1354 学院祭、始まりっ!
2年生の文化祭が始まる。
私たちの「冒険者食堂」は準備万端だ。
今日の飾り付けはバッチリ。
教室のドアのところには、いかにも村の出入り口的な簡素な門を作って、中に入ればそこは冒険者のキャンプ地。
テントが張ってあって、毛布が置かれて――。
焚き火があって――。
焚き火については、さすがに教室での直火は禁止だったので、魔石のランタンを使って擬似的に再現している。
焚き火のまわりには石が置かれている。
石は椅子の替わりだ。
お客さんは、石に座って冒険者っぽく食事を取ることもできる。
テーブル席もあるので、食事はそちらでも取れます。
壁には森の絵を張って――。
窓には湖の湖面っぽい模様をつけた。
イメージはまさに、ウツロ村のキャンプ地なのです。
それなりには再現できた気がする。
「幸運のクッキー」にかけあわせて妖精とゴブリンのオブジェがあるところは、ウツロ村とは違うところだけど。
テント脇の立て札には、その「幸運のクッキー」についての逸話を書いた。
ボンバーたちから聞いた話だね。
で、その幸運のおすそわけをもらおう! ということで、教室に来てくれた人にはクッキーを配ることになっている。
こちらは無料のサービスだ。
有料のサービスは、あれやこれやと討議を重ねた結果――。
1.野草のスープ。
2.塩漬け肉とチーズの黒パンサンド。
3.搾りたてオレンジジュース。
という3つで決まった。
最初はもっとシンプルに、パン、干し肉、チーズ、とかだったけど、さすがにもう少し手間をかけようということで。
簡単すぎると、クラスの評価も下がるしね。
「皆さん、今日は頑張りましょう。まずは最初のグループの方、お願いしますね」
「はーい」
エカテリーナさんの声に、私たちは元気に応えた。
ちなみに私は今日、最初のグループからガッツリ働かせていただく。
なにしろ私は2日目に出られない。
2日目は、お姉さま主催の園遊会に参加しないといけないし、それ以外の時間は生徒会の補佐をすることになっていた。
なにしろ今年の武闘会では、ジルドリア王国との対抗戦が行われる。
トーノさんたちが来るのだ。
私はトーノさんたちとは知己ということで、接待係を仰せつかっているのだ。
「おーし! おまえら、やるぞ! この俺様が、本物の冒険者の勇姿を見せてやるからな! 遅れずに付いて来いよ!」
レオが木剣を振り上げて、勇ましく叫んだ。
「おー!」
カシムを始めとした、クラスの男子たちがそれに応えた。
ちなみにレオとカシムも最初のグループだ。
2人は大いにやる気だ。
装備も自前で、さすがに剣は練習用だけど、その他は、そのまま商隊護衛に行けそうな気合の入りようだった。
鉄で補強された革鎧に、肩当て、腕当て、ブーツ、背中には弓。
ピカピカ新品なのが可愛らしいところだけど。
その他の生徒は、レオと同じように自前で用意してきた子もいるけど、騎士科から借りてきた練習用の中古品を装備している子もいる。
半々といったところかな。
私はアヤたちに合わせて、騎士科の中古品を借りて着ている。
「しかし、クウ、おまえよ……」
「なにさ?」
「おまえ、仮にも帝都で工房やってんだろ? 借り物の中古を着やがってよ。少しは店の商品の宣伝をしたらどうなんだ?」
うわ。
レオに上から目線でもっともなことを言われた!
「でもさ、レオ」
「なんだよ?」
「こういう中古品の方が、私、冒険者の風格はあると思うよ?」
「う。まあ、それは、な」
ふ。勝った。
でも私は優しいのでフォローもしてあげる。
「もっともボンバーとかは、いつも手入れしているから新品同様のピカピカだけどね」
「だろ? だろー! そういうもんなんだよ! よーし! おまえらよ、ボンバー先輩みたいに俺らは成功するぞ!」
私はなんていい子なのか。
そんなこんなの内――。
時間となった。
開門されると、すぐに校舎にもたくさんのお客さんがやってきた。
帝都中央学院の学院祭は帝都の初夏の一大イベント。
学生だけのものではなくて、帝都市民も巻き込んで、毎年、大いに賑わうのだ。
私たちの「冒険者食堂」にも、たくさんのお客さんが来てくれた。
一般のお客さんに紛れてバルターさんとアロド公爵が来た時にはさすがに驚いたけど、2人も冒険者の食事を楽しんでくれた。
あと、幸運のクッキーの話も人気を博した。
妖精さんは、すでに帝都では、何度も目撃されているしね。
みんな、妖精の幸運にあやかろうと、並んでまでクッキーをもらっていった。
そんな妖精がサプライズで現れた時には、本当に盛り上がった。
「やっほー! みんなー! 私が妖精よー!」
なーんて言いながら、いきなり教室を飛び回ったのだ。
「クウちゃんっ! どうですか! ちょっとだけ手伝いに来ましたよっ!
妖精だけに、よーせーやーい、なんーて、言わないですよねっ!」
それはセラのサプライズ、善意でした。
「あ、うん。そだね」
私は頑張って笑顔を浮かべましたとも!
「ところでクウちゃん、今日の武闘会の予選は見に行かれるんですか?」
「うん。途中からだけどね」
なにしろ仕事があるので。
「サクナさんも出るので、勝ち抜けるか楽しみですよね。サクナさん、ギザだけは必ず倒すと息巻いていましたよ」
「あーそれは、宿命の対決だね」
ちょっと興味がある。
「あと、1年生ながら、テオルドくんも出るとか」
「へー。そうなんだー」
テオルドくんはアーレの黒騎士隊隊長の息子で、なかなかに強くはある。
エミリーちゃんのことが大好きな青年でもある。
エミリーちゃんには警戒されて、ぶっちゃけ、嫌われているけど……。
でも、ここで結果を出せば――。
あるいは、何かが変わるかも知れない!
頑張ってほしいところだ。
「……あと、さ、セラ。……ユイナちゃんたちはどう?」
私は声を潜めてたずねた。
セラはもちろん、ユイナちゃんたちが来ていることを知っている。
「……すみません。まだ会っていないです」
「そっかぁ……」
「……マリエさんが一緒なんですよね? ……なら平気かとは思いますけど」
「まあ、それはね……」
マリエがいれば、まさかの事態にはならない。
そうは信じているけどね……。
うん。
でも、心配は心配なのだった。
なにしろユイナちゃんは、良くも悪くもタチが悪い。
トラブルを起こされた方が、可哀想なことに、結果として顔面蒼白になるわけだし。
去年のオーレリアさんの時は大変だった。
まあ、とはいえ、ユイナちゃんだって成長はしている。
さすがに2年連続で事件なんて起こさないよね。
うむ。
さすがにね。
私は幼馴染のことを信じて、必要以上に心配はしないことを決めた。




