1332 政略結婚のこと
オトコノコ騒動ですっかり後回しになっていたけど……。
エリカ関連では、大切なことがあった。
私は休日の午前、久しぶりに陛下の執務室へと急行した。
いつものように大宮殿の外側から――。
陛下がいることを確認して、トントン、と、窓を叩かせていただいた。
すると思いっきり面倒くさそうな顔をされつつも、入れ、とジェスチャーされたので窓をすり抜けさせてもらって――。
「こんにちはー!」
元気に明るく、私は挨拶した。
「こんにちは、クウちゃん。今日もお元気そうで何よりです」
執務室には、ちょうどバルターさんも来ていた。
「バルターさんもこんにちは」
私は礼儀正しく、キチンとお辞儀をした。
「で、何があった? おまえ事案についてはカイストに一任してあるはずだが」
挨拶もしないで、いきなり陛下が本題に入ろうとする。
「今回は、お兄さまにも関わることなので……」
「ほお」
とりあえず、ちゃんと座って話すことになった。
席について、紅茶をいただく。
バルターさんも同席した。
「実はエリカから提案をされまして。今日はそれを伝えに来ました」
「まさか、かの薔薇姫が帝国に嫁ぎたいとでもいうのか?」
陛下が驚いた顔をする。
「いえ、むしろ逆で……。エリカは公爵家を新設するそうなんですが、その当主にお兄さんを据えて妻にディレーナさんを迎えたいと言うことで……」
「それは何の冗談だ? と言いたいところだが――」
「はい。本当です」
私がうなずくと、陛下は考え込んだ。
代わりにバルターさんが言う。
「それはまた、なんとも大胆な提案ですな」
「ですよねー。私もびっくりしましたよー」
「クウちゃんは、どうお考えで?」
「私ですか? 私は、本人の意思次第だとは思いますけど……。でもさすがに、まずは陛下にご相談をと思いまして……」
「ジルドリア王国から公式の打診が来るようなことは?」
「ないと思います。まずは私から確認してほしいと頼まれていまして」
「悪い話でないことは確かです。しかし、それがアロド公爵家のディレーナとなると、さすがに考えざるを得ないですな」
「実は、セラが第1候補とは言われたんですけど……」
「普通に考えればそうでしょうな。大国の公爵家となれば皇女でも釣り合います」
「でもそれは私が断りましたっ!」
なにしろエリカの兄は、エリカラブすぎていろいろアレだし。
つまりは完全な政略結婚。
セラにはふさわしくない。
まあ、うん。
じゃあ、ディレーナさんならいいかという話だけど……。
私はそのあたりのことも語った。
するとバルターさんは笑って言った。
「ははは。ディレーナ嬢であれば、大して気にしないでしょうな。なにしろカイスト殿下を政略的に狙っていたわけですから」
「あはは。そかー」
実は私もそう思っていた。
さすがに失礼なので、口には出さなかったけど。
「クウ的には、少なくとも反対ではないということだな?」
陛下に聞かれた。
「はい。それは、まあ……。悪い話ではないですよね?」
「この話は、まだディレーナ本人やアロド家には伝えていないのだな?」
「ここで話すのが始めてです」
「そうか……。ではすまんが、しばらく保留で頼む」
「エリカにも、そう伝えていいですか?」
「うむ。そうだな……」
アロド公爵家は、最近ではすっかり恭順して、いろいろなことに協力的だけど、今までは陛下と反目してきた。
なので慎重になるのはわかる。
娘がジルドリア公爵家に嫁ぐとなれば、力を得ることだろう。
エリカが実権を握って、ハースティオさんたちがそれを支える今のジルドリアは、まさに発展と繁栄の最中なのだ。
とはいえ、それで今の帝国における陛下の司政が揺らぐとは思えない。
帝国の権力基盤は、今や盤石なのだ。
「じゃあ、私はこれで」
陛下たちは仕事中なのだし、長居は無用だろう。
私はおうちに帰ろうとした。
「まあ、待て。クウ」
「はい?」
「ちょうどあと少しで昼食の時間だろう?」
「はあ……」
ちなみに今は午前10時だ。
ちょうどでも、あと少しでもない気はするけど……。
「たまにはアイネーシアと昼食はどうだ? 最近、機会がなくて寂しがっていたぞ」
「はい。皇妃様の予定が空いているのなら、私はいいですけど……」
「では決まりだな。その時に、今の話をしてみてくれ」
「いいんですか?」
「ああ。セラフィーヌやアリーシャにも構わん。うちの女性陣の意見を聞いて、賛成か反対かをおまえが取りまとめろ」
うわ、丸投げしてきたよ、このヒト!
と私は思ったけど……。
バルターさんにも賛成されてしまったので、私は引き受けることにした。
まあ、うん。
正直、皇妃様やお姉さまの意見は、私も聞いてみたい。
どう思うのか。




