1333 ランチタイム
陛下からお誘いもあって、今日のお昼は皇妃様たちとご一緒になった。
「クウちゃんとこうして食事をするのは久しぶりですね」
「はい。そうですね」
皇妃様に微笑まれて、私はうなずいた。
「でも、あの、よかったんですか?」
なにしろ皇妃様はドレス姿だ。
アリーシャお姉さまとセラも、ドレスを着ている。
つまり、他に何か予定はあったのだろう。
「何言ってるのよ。クウさまに誘われたら、それが最優先に決まっているでしょ」
「なの。クウちゃんさまに逆らったら、とんでもないことになるの。イルはそれを身に染みて理解しているの」
食堂には2人、おまけもいた。
偉そうな顔でそんなことをいうのは、妖精のミルと水の大精霊のイルの2人だ。
2人はすっかり、この大宮殿に住み着いている。
まあ、うん。
ミルはミルで妖精郷に、イルはイルで精霊界にそれぞれ仕事と立場があるので、常に大宮殿にいるわけでもないけど。
ただ今日は、運良くか運悪くか、揃ってしまっていたようだ。
「私も誘われたんだけどね」
うん。
陛下に。
「なんにしても、ご一緒できて嬉しいわ。学院では、なかなか会えませんし」
「その通りです。まさに、クウちゃんだけに、です」
まあ、今日はこれから食うしね。
クウちゃんだけにではある。
「ありがとうございます。私も久しぶりで嬉しいです。セラとも久しぶりだよね、こうやって一緒にお食事をするのは」
「本当です。学院なんていらないですよね、本当に。ずっと長期休暇なら、ずっとクウちゃんと遊んでいられるのに」
「あはは。夏休みを楽しみにしておこう」
「そうですねっ! 夏休みには、またどこかに行きたいですよねっ!」
話が脱線しかけたところで――。
「こほん。クウちゃん、今日はお父様と何やらお話をしていたとか。突然の昼食は、それに関係があるのでしょう?」
と、お姉さまが咳をついて、軌道修正してくれた。
「はい。実は――」
食事が運ばれてきたのでいただきつつ、私はディレーナさんの婚約話を語った。
「というわけなんです。それで3人の意見を聞きたくて――。というか、おまえが聞いてこいと陛下に言われまして……」
「まったく、ハイセルにも困ったものね。クウちゃんを顎で使うなんて。ごめんなさいね、迷惑をかけてしまって」
「いえ、そんな。おかげで久しぶりにご一緒できましたし」
「ちなみにわたくしは賛成ですわ。アレが他国に行ってくれれば、わたくしも暮らしやすくなるというものです」
お姉さまが言った。
「わたくしは、やはり本人の気持ち次第だと思いますけれど……」
セラは私に近い意見のようだ。
「わたくしはもちろん賛成です。正直、アレがわたくしの義理の娘になるなど、考えただけで悪夢のようでしたし」
お姉さまに続き、皇妃様も辛辣だった。
アレとか……。
今までの敵対関係を考えれば、やむなしだけど……。
「わたくしは娘にするなら、クウちゃんのような子の方がいいですわね。ええ。可愛らしくて優しくて頼りになって気も合いますし」
「あはは。ありがとうございます」
リップサービスだろうけど、皇妃様にそう言ってもらえるのは嬉しい。
「そうですねっ! わたくしもそう思います!」
セラが同意してくる。
「そうですね。やはりクウちゃんですね。クウちゃんであれば、わたくしも安心です」
お姉さままで言う。
「あはは。ありがとうございます」
そうも言われると、さすがに照れます。
同じ言葉を繰り返してしまった。
「ではクウちゃんも、そういうことでよろしいのですのよね?」
「え。あ。えっと」
急に皇妃様に問われて、私は戸惑った。
一瞬、何のことだかわからなかったからだ。
ただ、うん。
これからも仲良くしましょうね、ということかな。
だよね。
きっと。
「……はい。……私でよければ」
なので私は、うなずかせていただいた。
ちょっと恥ずかしかったけど。
「やりました! やりましたよ、お姉さま! クウちゃんが、よければ、ですって! これで帝国の未来は明るいですねっ!」
「ええ。その通りですね。わたくしたちの未来も明るいです」
セラとお姉さまが大げさに喜んでくれる。
「あはは……。ありがと……」
本当に照れてしまうね。
そこまで好きでいてもらえるのは、悪い気はしないし。
「わかりました。それならばわたくしも力を尽くします。これからもよろしくお願いしますね、クウちゃん」
「はい、皇妃様。こちらこそ」
こうして楽しく、昼食はおわった。
私はすぐに、その結果を陛下とバルターさんに伝えた。
すると陛下に言われた。
「……クウ、おまえは本当に何もわかっていないな?」
「ははは。まさにクウちゃんですな」
バルターさんには笑われた。
「噂によく聞く、これがまさに、クウちゃんだけにということか。まあ、よかろう。クウよ、これからもよろしく頼むぞ」
「あ、はい……」
バカにされているか、そうでないのか。
よくわからないまま、私は陛下の言葉にうなずくのでした。
ともかくこうして――。
ディレーナさんの婚約話は、一歩、前に進んだ。




