1349 ラーメン戦国時代! 幕開けの時!?
もはや例年のことではあるけど――。
私のスケジュールは夏休みに向けて、それなりに埋まってきた。
6月20、21日:学院祭。
7月10日:学期末テスト。
7月15日:夏休みの始まり。前半にバカンス。
8月20日:ラーメン大会。
うむ。
大忙しというわけではないけど、のんびりしているといろいろ大変になりそうだ。
特にラーメン大会。
ラーメン大会の開催は、まだ3ヶ月も先とはいえ――。
逆に言うと、まっさらなところから3ヶ月で準備しなくてはならないのだ。
すでに大会の開催は告知されて、準備も大急ぎで進められている。
バーガー大会に続いて、今回の主催も皇太子たるお兄さま。
ウェーバー商会が運営に当たる。
ウェーバーさんは、今や完全にお兄さまの市井の右腕だ。
関係としてはウィンウィンだろうし、私は別にいいけど。
6月始めの休日。
私はこの日、ラーメン大会の準備のため、朝からオダウェル商会に来ていた。
オダウェル商会は、実質、ウェーバー商会の食品部門。
当然、ラーメン大会にも関わっている。
今日の私はラーメンアドバイザー。
一通りのラーメンを作って披露するのが仕事だった。
「――これが味噌ラーメン。これが塩ラーメン。これが醤油ラーメン。で、こちらが豚骨ラーメンになります。
ラーメンには多くの種類がありますが、この4種類が、まずは基本となります。
具材については、ネギ、チャーシュー、メンマ。この3種類が基本となって――。
あとは、コーン、バター、ほうれん草、ゆで卵、たっぷりの野菜など、正直、バリエーションとしては無限大ですね」
「つまりは、なんでもありだと?」
私の生成したラーメンを腕組みして見ながら、ウェルダンがたずねる。
「そうだね。なんでもありかな。ちなみにスープについても同じです。基本の4種類から外れても問題はありません。たとえばトマトスープとか」
「基本がありつつも、自由か。これは凄まじい戦いになりそうだな」
「ただやっぱり、基本は押さえた方が強いとは思うけどね」
なにしろ競争の末にまとまったものだし。
勝利の方程式が詰まっている。
「そのあたりはバーガーと同じだな」
「だね」
「うむ。助かったぞ、クソガキ。この基本については、すぐにまとめて冊子としよう。なにしろ現状の帝国にはラーメン文化がないからな。大会に参加したくとも、ラーメンとは何か、から調べることになる者は非常に多いのだ」
ウェルダンの脇では、何人もスタッフがラーメンのスケッチをしている。
スケッチが済めば、試食。
味についても、できるだけ詳しく冊子には書くのだ。
……スケッチの後だから、麺は伸びてしまっているけれどね。
「あと、急いで店も作らねばならん。いくら冊子があっても、実際に食べねば、どんなものなのかわからんからな」
「大変だねー。頑張ってねー」
「うむ。これは再び、大儲けの機会だからな! やってやるとも! 大々的にラーメンを広めてやろうではないか!」
さすがは商売人。
てっきり、貴様のせいで苦労するのだ! とか怒鳴られるかと思ったけど、むしろ逆に喜んで大忙しの中に身を投じるとは。
私も見習わねばね。
まあ、うん。
そう言ってみたものの、そんな気はない私ですが。
この日は1日、私が知る限りのラーメンの知識をウェルダンたちに伝えた。
加えて、調理スキルでの生成ながらラーメンを何十杯と作った。
ウェルダンたちは、それを食べに食べた。
食べすぎて、病気にならないければいいけど。
塩分の取り過ぎには注意だ。
ともかくそうして――。
ラーメン大会の準備は進んでいった。
そして、それは――。
そんな日々の中――。
何の前触れなく、突然に現れた。
私が放課後、シャルさんのお店『バーガー2番』にいる時のことだった。
ちなみに以前はもっとお店の番号は大きかったと思うのだけど、私が抗議したこともあってか元の番号に戻っていた。
「たのもう!」
バン!
勢いよくドアを開けて、その男は現れたのだった。
白衣を着て、コック帽をかぶった、その男はまさに料理人だった。
「我こそは、ラーメン王! 略してラ、」
「あ、それはいいんで」
前世の商品名にかぶるしね。
「あの、ここ、バーガー屋……」
シャルさんがおそるおそる応対しようとするけど、もちろん、当然のように、それはスルーされてしまった。
「前回参加者、シャルロッテとは貴様だな! 我こそ聖女様の下、ラーメンに命を賭けてラーメンに生きる聖国料理人タニス・ロド! いざ尋常に勝負せよ! ふ。帝国人のラーメンの腕前、この俺様が見てくれてやるわ」
私は戦慄した。
この男……。
できる……!
なぜなら彼は、まさかの普通の名前だったからだ……!
さらに、その時だった!
「まてい! 聖国の料理人だと……。ふふ。仮にも彼女は聖なる前回大会の参加者。挑戦するというのならば、まずはこの僕、ドン・ブーリからにしてもらおうか! 帝国ラーメンの真髄、この僕が見せつけてくれようぞ!」
なんとお店の隅で静かに佇んでいたドン・ブーリが、戦いを受けて立ったのだ!
私は戦慄した。
本当に、いつの間に、いつからいたのか!
まったく気づかなかった!
「面白い。ドン・ブーリか。むしろ貴様には牛丼か天丼の方がお似合いだと思うが」
「なんだと! この僕が飯系だとでも言うのか! 僕はそうではない男だ!」
「やるというなら、やってやろう」
「望むところだ!」
2人の間に、今、火花が散った!




