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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍化】  作者: かっぱん


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1369 閑話・はぐれ狼オム、帝都立志編2






「いいか、野郎ども。今からこの俺、オム様がドアを開ける。ドアに罠があっても俺が受けてやるから、テメェらは気にせずなだれ込め。奪えるモンは奪えるだけ奪って金持ちになろうぜ。時間はある。慌てすぎるなよ。丁寧に冷静に探せ。本当に高価なモンは奥に隠してあるのが常だからな」


 俺はオム。

 はぐれ狼のオム。


 今は適当に集められたチンピラ集団の臨時のボスとして、これから襲撃をかける店の裏口のドアを開けようとしている。

 作戦は簡単だ。

 裏口から忍び込んで、家の連中は殴って脅し、奪えるモンは金でも魔道具でも骨董品でも何もかも手に入れる。

 後は好きに散って、おさらばだ。


 俺は、それとは別に重要な仕事を仰せつかっているが。

 なのでチンピラどもには、あまり慌てさせず、それなりに時間をかけて、じっくりと家探しさせるつもりだ。


 その間に俺は、店の先代が密かに隠し持っていた呪具「支配の首輪」を手に入れる。

 そして、依頼者である男に渡すのだ。

 それで俺は認められる。

 ファミリーの一員となれるのだ。

 呪具の隠し場所は聞いている。

 なんの問題もなく、手に入れることはできるはずだ。


「やってやるさ……。簡単なモンだ」


 俺はつぶやき、同時に気持ちを引き締め、店の裏口のドアを開けた。

 ドアに罠はかかっていない。

 さあ、侵入だ。


 俺はチンピラどもにつづいて、足音を立てず、最後に真っ暗な室内に入った。


 すると――。


 突然、部屋に明かりが灯った。


 俺たちがいるのは、広々とした食堂だった。

 まるで貴族の屋敷にあるような……。

 外から見た店の大きさと比べて、不自然すぎるほどに広くて、一体、俺たちはどこに来たのかと戸惑った。


「ようこそいらっしゃいました。皆様」


 食堂の奥にいた若い女のメイドが、俺たちに丁寧なお辞儀をしてくる。

 いかにもかわいいだけが取り柄のような、金髪碧眼の娘だった。

 俺は一瞬、ドキリとした。

 なぜならそのメイドの顔には見覚えのある気がしたからだ。

 だが、俺の知っている「それ」とは髪色も目色も違うし、何より魔王と呼ばれる存在がメイドなんてしているはずがない。

 なので俺は、怯える気持ちを必死に押さえた。


「ようこそなのー!」


 メイドの横には、まだ5歳を少し越えた程度にしか見えない幼い娘がいた。

 見るからに良家のお嬢様だ。

 黒いドレス姿だった。

 そして……。

 高そうなアクセサリーをいくつも身につけている。

 この娘を身ぐるみ剥がすだけでも、俺たちは大金持ちになれる。


 さらに食堂には、たくさんの高価そうな調度品があった。

 仕事は十分にできそうだった。


「さあ、皆様。どうぞテーブルの席にお座り下さい。すぐにディナーを始めさせていただきますわ」


 メイドが俺たちに着席を促す。


「……なあ、どうする?」


 予期しない事態に、チンピラたちが戸惑いの声を漏らす。


「……バカかテメェらは。まわりを見ろ。宝の山だぞ。世間知らずの小娘を蹂躙して何もかも奪いつくそうぜ」


 俺は小声でチンピラどもを叱咤する。

 チンピラたちは、すぐにやる気を取り戻した。


「こんやのメニューは海いっぱいなのー! きっとよろこんでもらえるのー!」


 両腕をあげて、お嬢様が無邪気な笑顔を俺たちに振りまく。


「へえ、そうかい」


 チンピラたちに目配せしつつ、俺はお嬢様に近づく。

 チンピラたちもちゃんとついてきた。


 俺は何もないまま、小さなお嬢様の目の前に立った。


「どうしたなの?」


 お嬢様がこてりと首を傾げる。


「悪いな。俺たち、今はお腹いっぱいなんだよ」

「なの?」

「だからよ――。テメェの持ってるモン、全部いただいて帰るぜ」


 俺はお嬢様の首を掴んで持ち上げた。

 これできっと世間知らずの小娘も、厳しい現実に気づいて、俺に泣き叫んで命乞いをすることだろう。

 まあ、息ができなくて、その前に意識をなくしちまうかも知れないが。

 その時にはお嬢様の命と引き換えにメイドから情報を引き出せばいい。

 楽なモンだ。


「まずは身につけてるモン、全部、いただくぜ?」


 まあ、返事はできないだろうが。

 と思ったが――。

 宙吊りにされたお嬢様は、深みのある黒い瞳で俺を見つめて、こう言った。


「もかして、アクトーなの?」

「そうさ。テメェは運がなかった。あきらめて全部よこしな」

「みんなそうなの?」

「あたりめぇだろ」


 俺がそういうと、チンピラたちがニヤニヤと笑ってそれを肯定した。


「よかったなの」


 お嬢様が言う。


「バカかテメェは。何がよかっただ」


 俺はせせら笑う。


 せせら笑おうとした――。


 なのに気づいたら、突然、暗闇の中にいた。

 チンピラどもも一緒だ。

 姿は見えねぇが、戸惑う声は近くにいくつもあった。


「よかったなの」


 お嬢様の姿が、声と共に黒闇の中に浮かび上がる。

 メイドも一緒だ。


「うん。よかった。これで正式に、ちゃんとご招待できるね。悪党の皆さん、あらためてようこそ、暗闇食堂へ」


 さらに闇の中から別の娘が現れる。

 黒い衣に身を包んだ、なんとも艷やかな黒い髪の美少女だった。


「ふざけてんじゃねぇぞ! ぶっ殺してやる! さっさと金をよこしやがれ!」


 チンピラの一人が短剣を抜いて斬りかかる。

 だけどその刃は、さらに現れた少女に手づかみされた。

 少女の姿と共に俺はそれを見た。


 その少女は――。


「ひぃぃぃぃぃ!」


 少女の姿を身近で見たチンピラが悲鳴をあげる。

 俺も恐怖で声をもらした。


 その少女は、そう――。

 銀狼族に見えたが、腐敗していた。

 アンデッドだ。


「不味そう……」


 チンピラに顔を近づけ、アンデッドは言った。

 腐敗した唇からは、牙がぎらめく。


「や、やめ……。食べないで……。食べないでくださいぃぃぃ!」


 悲鳴だけを残して、チンピラの姿がアンデッドと共に消える。


「あの……。食堂って……?」


 別の一人がおそるおそるたずねる。


「もちろん、ボクたちのさ。ありがとうね、餌になってくれて」


 艷やかな美少女がクスクスと笑う。


「おいしいえさなのー! ぱくぱくなのー!」


 お嬢様が無邪気に続けて言った。


「ちちちちち、ちがうんだぁぁぁ! 俺たちはちがうんだぁぁぁ! ただ言われてここに来ただけで俺たちが悪いわけじゃ」


 別の一人が必死に言い訳をする。


「安心して下さい。もちろん、ちゃんとお料理はいたしましたとも」


 今度はメイドがくすくすと笑った。

 そして……。

 いつの間にか尻餅をついていた俺たちの前に――。


 どさり、と。


 苦悶の表情で干からびた、依頼者の男を投げ落とした。

 男は動いていない。

 干からびているのだ。

 当然、とっくに死んでいるのだろう。


 と俺は思ったが……。


「タス……。ケ……。コ……。ロシ……テ……」


 わずかに動いた男の唇から、助けを求める言葉が聞こえた。

 チンピラたちが悲鳴をあげる。

 俺もあげていたかも知れない。


「もちろんまだ生きていますよ。死んじゃったら美味しくなくなりますよね。よかったらお召し上がりになりますか?」


 メイドに問われて、俺は全力で首を横に振った。


「ではこれはこちらで、あとでいただきますね」


 メイドがにっこりと笑う。


「嫌だ! 嫌だぁ!」


 錯乱したチンピラの何人かが、必死に逃げようとする。


「あれあれー? どこにいくのさー?」


 それを面白そうに、上からふわふわと浮かんで眺めるのは艷やかな美少女だ。


「まあ、いいけど。せっかくだし、鬼ごっこしようか」


 美少女が軽く手を振るった。

 すると……。

 その手から、ぼたり、ぼたり、と、黒い粘液が落ちて――。

 それはすぐに、触手を伸ばした身の毛もよだつような魔物へと変わった。


「ほーら、捕まったら食べられるだけじゃすまないよー。溶かされて、じーっくり煮込まれていくことになるからねー」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

「いやだぁぁぁぁぁぁ!」


 ああ……。あいつらはもう駄目だ。

 この真っ暗闇の中で、逃げ切れるわけがねえ。

 俺は絶望の中でそう思った。


 そして俺は……。


「あれ?」


 と、メイドの少女に首を掴まれて、強引に持ち上げられた。


「アナタ、どっかで見たことがあるかも?」


 メイドの少女が俺の顔を覗き込んでくる。


「あれホントだ。ボクもあるかも」


 横からは、艷やかな美少女も同じように俺の顔を見てきた。


 俺は窒息して――。

 答えることも――。

 もはやまともに相手の顔を見ることもできなかった。

 だから見たことがあると言われても、俺の方からは確認できなかった。


 俺は、ぼやけた視界の中、ただこう言った。


「お、お助けを……。クスカイ様……」

「え」


 俺が最後に聞いたのは――。

 メイドの少女の、そんな間の抜けた一言だった。

 気づけば俺は山の中にいた。

 どこかもわからない、ただ山の中だ。

 まわりには誰もいない。

 ただ俺は、手足も無事でちゃんと生きていた。


「助かったのか……俺……。クスカイ様に声が届いたのか?」


 魔王クスカイ様。

 俺が海洋都市で信奉していた魔王様だ。

 俺は教団の教祖でもあり、多くの信者を得ていた。

 だから声が届いたのかも知れない。


「なんでもやっとくもんだな。俺にも、ついに運が巡ってきたか? 勝手に俺を教祖に祭り上げやがった、あのなんとかいう女には感謝しねぇとだな」


 魔王様が助けてくれたのなら。

 俺はもう無敵だ。

 怖いものなんて、なにひとつなくなったのかも知れない。


「ありがとうございます、魔王クスカイ様。俺は魔王様を本気で信奉します。これからも俺の悪事を見守ってくれ。将来は絶対、何か捧げられるようにするからよ」


 俺は魔王様に祈りを捧げた。


「よし。やってやる。やってやるぜ、俺は」


 俺には力がある。

 俺には知性がある。

 ただ俺には、運だけがなかった。

 しかし今、俺には運がついた。

 次こそ成功して、きっと俺は自分のファミリーを持つことができる。

 いや、作ってみせる。

 そして大陸一の、最強の悪党に成り上がってやるぜ。


「だが今は、まずは山から降りねぇとな」


 俺は身を起こすと、早速、歩き始めた。

 山歩きには慣れている。

 獲物も自分で取れる。

 何日かかったとしても、人里にはたどり着けるはずだ。


 俺はオム。


 今はまだチンケな、魔王クスカイ様を信奉する、一匹のはぐれ狼。











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― 新着の感想 ―
やったぜ! オムさんの立志伝はまだまだ終わらない!
ク、スカイの名前を出さなければ終わっていたw
幸運値がカンストしていそう。運が悪いとか言っているけど、真っ当な道を進んでいたら幸運の持ち主として世間に知られていたかもしれない。運が良くないと死んじゃう状況に身を置くからこんな状態だけど
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