1352 6月になりました
6月に入って、いよいよ学院祭が迫ってきた、ある日の昼休み。
たまたま昼食後にエンゼと2人になったので、何気なく対抗戦の王国側の3人目のメンバーは誰なのかなぁと聞いたところ――。
「あ、それなら僕だよ?」
あっさりと判明した。
「え。そうなんだ?」
「これでも一応、『ローズ・レイピア』の一員だしね。と、これは悪いけどクラスのみんなには秘密でお願いね」
「うん。わかってる」
話が広がると、いろいろ面倒もあるだろうしね。
挑戦とかもされそうだし。
「でも、そうかー。まさかこんなに身近なところにいるとはねー」
「はは。それはどうも。クウは出ないんだよね?」
「うんー。でないよー」
「クウがとても強いことは、実はエリカ様から聞いていてね。機会があれば、ぜひ一度とは正直に言うと密かに思っていたけど」
「代表に決まったアンジェリカ・フォーンは、私の友達だよ。強いからねー」
「それは楽しみだ」
まだ対戦相手は決まっていないけど、普通に考えれば、第一回戦でエンゼとアンジェがぶつかることになるだろう。
「私とやりたいなら、学院祭がおわって、王国に帰る前になら受けて立つよー」
「それはぜひお願いしたいな」
「うん。わかった。いいよー」
せっかくだし、いい思い出にしてもらおう。
と、高慢なこと思ったりもしてしまう私ではありますが……。
実際のところ、剣については、このままではマズイかな、とも思っている。
なぜなら、こちらの世界に来てからずっとではあるんだけど、本気で剣を振るって、本気でぶつかり合う機会がまったくない。
私は最強すぎた。
腕前が、完全になまってしまっているのだ。
戦い自体は、最近はダンジョンによく行っているので、しているんだけどね……。
このままでは、本気での剣の振り方を体が忘れてしまいそうで怖い。
私がそんなことを思っていると……。
「でも正直、最近はちょっと体がなまっていてね。全力で戦えるか少し不安ではあるんだ」
そんなことをエンゼが言った。
「どうして?」
「ほら、なかなか本気で練習できる場所がなくてね――」
「あー」
それはそうか。
留学生のエンゼは、帝都では王国の準備した別邸で暮らしているというけど、庭があっても暴れるには狭いだろうし。
「んー。そういうことなら、ダンジョンに行く?」
「いけるものなのかい?」
「私ならね」
「いいのかい? 迷惑になると思うけど」
「エンゼさえよければいいよー」
「ならせっかくだし、お願いしようかな」
というわけで、エンゼともダンジョンに行くことになった。
敵に塩を送る行為だけど――。
公平でいいよね、その方がきっと。
一応、メイヴィスさんたちには確認したけど、快くオーケーをもらえたし。
一緒に行きたいというのは、さすがに却下しました。
あと、エンゼの対戦相手は、やはりアンジェだった。
メイヴィスさんはトーノさんに。
ブレンダさんはファラーテさんに、それぞれ闘志を燃やしていた。
ダンジョンでのエンゼは、ハッキリ言って強かった。
アンジェの相手として不足はなかった。
ハースティオさんたちは、本当に容赦なく鍛え上げている。
エンゼなんて、いくらオトコノコに見えても、まだ今年で13歳の少女にね。
それを言ったらアンジェもだけど。
あとエンゼは、私のことをしっかりとは聞かされていなかったようで、気軽に転移魔法を使ったら本気で驚かれたけど――。
実は私、エルフでも異国の王女でもなくて精霊さんなのでしたー、てへ☆
と言ってしまいました。
エンゼとはすっかり仲良しだしね、まあ、いいかなーと。
エンゼは普段通りに接してくれました。
よかったです。
あとあと結局、おわったら最後にね、とか言っておきながら、エンゼとはダンジョン特訓のついでに打ち合ってしまいました。
楽しかったです。
やはり、剣と剣とのぶつかりあいは最高なのです。
そんなこんなで――。
6月はどんどん進んでいった。
クラスの出店準備は順調。
問題なし。
帝都では、ラーメン屋がオープンして大賑わいとなった。
ラーメン大会への期待はどんどん膨らんでいる。
気温も上がって、夏が近づいてきた。
そして――。
ついに――。
学院祭の当日は来たのだった。




