1351 学院祭に向けて
さて、聖国から来た料理人の登場等々で、ラーメン大会が大いに盛り上がりの予感を見せてくれる昨今ですが。
ラーメン大会の前に、私には学院祭という外せない行事がある。
まずは学生として、そちらを頑張らねばなのです。
クラス出店で決まった冒険者食堂。
この日もホームルームの時間、私たちはその会議を行った。
最初に意見を言うのはレオだ。
「なあ、みんな、俺等さ、普通に去年みたいに屋台でやるつもりだったけど、今回は教室の方がよくないか? ほら、いろいろ置けるしさ」
「そうですね。今回は、幸運のクッキーに関するエピソードの紹介も行うわけですし、教室の方が適切かも知れませんね」
エカテリーナさんが賛同して、話はすぐにまとまった。
「じゃ、教室で決まりな。早速だけど教室に置く道具をピックアップしようぜ。それについては俺とカシムとクウでいいか?」
「……ねえ、レオ、なんで私なの?」
レオとカシムのコンビなら、他の取り巻き男子でいいだろうに。
「去年の野外研修に出たの俺等だけだろ。あの時の野営を教室で再現しようぜ」
「あー、なるほど」
そういうことか。
早速、他の事案はクラスメイトに任せて、この場で考えることになった。
と言っても、たいした手間ではない。
「必要なのって、テント、毛布、調理道具、薪くらいだよね?」
テントを立てて、中から少し毛布を見せて――。
お鍋やお皿を適当に置いて――。
あとは薪を組めば、それらしい雰囲気にはできそうだ。
「ふ。クウはやっぱり甘いな」
「なんでよ?」
「石もいるだろ」
「石?」
「ほら、椅子がわりして並べて座ったり、カマドを作ったり、いろいろ使ったろ? 石があるだけでリアリティが増すと思うぜ」
「枯れ木もあるといいかも知れませんね。三脚みたいにして立てて、真ん中から鍋を吊るして煮物を作りましたよね」
レオにつづいて、カシムも提案してくる。
「あー、そうだったなー。懐かしいなー、あの夜。村を守りきってさ、みんなで勝利を祝って、大騒ぎしたもんだよなー」
「ですねー」
レオとカシムがしみじみとうなずく。
2人にとって、野外研修はなかなかに良い思い出のようだ。
私には、すべての意味で大変だった記憶しかないけど。
エルフ娘がどっか行っちゃったり、櫓の上でハイカットを叫んだり、ね……。
「せっかくだし、場所の再現もしたいですね。ウツロ村のキャンプ地の雰囲気を出せると、さらにいい感じになりそうです」
「だな! 森と湖の絵を描いて壁に張ったり、大道具の木を作ったりするか!」
話は、レオとカシムの2人で、どんどん進んでいった。
私はいらなかったです。
ともかく、それなりに冒険者っぽい空間を演出することにはなりそうだ。
あと、今回は「幸運のクッキー」に関連させて、妖精とゴブリンのオブジェクトもいくつか置こうということになった。
アル君に聞かせたら喜んでくれそうだ。
しかし、幸運のクッキー……。
ただのボンバーの体験談なんだけどね……。
そんなものを、さも「伝承」のように紹介するだなんて……。
本当にいいのかとは思うけど……。
ただ、嘘ではない。
それは本当のことだった。
それは実際、私が妖精郷で確かめた。
すべてキオとイルの仕業だった。
なので、まあ、いいのか。
けっこう「伝承」とかは、こうやって生まれるのかも知れないし。
今回の私たちの出店がきっかけで、幸運のクッキーの話が広まれば、それはアル君にとっては嬉しいことだろうしね。
世の中には、善良なゴブリンもいるよ! ということで。
こうして私たちの「冒険者食堂」は、正式に、どんな形にするのかが決まった。
あとは準備に一直線だ。
そんなこんなで――。
いろいろ動き出した日の放課後。
帰宅してお店にいると、アンジェが来た。
珍しくスオナはいない。
かわりに、右腕にラシーダ、左腕に1年生の女の子がくっついていた。
「……やっほー、クウ」
明らかにアンジェは元気がなかった。
憔悴している。
「……えっと。どうしたの?」
私がたずねると、元気いっぱいのラシーダが教えてくれた。
「ふふ。聞いて下さい! アンジェリカ先輩がやってくれたんですよ!」
「なにを?」
「今日の放課後、選抜試合があったんです! それで!」
意味がよくわからなくて、私はアンジェに目を向けた。
「知らなかったのよ。いきなりね、メイヴィスさんに呼び出されて、行ってみたらギザたちがずらりと並んでてね――。試合になって――。またギザがハラの立つことを言うから、カチンと来て全員ぶっ飛ばしてやったのよ」
「へえ。すごいね」
さすがはアンジェ。
ギザたちだってメイヴィスさんの下で鍛えられているのに。
それでも勝ってしまうとは。
「カッコよかったですよ! 剣と魔術で、どんどん大きな人たちを吹き飛ばして!」
「だよねーだよねー! 先輩、最高だった!」
ラシーダと左側の女の子が盛り上がる。
うん。
ラシーダも気の合う友達ができたようで何よりだ。
「それで、決まったんです!」
ラシーダが言う。
「なにが?」
私はあらためてたずねた。
「学院祭で行われる、王国との対抗戦のメンバーにです!」
「あー。なるほど」
そういうことか。
「今さら、いきなりよ? どうしろってのよ」
アンジェが疲れた声でぼやいた。
「あはは。でも、確かにそうだね。誰か辞退者でも出たの?」
「アリーシャ様がね、皇女が出るのはよくないって、ダメになっちゃったみたい」
「あー」
陛下か皇妃様のストップがかかったのか。
それはお姉さま、残念なことだ。
対抗戦は3vs3。
つまりこちらは、アンジェ、メイヴィスさん、ブレンダさん。
王国側は、ファラーテさん、トーノさん、あと誰か。
そうことだね。
「でも、アンジェなら適任じゃない? 魔法もありなら尚更。むしろ他にいないよね?」
私がそういうと、じーっとアンジェに見られたけど。
「私の参加は無理だからね? わかるよね?」
私は一応口に出して言った。
「……まあ、そうよね」
わかってくれてよかったです。
「それで、マイヤ様! 私たち、アンジェリカ先輩の応援団を結成しまして! つきましては応援団の証のハチマキを注文したいんですけど――。アンジェリカ先輩の髪の色と同じ、赤いハチマキを100本ほど」
「そんなに応援団いるんだ!?」
「いるわけないでしょ。3本で十分よ」
ラシーダの言葉を、アンジェが言い直した。
「ていうか、そのために来たの? 自分の応援団を作りに?」
「ちがうわよ! 決まった以上はやるしかないんだから特訓をお願いに来たの! 本当に忙しいところ悪いんだけどさ、クウ。ダンジョンに連れて行ってもらえないかな」
「うん。いいよー」
さすがはアンジェ、疲れた顔をしつつもやる気は十分のようだ。
もちろん、お手伝いさせていただきますとも。
私も帝国人として、エリカのところには負けられないしね!




