1353 学院祭の朝
学院祭当日の朝。
私の目覚めは今日もバッチリです。
さあ、頑張ろう。
まずは朝の身支度をして、それから学院の制服姿になって、通学の準備が整ったところで聖国の聖女の館に転移魔法で飛ぶ。
勝手知ったるユイの家だ。
転移陣の置かれている部屋から出て、階段を下りて、私は一階に行った。
すると台所から味噌汁の香りが鼻をくすぐった。
ダイニングに入ると、隣接した台所でユイが朝ご飯の支度を整えていた。
ナオも一緒にいた。
ナオは、すでに自力で転移魔法が使える。
私よりも先に来ていたようだ。
「おはよー、ナオ、ユイ、リト」
「ぐっもー」
「おはよう、クウ。今日はよろしくねっ!」
今日のユイは、ふんわりした雰囲気の花模様のワンピースを着ていた。
ナオは元気に半袖シャツ半ズボンだ。
2人とも、うしろから見る限り、聖女様と英雄様には見えない。
あとは帽子をかぶって、ユイは念の為にメガネもかければ、普通に帝都は歩けるだろう。
合格なのです。
ちなみにナオは、今回もカメの子になるようだ。
可愛い甲羅柄のリュックとカメの帽子がテーブルに置いてあった。
「クウちゃんさま、話があるのでこっちに来るのです」
リトは白狐の幼女姿でダイニングの椅子にチョコンと座っていた。
座っている姿だけなら実に可愛らしい。
「どうしたの、いきなり? 何かあった?」
「何かも何も、キオとイルの2人はいつまで閉じ込めておくのですか? ピーピー泣いて鬱陶しいのでそろそろ解放したらどうなのです?」
「あー」
「どうしたのですか?」
「ごめん。忘れてた」
そういえばあのイタズラコンビは、精霊界で岩屋に閉じ込めたままだったね……。
「はぁ。だと思ったのです。幼い子を閉じ込めて忘れるとは、さすがは残虐王のクウちゃんさまだとリトは言わざるを得ないのです」
「いや、あの、一番幼い子って、間違いなく私なんだけどね?」
「はぁぁぁぁぁぁぁ」
事実を言ったら、深く深くため息をつかれた。
この野郎……!
ビリビリしてやろうかと思ったけど、まあ、うん、今は我慢した。
「なんにしても2人は3日後に解放してあげてね」
「今日ではないのですか!? 2人とも今日の学院祭で大暴れして今度こそクウちゃんさまを退治するとやる気なのにですか!?」
「あのね」
なぜそれを有り得ないことのような風で語れるのか。
本気で理解できないのですが。
「あーあ。可愛そうなのです。2人は心に深い傷を負うのです」
リトがちくちくと言う。
「ねー、ちょっと、ナオ、ユイー! この白狐に何か言ってやってよー!」
私は幼馴染たちに助けを求めた!
「何か」
と、ナオが言った。
「ぷっ。くく。いいね、それ。抜群のタイミングだったよ。70点」
ユイが笑ってナオを褒めた。
しかも70点!
なんという高評価なのか!
くうううううう!
朝っぱらからこのクウちゃんさまをくうくうさせるとは、なんということでしょうか!
「なんにしてもさ、クウ。さすがに私は可哀想だと思うよ」
「うん。連れて行くべき」
「なら、2人が面倒を見てくれる?」
それならいいけど。
「あ、魚、焼けてきたかなぁ」
「汁を知る。それが、味噌汁の極意」
「おーい」
なぜそこで、聞いていないフリをするのかっ!
まあ、うん。
結局、解放することになりましたが。
「ひゃっはーなのー! 久しぶりのシャバなのー! イルは嬉しいなのー! さあ、早くカラアゲを食わせろなのー!」
「私は今、作っているものでいいわ。いい匂いね」
というわけで、もちろん、聖女ユイちゃんの家に連れてきましたとも。
「学院祭では、この2人、私の友人のユイとナオが面倒を見てくれるからね? 学院祭では2人から離れたらダメだよ? いい、わかった?」
「わかったなの! 仕方ないからそこは妥協するなの」
「そうね。本当は風の子がいいんだけど、我慢するわ」
「うむ」
よしよし。
「……ねえ、クウ。どういうこと?」
「無理」
ユイとナオの白い目なんて、私は気にしませんよ!
「どういうも無理もないよね? 私はだって学校があるから面倒なんて見れないし」
「2人とも、安心するのです。すべてマリエに任せれば平気なのです」
リトが言った。
「あ、そっか! 今日はマリエちゃんも一緒だったよね!」
「それなら万全」
「なのです。すべてマリエに任せればいいのです」
ふむ。
私、思う。
そうなるのか。
何もかも、結果としてマリエに丸投げか。
…………。
……。
まあ、いいか。
マリエなら、きっとやり遂げてくれるだろう。
正直、日常のことであれば、ユイとナオより、ずっと頼りになる。
朝食を済ませた後は、帝都に戻る。
ユイはユイナちゃんに、ナオはカメの子に、それぞれビシッと変装した。
最初に向かうのはマリエの家。
マリエはすでに、家の前で待っていてくれた。
「おっはよー、マリエ!」
「おはよう、クウちゃん。ユイナちゃんとナオさんも、お久しぶりだね」
「うんうんっ! マリエちゃん、とっても会いたかったよー!」
「マリエ、おひさ」
「……というか、なんだか小さい子が多いね?」
「大精霊の、リトとキオとイルね」
「……それは知ってるけど、どうして一緒に?」
「じゃあ、あとはよろしくね!」
「ちょ! クウちゃん!? まさか――」
ごめんその言葉は最後まで聞けない!
なぜなら聞いてしまえば!
怒られるから!
私は全力で、飛んで逃げました。




