1340 久しぶりの精霊界
放課後、憂鬱ながらも精霊界に入ると――。
すでに大精霊たちが待っていた。
エリートサラリーマン風な火の大精霊イフリエートさんを初めとして――。
土のバルディノールさん。
いつものキオ。
いつものイル。
いつものゼノ。
いつものリト。
あと、他の大陸の大精霊さんたちも集まっていた。
「さあ、皆! よく聞くのです。これより精霊女王陛下が、物質界で行動する上での規則をお語りになります。それをよく聞いて、問題なく行動するように」
えっとお。
イフリエートさん、それはみんなでこれから決めるんですよね……?
と私は思ったのですが……。
みんなは聞く姿勢を取っていて、どうも違うようだった。
助けを求めてゼノに視線を向けると――。
呆れた顔でそっぽを向かれた。
なぜ!?
まるで私が悪いみたいに!?
私は大いに憤ったけど、イフリエートさんがじーっと見ているので、それを顔に出すことは怖くてできないのです。
「クウちゃんさま、言いたいことがあるなら早く言うのです。リトは忙しいのです」
リトがいらいらと私を促す。
はぁ。まあ、いいか。
私はあきらめて、とっても一般的なことを語った。
それは、うん。
人間にも動物にも、迷惑をかけないようにね、ということだったけれど……。
みんなは拍手してくれた。
ちらりとイフリエートさんに目を向けると、
「ありがとうございました」
と、感情のない声で言われて、一礼された。
うん。
はい。
言いたいことがあるなら言ってね!?
自分でも、足りないことはわかっているからさ!
と私は思いましたけれど……。
まあ、いいや。
疲れたし。
わざわざ自分からは口にはしませんとも。
集会は短い時間でおわった。
「で、バルディノールさん、大魔法って何を教えてくれようとしていたんですか?」
「それは決まっております。土の大魔法と言えば大変動です。山を作り、谷を作り、大地を大きく再形成する魔法ですぞ。山のひとつでも作って教えてやろうと思ったのですが、そうですな、また明日にでも」
「こほん。さっきの規則をよく思い出して下さいね」
帝都に山を作るなんて、とんでもない。
帝都の外だとしても周囲は農地だし、山なんて作られたら大迷惑だ。
「それにエミリーちゃんには、さすがにそこまでの魔法はまだ強力すぎます。まずはゴーレムの生成からお願いします」
「ふむう。わかりました。クウちゃんだけに、くう、ですな」
何がわかったのか。
まったくの謎だけど、まあ、いいや。
とにかくわかってはくれたようだし。
「はぁ。まったく、完全に時間の無駄だったのです。リトはもう帰るのです」
「ボクもー。もうちょっとマシな用事で呼んでよねー」
私にため息をついて、リトとゼノが消えた。
いや、うん。
私が呼んだわけじゃないよね!?
と、言う暇もなかった。
「ご安心ください、陛下。すでに物質界で長く暮らしているあの2人には無駄でも、他の者たちには有益でした。これで少しはマシになるかと思います」
「はぁ……。それならいいですけど……」
イフリエートさんにフォローされて、私は肩の力を落とした。
「よう、陛下。もう難しい話は済んだか?」
次には火の大精霊の女性が来た。
彼女はサラマンディア。
私が挨拶会で蹴っ飛ばして蹂躙した精霊の内の1人だ。
彼女は炎の剣を私につきつけると、獰猛に吠えた。
「アタシはなぁ! あれから火の山にこもって! 徹底的に自分を鍛え直した! やっぱり物質界はサイコーだよなあ! 火の力をダイレクトに感じられてよ! さあ、今度こそ、まともに打ち合わせてもらうぜ!」
「ほお。この私と打ち合う、なんてね」
私は手に『アストラル・ルーラー』を呼び出す。
青く輝く私の愛剣。
ここに至るまで、一度も本気で使ったことのない最強の刃だ。
「いくぜええええええ! フレイム・バーストォォォォォ!」
アストラル・ルーラーの軽い一振りで、剣から立ち昇った炎の柱は綺麗に消えた。
「あ」
サラマンディアが止まった。
私は死なない程度に、それなりの力で蹴っ飛ばした。
「ぎゃあああああああああ! 覚えてろよおおおお!」
サラマンディアは精霊界の向こうへと消えていった。
「ああああ、サラマンディア様ー!」
それを中級精霊の部下たちが追いかけていく。
むなしい。
「ははは! まさにクウちゃんだけに、くう、ですな!」
バルディノールさんが豪快に笑う。
それしか言えないのかい!
とツッコミかけたけど、疲れそうなのでやめた。
「陛下、本日はお忙しいところをありがとうございました」
イフリエートさんは何事もなかったかのように、あらためて私に一礼した。
どうやら帰ってもいいようだ。
と思ったら――。
「では、次は精霊界の現状についてのご報告を」
とか言われたので――。
私は勇気を出した!
「イフリエート」
「はっ」
「精霊界については、従来通りに。つつがなくでよろしい」
「はっ」
よし!
偉そうにしたら、平伏してくれた!
勝った!
「では、私はこれで」
私はそそくさと、精霊界から立ち去るのでした。




