1330 閑話・セラフィーヌの決意
学院の新年度が始まりました。
わたくし、セラフィーヌも無事に2年生になりました。
同じ魔術科のアンジェちゃんとスオナちゃんも無事に進級して、1年生の時と変わらない楽しい生活を過ごしています。
もっとも、魔術科では明確に生徒に順位がつきます。
わたくしは1年生の時、アンジェちゃんにもスオナちゃんにも勝てませんでした。
2年生になった時の学年首席はスオナちゃんで、次席はアンジェちゃん。
わたくしは第3席でした……。
2人は友人であり、ライバルなのです。
クウちゃんのためにも今年こそは勝たねばなりません。
わたくしは気合を入れて、新年度に挑んでいるのです。
残念なのは、学院ではほとんどクウちゃんと一緒にいられないことです。
クウちゃんは普通科。
学科が違うので、校舎も違うのです。
しかもクウちゃんはクラスのお友達に合わせて一般生徒用の食堂を使っているので、ランチの時にも顔を見ることができません。
では、わたくしも一般生徒用に――と言いたいところですが……。
皇女のわたくしにそれは許されていません……。
「はぁ……。むなしいです」
昼食後の昼休み。
わたくしは1人で廊下を歩いていました。
いえ正確には1人ではなく、クラスの方の数名とご一緒しているのですが……。
彼女たちには失礼と思いつつ……。
それでもわたくしは虚しかったのです。
スオナちゃんとアンジェちゃんは、生徒会室に行っています。
クウちゃんだけに……。
クウちゃんだけに……。
くう。
なのです……。
なにしろ2年生になってから、一度も学校でクウちゃんに会っていません。
これはどういうことでしょう。
ただ、口に出してしまったのは失態でした。
どうしたのかと心配されて、私はあわててなんでもないと笑います。
まさに、クウちゃんだけに、くう。
です。
わたくしがクウちゃんを見つけたのは、そんな時でした。
「あははー。そうなんだー」
人波の中、明るい声が聞こえました。
そしてキラリと輝く、青い髪も。
間違えるはずはありません。
わたくしは人波の中を走って、クウちゃんに追いつこうとして――。
…………。
……。
その足を止めました。
「エンゼは本当に、いろいろなことを知っているねー」
「そんなことはないよ。たまたまさ」
「すごーい」
クウちゃんが、それはもう楽しそうに、キラキラと輝いた笑顔を見せています。
そのとなりにいるのは……。
クウちゃんが笑顔を見せているのは……。
クウちゃんよりも背の高い、歌劇に出てくるように綺麗な男子生徒でした。
その男子生徒が、クウちゃんと、もうひとりの女子生徒を並べて、まさに両手の花のように廊下を歩いているのです。
クウちゃんが……。
世界の中心たるクウちゃんが……。
男子生徒と、ただの左側の花になっているのです……。
しかも、わたくしがうしろに来ても、まったく気づくこともなく……。
夢中になっています……。
わたくしは声をかけることもできず……。
呆然と……。
愕然と……。
それを見送ってしまいました。
クウちゃんだけに、くう、すら、することはできませんでした……。
大変なことになってしまいました。
わたくしはその日、虚無の中で午後の授業を受け――。
学校がおわると、すぐさま、大宮殿へと帰りました。
そしてお兄さまを探して、見つけて、言います。
お兄さまは執務中でしたが、そんなことは関係ありません。
一大事なのです。
「お兄さま! 大変ですよ! クウちゃんが大変なことになってしまいました!」
わたくしは今日の昼に見たことをお兄さまに伝えました。
そう。
口に出したことはありませんが、わたくしは密かに思っていたのです。
クウちゃんもいつか結婚するのであれば、その相手はお兄さましかいないと!
だって、そうなれば、わたくしとクウちゃんは家族!
ずっと一緒なのです!
わたくしは、どこに嫁ぐかまだわからないので、もしかしたら遠くに行くことになってしまうかも知れませんが……。
でも家族であれば、普通より会う機会はたくさん作れます!
それは素晴らしいことなのです!
わたくしの話を聞いたお兄さまは――。
「その生徒はエンゼと呼ばれていたのだな?」
「はい! そうです!」
「はははっ! まあ、よいではないか。それはジルドリアからの留学生だ。友好関係の構築は悪いことではなかろう」
などと、まるで他人事のように笑うのです。
「お兄さま! 何を言っているのですか!」
わたくしは激怒しましたが――。
「それならセラフィーヌ、おまえがエンゼをお茶会に呼べばよかろう? 自分の目で、それがどんな相手なのか、しっかりと見定めてみろ」
「――わかりました」
そうですね。
お兄さまに頼ろうとしたわたくしが間違いでした。
わたくしは決意を固めます。
クウちゃんの目を曇らせた大悪党!
わたくしが自らの手で、成敗してみせようではありませんか!
わたくしはすぐに大宮殿を出ると、馬車を走らせ、マリエさんの家に向かいました。
戦いには仲間が必要です。
それはマリエさん以外にはありえません。
しっかりと打ち合わせをして、確実に勝たねばなりません!
負けられません……。
絶対に……!
クウちゃんだけに、くう!!! です!




