぱりおまえっ!」
「だあぁぁぁぁぁぁ! だから、ないっておやっさん! おい、クウ! おまえ、ふかしこいてんじゃねーぞー!」
「ふかしってなーに? 私、芋じゃないよ? クウちゃんだよ? 例えるなら、今にも咲きそうな花のつぼみ?」
ここですかさずつぼみになってみる。
手のひらで顔を隠す。
「あ、今。咲いたよっ♪」
笑顔と共に手のひらを左右に広げる。
「だあぁぁぁぁぁぁ! こんな時に一発芸かよ! 面白かったぞこのやろー!」
「でしょー? ねーねー、何点だった?」
「……はぁ? 0点に決まってるだろ?」
思いっきり冷めた声で言われた。
「え。嘘だよね?」
「本当だが? おまえは0点だ」
「そんなバカな」
私は四つん這いに倒れた。
その横でロックさんがブリジットさんを呼ぶ。
ブリジットさんは来たものの、
「ご注文、順番が来たらおうかがいしますね♪」
と微笑んで、また行ってしまった。
さすがだ。
「……嗚呼。やはり可憐だ。まさに野に咲いた一輪の花……」
その笑顔に見惚れるのはボンバーだ。
「私はこの運命を……。捨てることはできない……。彼氏さん――少しだけ彼女さんのことでお話をいいですか?」
「だから俺は彼氏じゃねーって!」
すかさずロックさんが否定する。
「そういう嘘は結構です。この私を恐れてしまう気持ちはわかりますが……」
「はぁ? おい、誰が誰を恐れたって?」
「貴方がこの私にです。見たところ、貴方も冒険者のようですが、いかんせん私と比べれば小柄。無理もありません」
ボンバーはロックさんのことを知らないみたいだ。
「てめぇ、やる気か?」
あ。
ロックさん、怒っちゃった。
「ほほう。腕力で雌雄を決するというのですか。いいでしょう」
ボンバーもやる気だ。
これはいかん。
なにしろここは平和な屋台のお店。
喧嘩はご法度だ。
仕方がないので、私が間に割って入った。
「まーまー、2人とも落ち着いて。ここは喧嘩をする場所じゃないよ? 勝負をするなら平和にいこうね」
「ほほう。と、言いますと?」
「決まってるでしょー!」
そう。
こんな時、勝負といえばこれしかないよね!
「さあ、みなさん!
お聞きください!
唐突ですがやってまいりました!」
まずはみんなに、これが喧嘩じゃないことをアピール。
通報されないようにね。
私、かしこい。
「第1回! 姫様ドッグと姫様ロール、早食い選手権! 優勝者にはなんと、誰かからキスが贈られるかもしれない!」
「おおおおおお」
キスという言葉を聞いてボンバーが燃え上がる。
「さあ、参加者は先着10名! ただいまエントリーは2名! さあさあ、我こそはと思う食の戦士よ! 集え!」
「……おい、クウ。何を勝手に」
「あ、ロックさんはもうエントリー済みだから安心して。ブリジットさんを取られないように頑張ってね?」
「いや、だからな。だいたいおやっさんに迷惑だろうが!」
「俺は構わんぞ?」
「おやっさん!?」
「お嬢さんが仕切ってくれるんだよな?」
「うん。任せて!」
「なら任せるよ。どうせ好き勝手されるなら、イベントの方がマシだし……」
「私は早食い勝負で構いませんよ? 貴方は怖いなら逃げることです」
ボンバーがロックさんを挑発する。
小馬鹿にするように笑った。
「逃げるだと……。おもしれぇ、やってやろうじゃねーか」
かくして決定。
早速、テーブルのセッティング。
屋台では大会用のホットドッグとロールを大量に作ってもらう。
あわせて参加者の募集。
普通にお客さんのいるところでやっているから、本当にもう大忙しだ。
まさに目が回る。
「みんな、がんばろー!」
私は明るく声をかけつつ機敏に働いた。
ホットドッグも作った。
そして――。
10人目の参加者が申し込みをしたところで、準備は整った。
営業はいったん停止。
参加者たちが横に並んで座る。
目の前には、まずは1つずつの姫様ドッグに姫様ロール。
あとは水。
ルールは簡単。
10分の間にたくさん食べた人の勝ち。
姫様ドッグと姫様ロールは、両方、同じ数を食べていかなくてはダメ。
さあ。
「みなさま、お待たせいたしました! これより記念すべき第1回! 姫様屋台早食い選手権を開催いたします!」
司会はもちろんこの私、クウちゃんだ。
「参加者はこの10名! まずは盛大な拍手をお願いします!」
中には、イベントなんていいから早く売ってくれという人もいたけど、大多数の人は面白がって拍手をしてくれた。
おい、あれ、ボンバーとロックじゃねーか?
ほんとだ。
あいつら何やってんだ。
ボンバーがんばれよーやっちまえー!
爆発! 爆発!
爆発! 爆発!
ロックー!
見た目だけの野郎なんかに負けるんじゃねーぞー!
一流の力を見せてやれー!
ロックさんとボンバーに観客から声援が送られる。
声援の量は互角だ。
実績でいえば圧倒的にロックさんなんだろうけど、ボンバーはとにかくパフォーマンスが派手だからね。
今も声援を受けて、立ち上がってマッスルポーズを決めている。
普通の市民な参加者さんにも、家族や友達から声がかかる。
いいね。
盛り上がってきた。
最後の参加者――。
深くローブをかぶった魔術師の女の子だけ、まるで影みたいに沈んでいたけど。
「……私は食べる。
……略して、わたべ。
……わー食べるんだ。
……るんるん」
いつの間にか着替えたブリジットさんが参加していました。
登録名が愛称のビディだったので、気づくのが遅れた。
となりに座るのは偶然にもボンバーだ。
そのボンバーが心の底からうんざりした顔でため息をつく。
「……申し訳有りませんが、となりの貴女。
そんな辛気臭くつぶやかれたら、こっちの気が滅入ります。
やめてくれませんかねえ?」
言われて、ブリジットさんは何もしゃべらなくなった。
はい。
ボンバーの恋はおわりました。
さようなら。
そして私も怒ったよ?
ボンバーのやつ、名前だけじゃなくて頭の中も爆発してるんじゃないのか?
至高のセンスを前にして辛気臭いとはなんだ!
万死に値する。
しかし、今すぐぶっ飛ばしてやりたいけど、ぐっと我慢。
これから大会なのだ。
いきなりぶち壊すことはできない。
幸いにもロックさんは、ボンバーに負けじと観客の声援にノリノリで応えていて今の言葉は聞いてなかった。
聞いていたら大乱闘になっていたかも知れない。
ロックさん、仲間を大切にしていそうだし。
これはもうロックさんに勝ってもらうしかないね!
負けられない戦いが、ここにはある!




