133 ロックさんと再会
夜。
私はヒオリさんに夕方のことを愚痴っていた。
「――て、ことがあってね。もう私は疲れたよ」
「あはは。怒られるより信奉されることを嫌うとは店長らしいですね」
「えー。ヒオリさんはそう思わないー?」
「某ですか……。うーん。某、恥ずかしながら故郷では特別な存在としてチヤホヤされておりましたので……」
「あー、そういえばそうだったねー」
場所はいつもの『陽気な白猫亭』。
なんかすっかり、夜はここにいるのがお約束になった。
いやもう、夕方は大変だった。
ローゼントさんに精霊様扱いをされて、どーかどーか屋敷に来てくださいと懇願されたのを逃げてきた。
陛下は聞いていないふりをして助けてくれないし。
皇妃様が「子供を夜まで連れ回してはいけない」と言ってくれて、なんとか帰ってこれたけど。
皇妃様には夜まで連れ回された記憶があるけど。
それはいったん忘れよう。
うん。
明日もセラとは遊ぶ約束をしていて、午後には会うんだけど。
ローゼントさんがいそうで嫌だなぁ。
いないといいけど。
皇妃様がなんとかしてくれていることに期待しよう。
「しかし、そう考えると某は幸せ者ですね」
「どうして?」
「だって、こうして店長と楽しい時間を過ごせておりますし」
「なるほどー。まあ、ヒオリさんは、見た目が私と同じくらいだしねー。さすがにおじさんだったら断わってるよー」
年齢はヒオリさんの方が上かもだけど。
見た目の印象が違いすぎる。
「それはそうですね。某、ハイエルフで幸運でした」
「ハイエルフって、みんな外見は若いの?」
「そうですね。外見の成長は10代で止まる者が大半です」
「羨ましい種族だー。ちなみに何歳くらいまで生きるの?」
「夢幻の森にいる限りは、いつまでも……でしょうか。ハイエルフは、夢幻の森では霊体なのです。存在を望む気持ちこそが存在を構成しているので、存在したい限りは在り続けます」
「ヒオリさんみたいに森から出ているとどうなの?」
「一般のエルフと同じように、外見に変化は起きませんが、生命力の自然な喪失でやがては活動を停止するかと」
「それは、死んじゃうってこと……?」
「はい。そうですね。ただ、と言っても、エルフで1000年、ハイエルフならその数倍でも余裕ですが」
「へー。長生きだねー」
「さらに生きたければ夢幻の森に帰ればいいだけなので、寿命を気にすることはありませんね」
ちなみにエルフは、霊体になることはできないそうだ。
そこがハイエルフとの決定的な違いらしい。
あとエルフは、20代から30代まで外見の成長が続いて、ハイエルフより外見的には大人に見えるらしい。
「夢幻の森は、どんなところなの? 不思議な空間っぽいね」
私は質問を続けた。
「そうですね……。次元の狭間に存在する閉鎖空間――でしょうか。浮遊する島や宝石の柱があって幻想的ですよ」
「へー。いいねー」
「霊体でなければ立ち入ることのできない領域ですが、店長であれば普通に入ることはできると思います。なにしろ精霊ですし」
「機会があれば行ってみたいけど、いつになるかなー」
「あはは。店長は大忙しですしね」
「うんー。ホントだよー」
セラのデビュタントにおまけで参加して、ダンジョン巡りして、学院にも行くことになりそうだし。
お店の経営もあるし。
ああ、ユイとエリカにも会いたいなぁ……。
遠すぎてなかなか行けないけど。
でも、2人には、できるだけ早めに会っておいた方がいいよね。
国際情勢も不穏だし。
少なくとも帝国に私がいることは伝えたい。
海も見てみたい。
港町で海鮮料理を食べたい。
魔王のことも調べないと。
ナオはカメの姿のままで、自分があきらめたから魔王もあきらめたって自信満々に宣言していたけど……。
ホントかなぁ。
本当ならなんの問題もないけど。
ああ、それ以前に、精霊界もあるのか!
「……うん。今ね、ちょっと考えてみたけど、無理だと思った」
まあ、うん。
いつか機会があれば、だね。
そんなこんなで、私たちは会話しつつ食事を楽しんだ。
乱暴にお店のドアが開いたのは、その最中でのことだ。
現れたのは、いかにも乱暴そうな男たちだ。
「おう。なかなかいい店じゃねえか。ここにしようぜ」
「いらっしゃいませー」
メアリーさんが愛想よく近づく。
「すみませんお客さん、今、テーブルがいっぱいで。
入るとすれば、おひとりずつの相席になってしまうんですけど……」
「はぁ?」
男が店内を見回して……。
あ。
私とヒオリさんのところで目が止まったぞ。
「あそこに場違いなガキの2人連れがいるじゃねーか。
あいつらを退かせば済む話だろ?
とっとと退かしてこいや」
「そういうわけには……。あの子たちはうちの常連なので……」
「はぁ!? 俺たちが金を払って酒を飲んでやるって言ってるんだ! 金にもならねぇガキなんぞいらねえだろうが!」
もう。
めんどくさいなー。
この平和なお店に来るんじゃないよー。
こういう時に限って、強そうな人は誰もお店にいないしなー。
いや、うん。
お店で喧嘩なんてしたらダメだよね。
迷惑だし。
「ヒオリさん、今夜は帰ろっか」
「はい。そうですね……」
しょうがない。
ここは譲ろう。
「いや帰んなくていいからね!?
こんな礼儀知らずども、うちの店にはいらないから!
あんたら、さっさと消えろ」
うわメアリーさん、言っちゃったよ。
男の顔が真っ赤になったよ。
拳を振り上げたよ。
でも、うん。
あれだねー。
やっぱ、世の中には、ヒーロー属性の人っているんだねー。
前にアーレで助けられた時のことを思い出す。
がっちりと男の手首をつかんで、ヒーローさんが呆れた声で言う。
「おいおい。女に手ぇ出すなよ」
「誰だてめぇ!」
「俺か? 久々に来たここの常連だよ」
そう。
颯爽と現れたのは久々のAランク冒険者、ロックさんだった。
ロックさんが軽々と男を店の外に投げ飛ばす。
男はいきり立つけど、仲間に止められた。
「……おい、やめとけ」
「……相手が悪いって。あいつ、赤き翼のロック・バロットだぞ」
「な……。あのAランクのか……」
「ああ……。やべぇって」
ロックさんに行けとジェスチャーされて、男たちはすごすごと去っていった。
「ロックさん、ありがと。助かったよー!」
「なーに、気にするな。メアリーちゃんに怪我がなくてよかった」
「あと、おかえりっ!」
「おう! ただいま!」
ロックさんとメアリーさんが明るく言葉を交わす。
「ロックさん、ひっさしぶりー!」
私は手を振った。
「おう、クウか。おまえも元気そうだな」
ロックさんが近づいてくる。
「ちなみにロックさん、1人なの?」
続けてお店に入ってくる人はいないようだけど。
「おう。そうだけど?」
「はぁ。なんだぁ」
私は落胆した。
「おい、なんだよ。わかりやすくガッカリしやがって」
「ブリジットさんは……?」
「あいつなら家に帰ったぞ」
「残念。会いたかったのに」
「……おまえ、ブリジットとそんなに仲良かったか? どちらかと言えばダチなのは俺の方だろ?」
「はぁ」
「この野郎……」
ホントにがっかりだよー。
最序盤の第4話で初登場したAランク冒険者ロック、第16話以来の久々の登場\(^o^)/
約100話ぶり\(^o^)/
本当はもっと早く出したかったのですが、
あれやこれやしている内に話数が伸びてしまいました。。。




