1346 スオナにお願い
「ねえ、クウ。僕にも何かお願い事はないかな?」
休日、お店にスオナとアンジェが遊びに来た。
で、お店にはお客さんがいたので、奥の工房に入って、では何をしようかと思ったところ、いきなりスオナが言った。
「どうしたの、スオナ」
意図がわからずに私は首を傾げた。
「ほら、コレがね」
アンジェが腰のベルトに差したワンドに手で触れる。
「ああ」
なるほど。
そのワンドは私がラシーダのことをお願いする時に差し上げたものだ。
風と火の属性石がついた特製の魔道具です。
「スオナもほしいんだ?」
「恥ずかしげもなく言ってしまうと、ほしくて」
「私も手伝うからさ、何かない?」
「んー。そうだねー」
スオナになら、ほしければあげてもいいけど。
タダというのはあんまりよくないか。
「じゃあさ、スオナ。これからファーとエミリーちゃんに魔力の扱い方を指導してもらえる?」
「それは構わないけど……。僕で役に立てるのかい?」
「うん。ファーもエミリーちゃんも優秀だし、フラウっていう優秀な教師もついているけど、優秀すぎるからこその弱点も見えてね」
「私、それわかったかも。アレじゃない? 3人とも魔力と意志力が強すぎて、ほとんどのことが力づくで出来ちゃう。だからスオナみたいな繊細さがなくて、魔力が弱まった時にちょっと不安がある的な?」
「お。アンジェ、鋭いねー。まさにそれだよー」
私も人のことは言えないけどね。
ファーとエミリーちゃんにも、同様の傾向を感じるのだ。
それでも私やフラウ、ファーもだけど――。
私たちならば、素体自体がチートで、そもそも圧倒的に強いので平気だけど。
エミリーちゃんはマズイことになる。
そこは今のうちに、是正しておいた方がいいだろう。
「実は私もそれ、学院に入ってから痛感してね。最近では意識しているのよー」
「あはは。アンジェもかー」
「そ。私もだって、才能に恵まれた天才だしね」
なるほど。
たしカニ。
「というわけでスオナ、お願いしてもいいかな?」
「ああ、もちろんさ。協力させてもらうよ」
「アンジェは私と店番をいい?」
「ええ。いいわ! お店に立つのは久しぶりだから楽しみねっ!」
というわけで。
ファーとエミリーちゃんには工房に入ってもらって――。
私とアンジェがエプロンをつけて、お店に立った。
ちなみに今日、ヒオリさんとフラウはない。
2人は大宮殿に行って、宮廷魔道士たちと魔道具の研究をしている。
研究内容は、対悪魔。
メティちゃんの協力のおかげで、どんどん進展している。
遠からず、チート組の力がなくても、人間は悪魔と戦えるようになるだろう。
店番について、メティちゃんも呼んでやろうと思ったけど――。
「やめてええ!」
アンジェが悲鳴をあげたのでやめておいた。
悪魔には、まだ抵抗があるようだ。
まあ、うん。
それが当然の感覚か。
私も慣れすぎないように気をつけよう。
「それにしても、クウと2人で店番なんて初めてね」
「そうだねー」
「ねえ、私たちだけで大丈夫かな?」
「私、これで店長だよ?」
「それはそうか。私も、これでも天才だったわ。楽勝よね」
あはは。
私とアンジェは気楽に笑った。
ちなみにお店には、今、お客さんはいない。
ちょうど空いていた。
「そう言えば、クウ。アンタ、ちょっと今さらの話題だけど、学院でカッコいい子とつるんでいるそうじゃない?」
「まあねー」
エンゼのことだね、わかる。
「でもその子って、実は女の子だったのよね? セラが言っていたけど」
「うん。そうだね」
「ねーねー。私も今度、紹介してもらっていいかな?」
「興味あるんだ?」
「そりゃあるわよ。その子って、しかも『ローズ・レイピア』なのよね? 強くてカッコいいって最高じゃない? 私も一緒に歩いてみたい」
「へー」
「なによー?」
「いや、うん。アンジェもお年頃だなぁと」
「それを言ったらアンタもでしょ。外から見たら取り巻きにしか見えないって聞いたけど?」
「う。それは否定できないかも……」
言われてみれば、そんな気もする。
クラスの子と左右を挟んで、腕を組んでみたりもしちゃうしね。
キャイキャイそんなことを話していると――。
からんからん。
ドアの鈴が鳴って、お客さんが入ってきた。
私たちは笑顔でお出迎えしようとしたけど――。
げ。
一目見て私はわかった。
なんか、うん。
こういう系の人には、にじみ出るオーラがあるのだ……。
「フン! ここが噂の精霊グッズの店か! 思ったよりまるで地味ではないか。おい、そこの娘ども! この店にある商品は、すべてこの私、西の大貴族、オカネ・モ・テール様が買い取ってやる! さっさと梱包して引き渡せ!」
そう。
しょっぱなから、二度と来るなと言いたい客が来てしまったのでした。




