1334 学院祭の出し物は/新たなる序曲
5月になった。
5月になると始まるのは学院祭の準備だ。
学院祭は、6月20、21日の2日間に渡って行われる。
学院祭はただの遊びではない。
武闘会でも展示でも出店でも、キッチリと評価されて成績につながる。
知恵、工夫……。
協調性、リーダーシップ……。
そうしたものを見られる重要な試験でもあるのだ。
クラスごとの評価もされる。
クラス評価もまた、個人評価につながる。
どれだけ個人で優秀でも、たとえばクラスが最下位ならば、協調性やリーダーシップに欠けると判断されてしまうのだ。
おそるべし、なのだ。
クラスごとの評価はやめよう!
生徒は個人!
という私の主張は、見事に却下されて今年も団体評価は続くのです。
ともかく学院祭は、真剣な行事なのだった。
「さあ、皆さん。今年は学院祭で何をするか、話し合いを始めましょう。決定するのはまだ先で良いですが、候補は出しておくべきです」
ホールムームの時間、エカテリーナさんが壇上に立って言った。
今年もうちのクラスはエカテリーナさんがまとめ役だ。
エカテリーナさんはしっかり者の優等生で、しかも精霊の加護を受けた貴族令嬢。
文句はなしだろう。
「今年もバーガー屋にしようぜ! 俺、新作バーガーを考えてきたんだよ! 絶対に売れるから勝利は確実だぜ!」
椅子から立ち上がってレオが息巻く。
レオも貴族家の息子で、しかも跡取りなんだけど……。
レオは勢いだけで空回りすることも多くて、まだまだこれからの青年だ。
実際、今も……。
「具体的にはどんなバーガーなの?」
試しに私が聞いてみると――。
「フ! この俺様の偉大な発想力に驚くなよ! 名付けて10段バーガー! 去年の5段重ねを超える10枚のパティを重ねた超バーガーだぜ! どうだ、新しいだろう? これぞ発想の転換、食のイノベーションだぜ!」
と、自信満々に吠えた。
「あ、はい」
私は優しいので、とりあえず、うなずいてはあげた。
「さあ、皆さんの意見をお願いします」
エカテリーナさんは話をやり直した。
さすがに5段を10段にするだけでは、去年の焼き回しと評されるだろうしね。
スルーはやむなしだ。
「おいい!? なんだよおまえら!?」
レオのことは気にせず、私は「うーん」と考えを巡らせた。
そうだなぁ……。
私には文化祭に関する知識はいろいろとある。
自分で経験していなくても、漫画やアニメで何度も繰り返されているしね。
演劇とか……。
お化け屋敷とか……。
メイド喫茶とか……。
でも、うん。
そのあたりは、普通に去年の学院祭でもやっていたか。
帝都中央学院の学院祭は多彩なのだ。
まあ、うん。
去年の学院祭の思い出は、気のせいか、ほぼユイナちゃんだけどね……。
ユイナちゃんの大暴れしか印象に残っていないや……。
マリエには大迷惑をかけたものだ。
今年はナオが来る。
ユイナちゃんも再び来るのかも知れない。
今年もマリエには頑張ってもらわねばならないけど。
マリエは、うん。
ラシーダの来襲を受けて、今は大変だろうけど……。
なにしろ私の手には負えなくて、結局、丸投げしちゃったしね……。
でも、そろそろ慣れたことだろう。
マリエは強い子!
大丈夫、なんの問題もないばずだ!
と、私が大いに思考を脱線させていると――。
「クウちゃんは何かないの?」
となりの席のアヤに声をかけられて、私はハッと我に返った。
そして反射的に言った。
「ラーメン」
と。
「ラーメン? ラーメンってあれか? 聖国の料理だろ? 確か、パスタみたいな麺をスープに浸して食べるっていう」
レオはそれなりにラーメンを知っているようだ。
レオの言う通り、ラーメンはすでに聖国には存在している。
だけどメジャーな料理ではない。
聖国で流行っているのは、おにぎりとかおでんとか煮物とか味噌汁とか……。
ユイの好物が中心だしね。
そして帝国では、まだほとんど流通していない。
「いいんじゃねーか。新しいし、挑戦してみる価値はあるかもだな」
レオがそう言うと――。
その波はすぐにクラス全体に伝わって――。
なんと。
うちのクラスはラーメンの屋台が第1の候補となった。
私は、のほほんと思った。
いいかもだねー。
と。
そう。
私はこの時、思いもしていなかったのだ。
だけど思い返せば――。
この時が、新たなる食の戦いの、まさに発火点だったのだろう。
ラーメン大戦。
帝国中を巻き込んで燃え上がる――。
それは恐るべき戦いとなるのだ――。




