1359 え? 衝撃の事実
構内にチャイムが鳴り響いて、学院祭の初日がおわった。
学院祭初日は、私にとって平穏なものだった。
私はほぼ一日「冒険者食堂」にいて、レザー装備に身を包んだ女冒険者として楽しく接客させてもらった。
冒険者に憧れる子供たちのキラキラした目がよかった。
私まで初心を思い出させてもらった。
客足としては、残念ながら他のクラスに負けていた部分もあったけど、それでも大いに楽しめたことは事実だ。
「あーくそう! メニューが地味なんだよな、結局! おい、だれかなんか、今からでも改善できるアイデアはないかよ!」
負けたことにレオは立腹していた。
学院祭での評価は、そのまま将来につながる。
なのでクラスメイトの多くは、レオに同調して放課後会議へと移るつもりのようだ。
ただ私はもう帰らねばならない。
「ごめんね、みんな。私、ちょっと接待があるからさ、帰らないとで」
「おう。わかってる。気にすんな。あとは任せとけ」
幸いにもレオを始めとして、みんな、皇女殿下に親しい立場にある私の事情はそれなりに察してくれていた。
私は申し訳ないながらも教室を後にする。
急いで校門に向かう。
校門にはマリエとカメの子がいた。
「おまたせー! 待ったー?」
私は満面の笑顔で二人に手を振りつつ駆け寄る。
「待ったよー」
同じく満面の笑顔で、マリエが手を振り返してくれた。
「よかったー」
「何がよかったの、クウちゃん?」
「マリエが元気そうで」
楽しく一日を過ごせたようで、なによりだよー。
と私は言おうとしたのだけど……。
それよりも早く、満面の笑顔のままマリエにがしっと両肩を掴まれた。
「あはは。ねえ、クウちゃん」
「うん。なぁに?」
「今日、クウちゃんは一体、どこで何をしていたのかなー?」
「私? えっと、クラスのお店にいたけど……」
生徒として、普通に学院祭に参加させていただきました。
「ふーん。そっかー。そうなんだー」
「ど、どうしたの? マリエ」
私の気のせいか、笑顔なのにこめかみがぴくぴくして、まるで怒っているように見えなくもないのだけども……。
「安心してね? ちゃんとアリーシャ様に引き継ぎもしたし、とりあえず大事にはならないように頑張ったから」
「うん。ありがとね!」
感謝!
さすがはマリエ!
私たちは大いに笑いあった。
ハッピーエンド。
と、思ったら。
急にマリエが真顔になった。
「ねえ、クウちゃん。どうして昼、あんなことがあったのに、完全無視して来てくれなかったのかなー?」
「え」
「え、じゃなくてね? わかるよね? キオさんとイルさんが、武闘会の熱に当てられてどちらか強いかで喧嘩になって、なぜかリトさんまで参戦して、止めようとしたユイさんがどこかに飛ばされて、大変だったよね!? 幸いにも消えてくれたからよかったけど大惨事になるところだったよね!?」
「だ、だってさ……」
「だって?」
「めんどくさかったし……。ね?」
わかってくれるよね?
丸投げしたい、この気持ち。
「ね、じゃなーい!」
わかってくれなかったぁぁぁ!
このあとたっぷり絞られて、私はひーひー謝りました。
とはいえ……。
「まったくクウはどうしようもない」
なんて偉そうにのたまう……。
まったく事態の解決に貢献していなかったであろうナオだけには、言われる筋合いもないのですけれどもね!
「ところでクウちゃん、他のみんなは帰ってきていないけど、大丈夫なんだよね?」
「あ、うん。それはね」
なにしろリトたちは精霊界に転移しただけだし。
その内に帰ってくるだろう。
「ならいいけど。はあ、今日も疲れた」
「ありがとね、マリエ」
「まあ、それなりには楽しかったし、いいんだけどね」
「さすがー!」
頼りになる!
「ただクウちゃんは、ちゃんと助けてよね!?」
あ、はい。
「ただこれはマリエじゃなくてナオに言わせていただきますけど、ナオが助けてあげてもよかったんじゃない?」
私はナオに矛先を向けた!
「私は私で人助けをしていた。大忙しだった」
「そうなんだ? なにかあったの?」
「迷える子犬に道を示した」
「へえ、そうなんだぁ。具体的には何があったの?」
「実力もないのにイキっていた子に、成り行きで力を与えた」
「成り行きだけに?」
「ナリユ卿」
「あはは」
ナリユ卿は、元気にやっているだろうか。
終戦から、すでに数ヶ月。
今のところトリスティン貴族連合から悪い噂は聞かないし、きっとうまくやっているだろうとは思うけど。
それはともかく、ナオから話を聞いて――。
私には思い当たることがあった。
「ねえ、それってもしかして、白耳白尻尾の獣人族の子? 名前はイスカ・ポルテ」
「名前は知らないけど、白耳白尻尾の子」
「そかー」
なるほど、わかった。
かもしかの加護とは、すなわち、ナオの加護なのか。
ナオはカメの子だけど。
しかし。
ナオならば、かもしかにもなりかねない。
確かめてみると、まさにそうだった。
「ねえ、ナオ……。それって大惨事にならない? トリガー式の強化魔法って永遠には使えないよね?」
「うん。たぶん5回くらいで切れる」
「だよねえ。切れたらさ、また無力な子に戻るんだよね?」
「戻る」
「……どうなるの、それ?」
「さあ」
ナオはいつもの無表情で言った。
そして、その後。
「永続しないことは伝えた。だから自己責任」
と、付け加えた。
「んー。そかー」
いいのだろうか。
アリーシャお姉さまの話を聞くに、かなり調子に乗っている様子だけど。
力に目覚めたとして一族に自慢しにも行ったようだし。
私は正直、いろいろと懸念したけど……。
ここでマリエが疲れた声で……。
「はぁ。もうお腹すいたぁ」
と言うので、
「よし! ねえ、ちょっと食べて帰ろうか! 陽気な白猫亭でさ! なんでも奢るから思い切り食べてよっ!」
「陽気な白猫亭って、メアリーさんのところだよね?」
「そそ! 唐揚げもあるよ!」
陽気な白猫亭では、最近、聖国での流行りを受けて揚げ物を始めた。
主に唐揚げ。
すっかり人気メニューだ。
「あー、いいねー。唐揚げ。またいろいろかけて食べたいねー」
マリエとは以前、リゼス聖国の聖都アルシャイナで食い倒れをして、その時、思い切り唐揚げを食べた思い出もある。
マリエとは本当に、深い付き合いなのだ。
ほんの一昨年あたりに知り合ったとは、とても思えない。
「やろうやろう!」
私は思い切り乗っかった。
マリエには確かに、お世話になりすぎた。
接待をせねば、ね。
「唐揚げは究極。ふふ。どこまで至高に近づけるか、このナオ・ダ・リムが、とくと吟味してくれようぞ」
ナオも乗り気になったので、私たちは3人――。
意気揚々とメアリーさんのお店に向かった。
唐揚げ祭りだぁぁぁ!
私は、うん。はい。
面倒なことはすべて忘れて、今、この時を楽しむことに決めた。
全力を尽くすことにしました。
なぜならば。
面倒なことは、忘れていても、必ずやってくるのだ。
ならばその時まで忘れていればいい。
いいのです。
その時に、それは考えればいいことなのだから。
この夕方――。
私とマリエとナオは、お腹のはち切れる寸前まで唐揚げを堪能した。
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