1341 冒険者食堂のメニューは
帝都でも精霊界でも、いろいろなことがありつつ――。
気づけば5月も下旬。
ついに学院祭まで、あと1ヶ月となった。
「さあ、みなさん、今日から文化祭の出店に向けて具体的に準備を始めましょう。まずは、どんな食べ物を出すのか、提案をお願いします」
ホームルームの時間。
クラスリーダーのエカテリーナさんが話を進める。
「冒険者食堂だからな! 冒険者が冒険中に食べそうなもので頼むぜ!」
壇上にはサブリーダーとしてレオもいた。
レオは、成績的には劣等生だけど、なにしろ男爵家の跡取りなので選ばれている。
テーマ自体は4月に決まっていたので――。
みんな、テキパキと、調べたり考えたりしてきた意見を出していく。
結果として――。
「地味だけど、まあ、こんなモンだよなぁ……。俺が聞いてきた話でも、だいたいおまえらの意見と同じだったわ」
レオが首を傾げる通り、けっこうリアルな感じにまとまった。
日持ちする硬めのパン。
干し肉。
木の実。
ドライフルーツ。
野草で作ったシンプルなスープ。
野獣の肉で作った焼串。
クラスメイトたちが口々に意見を出す。
「これをセットで定食みたいに売るの?」
「なんかこれだと、アレだよな。去年の研修で出たのと同じだよな」
「新鮮味の足りない気がします」
うーむ。
その意見は、確かにそうだと思う。
リアルではあるけど、物珍しさがなくて味気ない。
「もっとさ、冒険者がたまに食べられるご馳走みたいな変わったものの方がよくない? 黄金に輝く鳥の肉とか、満月の夜にだけ採れる実とか」
私は提案してみた。
「そんなのがあるのか! それいいな!」
「いや、今のはたとえで言っただけで、あるわけじゃないよ?」
すかさずレオが乗ってきたけど――。
ごめんね、フィクションです。
「なんだよそれは!」
「でも、そういうのがあるなら、それがいいよね。調べてみる価値はあるかも」
「それはそうだな……。言われてみれば、普通の食事を聞いただけで、たまにとか、珍しいものについては聞いてなかったわ」
「だよね」
私もだ。
「ならならならっ! ボンバーズの事務所に聞きに行かない? 最近はボンバーズのヒトたちも普通に事務所にいるし! ボンバーズのヒトたちなら、他の国にたくさん行っているし、珍しい話も聞けると思うんだけど!」
待ってましたとアヤが手を上げた。
たしかにボンバーズは、最近、長期間の仕事を減らしている。
ボンバーもタタくんも帝都にいることが多い。
ザニデアの大迷宮の攻略に向けて、仕事のスケジュールを調整しているのだ。
7月始めに出発の予定だという。
「俺はいいけど、どうするよ?」
レオが珍しくエカテリーナさんの顔を立てた。
どうした!?
「そうですわね。では、代表者を決めて行ってみましょうか」
そういうことになった。
放課後、早速、馬車に乗って出かける。
メンバーは、女子から、私、アヤ、エカテリーナさん。
男子から、レオ、カシム、ラハエルくん。
カシムは、レオの友人。
悪い言い方をすれば、取り巻きのその1。
レオとは野外研修も一緒に出ていて、取り巻きながら頑張っている青年だ。
ラハエルくんは、ボンバーの実の弟。
身内なので連れてこられた。
ボンバーとは似ても似つかない真面目な文学肌の青年だ。
「ところでレオ、今日は私、レオにものすごく成長を感じてしまったんだけど、もしかして最近、何かあった?」
レオが他人の顔を立てるなんて、ね。
「はぁ? なんだよ、それ」
「ないなら別にいいけど」
「いや、あったぞ。騎士団に入ったマウンテン先輩と話す機会があってな。いろいろと勉強させてもらったんだよ。気をつけないと痛い目を見ることとかな。特に上司には、何かやる前には絶対に確認を取れ、とか」
「なるほど。それはいい勉強をさせてもらったね」
「ま、俺も冒険者になれば、貴族の権威なんて言っちゃいられねぇからな」
「……本気で冒険者になる気なの?」
「おうよ!」
レオは自信満々にうなずいた。
するとカシムも「そうですね!」と、ついていく気満々で同意した。
「ボンバーズに入るの?」
「所属かぁ。それは迷ってるところだな。組織に入ると、さっきの上司の話とか、すげーリアルになってくるしなぁ……」
「あはは。それはねえ」
「おまえはいいよな、とっくに工房主だもんな。すげーこった」
「それはどうも」
レオが冒険者になれるかはともかく、成長はしてるようだね。
それはよいことだ。
うんうん、とうなずいていたら、悪態はつかれたけど。
そういうところはまだまだだねっ!
そんなこんなの内――。
ボンバーズの事務所に到着した。
幸いも事務所には、タタくんとボンバーがいた。
なので話は早かった。
すぐに本題に入ることができた。
「冒険の途中で見つけた、珍しい食べ物っすか……。んー。そうっすねー。ボンバーは、何か思い当たるっすか?」
「私ですか――。食べてきた中で――」
2人はしばらく考えて――。
「それなら先日のアレでしょうか」
「先日のアレっすか。そうっすね、アレはいいかもっすね」
アレでお互いに理解できる、共通の思い当たる節があるようだった。
さあ、アレとは何か。
聞かせてもらいましょうか。




