1338 余波
「おい、クソガキ! ラーメンとはなんだ! なぜ私に最初に相談せんのだ! まさかよそと手を組むつもりではあるまいな! 許さん! 許さんぞ! 条件があるなら言え! しっかりと検討してやるから早く言うのだ!」
「おい、クウ。バンザが息巻いていたが、また大会を開くそうだな。まったく、おまえというヤツはいつもいつも勝手に……」
はい。
なんか、ウェルダンとお兄さまから、立て続けに詰め寄られました。
それはまるで、私が――。
ラーメンを次の流行にしようとしているかのような――。
ラーメンの大会を開くかのような語彙でした。
もちろん、そんなことはありません。
私はただ、学院祭でラーメンの屋台を開きたいだけなのです。
とりあえず……。
放課後、お店に乗り込んできたお兄さまには、ちゃんと説明させていただきました。
「というわけなんですけど……。完全に誤解ですよね?」
「なあ、クウ。たとえ誤解であったとしても、すでにバンザを経由してサンネイラにもハラヘールにも通達されたわけだが? 次の賢人を決めるテーマはラーメンだと。両都市では全力でラーメン研究が始まることだろう」
サンネイラとハラヘールは、帝国を代表する食の都だ。
「へえ、すごいですね」
その両都市が全力なんて、それはもう、究極と至高のラーメンが生まれそうだ。
完成したら、ぜひレシピを教えてほしい。
私がそう素直な感想を述べると……。
「はははっ! 相変わらずの他人事で羨ましい限りだな!」
お兄さまには思っきり笑われた。
「……あの、私にどうしろと?」
「どうしてほしいと思う?」
「質問に質問で返すのはマナー違反ですよ?」
「気にするな。さあ、答えろ」
まったく、勝手な。
私は仕方なく考えて、
「まさか、ラーメン大会を開けと?」
「はははっ! その通りだ。わかってくれて嬉しく思うぞ」
「私、ラーメンには詳しくないんですけど」
「それを言ったらバーガーも、別におまえの専門ではなかっただろう?」
「まあ、それはそうですけどね」
たしカニ。
「よいではないか。帝国の繁栄を内外に示す再びの機会だ。前回のバーガー大会からも、それなりに年月が過ぎているしな」
「バーガー大会は、たったの半年前ですよ?」
年月というほどは過ぎていない。
「気にするな」
「はぁ。もう。私は今、学院生活で忙しいんですよお。お兄さまのおかげで、クラス対抗成績戦もそのままなんですし。私は足手まとい筆頭なんですよ」
「はははっ! 何を今更! それはバーガー大会の時も同じだっただろう」
「まあ、それはそうなんですけどね」
「しかしそうなると、学院祭でラーメン屋をやるのはよしたほうがいいかも知れんな」
「どうしてですか?」
むしろ繁盛しそうだけど。
「食通どもが押し寄せるぞ。なにしろ帝国ではラーメン――味噌や醤油の麺汁料理は、まだ普及していないのだからな」
「あー」
それは、ものすごく面倒なことになりそうだ。
みんなの心が折れそう。
というか普通のお客さんが消えそう。
「というか、それならラーメン大会をやめればいいですよね」
うん。
「はははっ! 今さら何を言っているのかな」
「今さらどころか、即座に、ですけど?」
「残念だが、今頃はサンネイラとハラヘールを駆け抜けているぞ」
「知りませんよー!」
「さて。では、問題なのは、いつの開催にするのかだな。最適なのは、学院の夏休みに合わせてだと思うが――。おまえたちの今年のバカンスの予定は、もう立っているのか? 立っているのならそれも考慮すべきだな」
「あーもう、やるんですねっ!」
「夏の祭典として最高だしな。今回も大いに盛り上げるぞ」
結局、第2回料理の賢人決定戦ラーメン大会は、8月の20日に決まりました。
夏の盛りの大祭典ということで。
あと、これはちょっと私からの意見で、すでに賢人であるバンザさんの参加は「なし」ということになりました。
賢人を決める戦いで、賢人が出るのはおかしいしね。
クラスの皆には、謝ることになりましたとも。
ただ、ラーメン屋というのは、まだ仮決定みたいなものだったので――。
以外にあっさりと――。
やっぱり、もっとわかりやすいものの方がいいかもだねー。
と。
みんな、ノリで候補にしてしまったものの、やっぱりよくわかっていなかったので、簡単に納得してもらえたのですが。
クラスの出店については……。
「あのお。それなら冒険者食堂っていうのはどうだろ。ほら、去年の実習のランチみたいな。冒険者の人たちから実際に食べているものを聞いて、さ」
「それいいな! 売る時には冒険者の格好もしてな! よし、そうしようぜ!」
アヤの提案に、レオが大いに乗って――。
そういうことになった。
うん。
アヤはボンバーズの事務所に公式に通えて満足。
レオは冒険者ゴッコができて満足。
エカテリーナさんは評価を得られそうな出店で満足。
私は仕事がなさそうで満足。
良い学院祭になりそうなのでした。




