134 祝福の夜!
ロックさんのまわりには、すぐにお店の常連さんたちが集まった。
「ロック、いいタイミングで来てくれたぜ!」
「あいつらはざまぁだな!」
「生きて帰ったか!」
「おまえ不死身だな!」
「いくら稼いだ!? なあ、いくら稼いだ!?」
「今夜はロック様の奢りかぁー?」
私の目の前で、ロックさんは揉みくちゃにされる。
人気者だ。
「しゃーねーなー」
ロックさんは頭を掻きつつも、メアリーさんが持ってきてくれた最初の一杯を受け取ると、そのジョッキを高々と掲げた。
「みんなっ!
俺はまたも生きて帰った!
今夜は俺の奢りだ!
じゃんじゃん好きにやってくれやー!」
ロックさんの大きな声がお店の中に響いた。
常連さんたちが大いにロックさんを称えて、ジョッキを掲げる。
わーっと盛り上がる。
なんか懐かしい。
私がこの世界に来た初めての夜も、こんな感じだったね。
「これは……。今夜は倒れるまで食べねばなりませんね……!」
「ヒオリさん、もうそこまでお金に困ってないよね……?」
前金に加えて学院の給料もあるし。
「そういう問題ではないのです。心意気の問題なのです。給仕殿! なんでもいいから食べ物をお願いします!」
まあ、いいけど。
私はお店の雰囲気を楽しませてもらおう。
騒がしいのは大好きだ。
しばらくすると、あちこちの席に呼ばれて歩き回っていたロックさんが私たちのところに戻ってきた。
「ロック殿、遠慮なくいただいております!」
「おう。食ってくれ」
ヒオリさんは一心不乱に食べていた。
「そんなに儲かったんだ?」
今夜は俺の奢りだなんて、まったく豪気だよね。
「おうよ。大儲けだったぞ。ま、当分は遊んで暮らせるな」
「へー。いいなー」
「っても、少し休んだらまた冒険に出るけどな」
「そうなんだ」
「俺には冒険が似合ってるだろ? 遊んで暮らしてても退屈だしな」
「それはわかるー」
「ガキのくせにこの心意気がわかるってか?」
「私、お店やってるしね。休みっていうのは、たまにだから価値があるんだよね」
知った顔で述べつつも。
私は、かなり好き勝手にお店を閉めている気もしますけども。
「本当にオープンしたのか?」
「うん。あ、これちらし。ブリジットさんと来てね?」
ちらしを渡す。
うっかりアイテム欄から普通に出してしまったけど、ロックさんはジョッキを口に当てていて気づかなかった。
セーフ。
「てか、なんでおまえ、そんなにブリジットにご執心なんだ?」
「ブリジットさんには通じるところがあるんだよ」
「そりゃなんだ?」
「センスだね」
はっきり言って、私にはお笑いのセンスがある。
私はブリジットさんにも、私と同じセンスを感じているのだ。
「……まあ、そーゆーもんか」
「連れてきてね」
「わかったよ。連れてきてやる。明日の夜に、またここでいいか? 昼はあいつの方に用事があるから無理だ」
「やった! 夜でもいいよいいよ! ロックさん、さすが! いい男!」
「なんだおまえ、やっと気づいたのか?」
「気づいた気づいた! よろしくね!」
「いや全然気づいてねーだろ! おまえ、相変わらずだな!」
「ロックさんもね!」
わはははっ!
2人でなんとなく笑っていると、メアリーさんが来た。
「楽しそうだねー! 私も遊びたいー! はいどうぞ、ロックさん」
「おう。さんきゅう」
メアリーさんが、ロックさんに新しいジョッキを渡した。
「メアリーさんはいつも大忙しで大変だねー」
「ホントだよー。まあ、儲かってるからいいんだけどねー」
メアリーさんはすぐに、次のお客さんのところに行ってしまった。
「儲かってると言えば、ブリジットの実家も今、儲かりすぎて大変らしいぞ」
「お店やってるの?」
「あいつんち、香辛料の栽培に成功して、それを使った激辛の屋台料理が大人気になってな。もうすぐ帝都に店を持つんだと」
「……それってもしかして、姫様ドッグ?」
「ああ、それそれ。やっぱり有名なのか?」
「うん。行列の屋台だよ」
ていうか、まさかの事実が判明した。
ブリジットさん、あの屋台のおじさんの娘だったのか。
「勝手に姫様なんて名称を使って大丈夫なのかと心配になるんだけどな」
「やっぱりマズイんだ?」
「当たり前だろ。でもまあ、有名になっても罰せられていないってことは大丈夫なんだろうけどな」
「平気だとは思うよ。一応、本当だし」
「姫様考案がか?」
「うん」
正確には私だけど。
セラも一緒だったしね。
「信じられねぇ話だけど、まあ、本当なんだろうなぁ」
「ねえ、もしかして、ブリジットさんの用事って屋台のお手伝い?」
「次の冒険が決まるまでは手伝うつもりみたいだぞ。せっかく稼いだんだからのんびりすればいいのにな」
「……行かねば。
……絶対に行かねば」
うむ。
朝イチで行こう。
「……なんだ、その妙に強い口調は」
「決意してるんだよ」
「間違っても店に迷惑をかけるなよ?」
「かーけーまーせーんー。私は無害で善良なだけの子ですー」
なぜ疑いの眼差しで見るのだ。
ずっと夢中で食べていたヒオリさんまで、なぜ手を止めて私を見るのだ。
「なぁに、ヒオリさん?」
「あ。いえ……」
「言いたいことがあるなら言っていいよ?」
「はい、あの、店長は、」
「なぁに?」
「ま、まさにっ! 地上に舞い降りた精霊かと! この世界を照らす光そのものだと思う所存であります!」
「なーんだもう、わかってるのかー。はずかしーなー」
「わははははははは! 精霊とか光とか! おまえ、大物だな!」
ロックさんが上機嫌に大笑いする。
「まあねー!
わはははははは!
よし、いっちょ、久しぶりにあれをやってやるか!
どう?
ほしい?
ほしいよねっ!」
「お。もしかして祝福か?」
「いえーす!」
「いいね! ぜひともくれっ! 精霊様の祝福ならいつでも大歓迎だぜ!」
「任せろー!」
よっと。
身軽に跳んで、私は椅子から身を起こした。
「みんな、聞いてくれー! なんと今夜は、この店に精霊様がいたぞ! これから祝福してくれるそうだから乾杯たのむわー!」
ロックさんが、お店の中に声を張り上げた。
おー!
と、たくさんの声が返ってくる。
みんなノリがいいね。
私もやりがいがあるというものだ!
まあ、さすがに、やるのはただの乾杯なんだけどね!
というわけで。
今夜も大いに盛り上がった。




