1345 アンジェにお願い
「というわけだから、マリエ。まだ先の話だけど、ラーメン大会の時は3人をよろしくね。あと、学院祭の時はナオとユイナちゃんのことをよろしくね」
「ねえ、クウちゃん」
「うん。どうしたの、マリエ」
「今の私の姿を見て、他に言うことはないのかな?」
「あはは」
私は笑って誤魔化した!
私は今、放課後、学校がおわってマリエの家に来ていた。
マリエは家にいて、すぐに会うことができた。
「マリエお姉さまー。ああー。今日も最高ですー。素敵ですうー」
当然のようにラシーダもいたけど。
ラシーダは、マリエにくっついて頬を寄せていた。
ラシーダは毎日、学校がおわるとマリエの家に直帰しているようだ。
そして、きっちり1時間、マリエを補充しているという。
仲が良くていいことだ。
今日もしばらくすると――。
長居はせず、馬車に乗って帰っていった。
それを見送ったところで、マリエは満面の笑顔で私に言った。
「ねえ、クウちゃん。そろそろ助けてね?」
「あ、うん。はい」
と言われても、困るけど。
ラシーダはちゃんと、寮の規則には従っているのだ。
門限前には帰っている。
意外とそのあたりは、キッチリとしていた。
ただ、とはいえ、さすがに毎日では、マリエの心労もわかる。
どうしたものか。
私は考えて――。
よし。
「そう言われても困るんだけど? 私にどうしろと?」
はい。
夜、アンジェのところに行って、相談してみました。
「ほらそこは、寮の先輩としてさ。寮って上下関係が厳しいんだよね? アンジェリカ先輩に指導してもらえれば大人しくなるよね、きっと」
「ラシーダ様って、北方辺境伯家のご令嬢よね?」
「うん。そうだけど」
「ムリムリ」
アンジェには、最初こそ拒否されてしまいましたが……。
「そうだ。これ、お礼にと持ってきたんだけど」
「アンタ、友達をモノで釣るつもり!?」
「ごめん。ダメだよね」
「ダメとは言ってないでしょ。見せて?」
「あ、うん」
持参したのは、風と火の属性石をつけた、まさにアンジェ専用のようなワンドだ。
属性石は精霊界でしか取れない超レアな鉱石。
柄の部分にはミスリルの芯を入れて、魔力の伝導性も完璧。
使えばアンジェの魔法は、今より確実にパワーアップすること請け合いだろう。
しかも小型なので、持ち運びも容易なのです。
「……これ、くれるの?」
「うん」
「はぁ。もう、わかったわ。モノに釣られたわけじゃないけど、アンタの頼みだしね、今回は特別に私がなんとかしてあげる」
「やった! ありがとう! 本当に助かるよ。マリエがいないと不便でさ」
「アンタねえ。だから、友達を道具扱いしないの!」
「あ、うん。だよね。ごめん」
反省します。
でも、うん。
言い訳すると、頼りにしている、なんだけどね、正確には。
他にお願いできる人もいないのです。
ともかくアンジェはやってくれた。
ラシーダを壁ドンして、
「ねえ、ラシーダさん。貴女、毎日、学校がおわると外に出ているそうだけど、どうして寮のみんなと仲良くしようとしないのかしら? もしかして、私たちのことが嫌い? 一緒にいると気持ちが悪くなるとか?」
「いえ、あの、わたくしはそんな……」
「ラシーダさん、貴女、1年生の中でも浮いているわよね? 気楽に話せる相手の1人もいないようだし、それでいいと本当に思っているのかしら?」
とか、うん。
厳しいことを言って、ラシーダをシュンとさせた後……。
ロビーに連れて行ってあげて……。
あらためてみんなに紹介して……。
そのまま一緒にゲームとかをして遊んで……。
おしゃべりもして……。
それですっかりラシーダは、特に1年生の同級生たちと仲良くなれたそうだ。
うん。
さすがはアンジェ。
私と出会った時からそうだけど、強引なことには定評があるね!
おかげでラシーダは、普通の生徒になった。
マリエのところには、たまの休日に行く程度になったのです。
そのくらいなら、ね。
マリエも歓迎してくれるでしょう!
かわりに、うん……。
お昼休み、たまたまアンジェと廊下ですれ違ったけど……。
「ねえ、アンジェリカお姉さま! 今日の昼食は何をお食べになられるのですか!? わたくしは今日はお友達とクリームパスタを――」
はい。
元気にラシーダは、アンジェの腕に絡みついていました。
だた、あくまで行動は、友達になれた寮生のクラスメイトとしているようだったので、つまりは何の問題もないですねっ!
アンジェには疲れた顔をされたけど――。
それは見てみないフリをしました!
なにしろこれは、平和で普通な学院の日常風景なのですからっ!




