表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1360/1364

1360 閑話・少女ユイナは紳士と再会して……。





「う、うう……。はうん……。ふぁ? ふぁあああ!?」


 目覚めると、そこには顔があった。

 日焼けして大きくて、いかにも鍛えていそうな厳つい顔だった。


 なので思わず変な声を上げてしまったけど……。


「ふふ。よかった。ようやくのお目覚めですね、ユイナちゃん」


 その声には聞き覚えがあったし、よく見れば知っている顔でもあった。

 そして、きちんとした身なりをしている。

 顔はいかつくて体は大きいけど、紳士だ。


「そりゃ、社長が目の前にいれば驚きますよ。まったく。ごめんなさいね、いくら知人でも嫌ですよね」


 彼のとなりにいた女の人が顔をしかめて言う。

 事務員さんのような格好をした大人の女性だ。


 私はユイ。


 一応、リゼス聖国で聖女というものをやっている12歳。


 ただ今は普通の女の子ユイナちゃんとして、帝都の学院祭に来ていた。


 はずだけど……。


 私が寝ているのはどこかの部屋――。

 事務所の休憩室のような、清潔だけど殺風景な場所だった。


「あの……。ハッピーさん、ですよね?」

「そうですぞ。去年のお祭り以来ですな、ははは」


 そう。


 目の前にいる紳士は、スーツの色こそ黄色ではないけど、以前の帝都のお祭りで仲良くなったハッピーさんに違いなかった。

 彼のハッピー音頭は、ナオがそれはもう気に入っていたものだ。

 私もよく覚えている。


 ハッピーさんはクウとも知り合いで、帝都では有名な冒険者クランを率いていて、クウの工房の常連でもある。

 なのでここは、彼のクランの事務所なのかも知れない。


 名前は確か、ハッピーさんではなくて――。


「ごめんなさい。ボンバーさん、でしたよね」

「ははは。ハッピーさんで良いですぞ。どちらも私です」


 そういうとハッピーさんは、ベッドから身を起こす私の近くで、久しぶりのハッピーダンスを披露してくれた。


 ハッピー、ちゃっちゃ♪

 ハッピー、ちゃっちゃ♪


 懐かしくて楽しいリズムだった。


 私が落ち着いてから、ハッピーさんが気を取り直して私に質問してきた。


「それで、いったいどうなされたのですか? ユイナちゃんは、いきなり空から中央広場に落ちてきて、石畳を砕いて転がって、壁に激突して、普通なら死んでいるところを無傷なものだから、これはなかったことにするべきではと直感し、失礼ながら私の事務所に運ばせていただいたのですが」

「なんか、すごいことになっていたんですね、私」

「ですぞ」

「ありがとうございます。そうしてもらって助かりました。あと、助けていただいてありがとうございます」


 精霊たちの喧嘩に巻き込まれて吹き飛ばされました。

 なんて、とても人には言えない。

 せっかく精霊が世界に戻ろうとしているのに、精霊は凶暴で危険だ、なんて思われたら障害になってしまうし。


「なにか特別な事情があるのですか? 私でよければ力になりますぞ?」

「ありがとうございます。でも、それは……」

「ははは。よければなので、気にされなくても平気ですぞ。それよりも、お体の方は大丈夫ですか?」

「はい。痛みはないし、ちゃんと動きます」

「それはよかった」


 ハッピーさんが朗らかに笑う。

 気持ちの落ち着く、豪快なのに優しい笑い方だった。

 ああ、やっぱり、ハッピーさんは人をハッピーにする人なんだな。

 と、私はなんとなく思った。

 思いつつ、私は女の人にも目を向けた。

 幸いにも、女の人に疑いの目や表情はなかった。

 意識をなくしている間、光の力を放ったりとか、変な寝言を言ったりとか、そういうのはなかったようだ。

 なので私は、空から落ちてきただけの、どこにでもいる普通の女の子でいさせてもらうことにした。


 窓からの日差しは、まだそれなりに明るい。


 時刻は午後の半ばようだ。


 吹き飛ばされて、何時間かは過ぎているのか。


 私は不意に怒りを覚えた。


 だって、かなりの時間が過ぎているのに、どうして私はここにいて、クウの助けの手が届いていないのか!

 普通、助けるよね!

 空の彼方に吹き飛ばされた友人を!

 と思ったけど……。

 そういえばクウは、日常的に目の前のハッピーさんを蹴り飛ばしては、完全放置しているのだった……。

 クウにとって、空の彼方に飛んでいく、なんていうのは……。

 助ける意味もない日常のことなのだろう……。


「むむ。急にしかめっ面をして、どうかなさいましたか?」

「あ、いえ。あはは。お腹が空いちゃって」


 私はごまかした!


「それはいけませんな! ふふ。ちょうどこの下には、私の姉がやっているバーガー屋がありましてな。よかったらどうですか?」


 バーガーと聞いたら本当にお腹が空いてきた。

 私は朝から何も口に入れていない。


「ハッピーさんのお姉さんって、確かバーガー大会に出ていた人ですよね?」

「そうですぞ! 姉上のバーガーは食の賢者も認めた絶品です!」


 食の賢者。


 それは、ク・ウチャンのことだ。


 ク・ウチャンは、なんだかよくわからないけど、クウが適当なことを言っている内に生まれた幻の賢者だ。

 ク・ウチャンについて考えると、思わず笑ってしまう。


「むむ。いかがされましたかな?」

「ごめんなさい。なんでもないです。つい楽しいことを思い出しちゃって」

「ははは! 笑うのは、とてもよいことですな!」


 ハッピーさんが笑うので、私も遠慮なく笑わせてもらった。

 ハッピーさんは、やっぱり素敵な人だ。

 一緒にいると楽しくなる。


 私はハッピーさんに連れられて、部屋から出て、意気揚々とバーガーを食べるためにお姉さんのお店に向かった。

 まあ、うん。

 お店にあったのはバーガーではなくて……。

 せっかく私の心は、バーガーで満たされていたというのに……。

 なぜかラーメンだったけれど。


 あ、そっか。


 私はラーメンを見て、そういえばクウは今、なぜか帝国でラーメン大会を開こうとしているのだったよね、ということを思い出した。


「姉上、バーガーを注文しますぞ!」

「なにいってるの? バーガーなんて、ひとつも材料ないよ?」

「なぜですか? ここはバーガー屋ですよね?」

「え?」

「え?」

「外の看板を見なかったの? ちゃんと作り変えたよね? 今日からいったんラーメンハウスなんですけど?」

「看板……。姉上、また無駄遣いをされたのですか……」


「ラーメン一丁! お願いします!」


 私は元気に注文させてもらった。

 ラーメンはラーメンで普通に好きだしね。


「かしこまりー! ミハエルも、ちゃんと作ってあげるから座って待っていなさい!」

「まったく。姉上と来たら……。すみませんね、ユイナちゃん」


 ミハエルというのはハッピーさんの本名らしい。


 しばらくして出てきたのは、刻んだハーブと半熟の玉子焼きを乗せた、透き通ったスープの塩ラーメンだった。

 お味は……。

 もちろん美味しくいただきましたけれども……。

 スープが少しだけシンプルで、味に深みがなくて、そこは改良した方がいいかなぁとは思いました。

 ハッピーさんと姉上さんに正直な感想を求められたので、迷ったけど私は正直にそのことを伝えた。

 加えて少しだけ提案もした。

 スープには鶏の骨か、煮干しや鰹節なんかを使うのがいいですよ、と。

 すると、ぜひ教えてほしいと言われて……。

 私は姉上さんに手を取られるまま、なんと市場へ行くことになった。

 ハッピーさんもついてきた。

 三人で買い物をして、厨房で軽くスープを作った。

 それは本当に普通の――。

 まるで普通の子のような一時で――。

 私にとって、それは新鮮で、とてもとても楽しい時間となった。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここから迷走さえしなければ、普通に好評価なラーメンが出来上がったんじゃないか。迷走さえしなければ。 というか、なんだ。ボンバー相手にフラグが立ったりするのかこれ。
マジでラーメン屋になっとるがねw 聖女が頑丈過ぎる件がふきとんだわw
ユイさん……あとで精霊組を叱りとばしましょう?特に貴女の相棒が一番酷いし(苦笑) クウさんは助けに行こうにも出来ない状況でしたし、そもそも精霊って事を明かす必要が出てくるから無理でしたからね、ここは光…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ