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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1328 閑話・はぐれ狼オムの成り上がり 海洋都市編3






 あああああああ……!


 俺は絶望の中で、2階のテラスに上がってきた青い髪の魔王の姿を見やった。

 広場で騒いでいた連中は、みんな、倒れて動かなくなった。

 テラスにいた俺の部下ども、ローブの連中も……。


 あああああああああああああああ!


 魔王を崇めているのに、倒れて動かくなった。

 みんな……。

 みんな殺されちまったぁぁぁぁ!

 命を刈り取られちまったぁぁぁぁぁ!

 もう駄目だおしまいだあぁぁぁぁ!


 俺はオム。


 魔王教団の教祖に祭り上げられて、いい気になっていた男……。

 いや、ヤベーとは思っていたんだ。

 魔王には関わるべきじゃねえ。

 教団の連中は、全員、狂っていやがる。

 そう思ってはいたんだ。


 俺の直感はいつでも正しい。

 俺には力がある知恵もある。

 俺は優秀だ。

 俺はできる男だ。

 なのにどうして、俺は俺の直感を信じなかったのか!


 すぐに逃げるべきだったんだぁぁぁぁ!


 俺は心の中で絶叫したが、尻餅をついて倒れた体はピクリとも動かなかった。


 魔王が輝く瞳で俺を見つめる。


 カツン。


 と、すでに動く者もいない、静まり返った空間に――。

 魔王の足音が響く。


 カツン。


 陽射しの中、魔王が青い髪をきらめかせて、俺に近づいてくる。

 俺は息を呑んだ。

 それしかできなかった。


「ねえ」


 魔王が言う。


「は、はい……」

「君さ、たしか、蹴っ飛ばしたことあるよね? 名前、なんだっけ?」

「お、お、おむ、おむ」

「オムライス? オムレツ?」

「お、おむらいす……」

「じゃあ、オムライス。質問をするね? どうして君はこいつらと一緒に、こんなところで邪悪な儀式をしているの?」

「そ、それは……」

「それは?」


 ど、どうする俺……。

 まずはオムライスを訂正するべきか。

 本当は俺はオムライスではない。

 オムだと。

 いや、しかし……。

 そんなことを言えば、俺はきっと殺される……。

 俺はオムライス。

 そう。

 俺はオムライスになるしかないんだ……。


「それは、なに?」

「俺はなる! オムライスにぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

「は?」


 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 俺は何を言っているんだぁぁぁぁぁ!


 俺は土下座した。


「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません! 俺は本当はオムライスではないんです違うんです別人なんです!」

「なら何なの?」

「俺は――。俺は――」


 俺は何なんだ。

 俺はいったい、オムライスでなければ、何だというのか。


 覇王か!?

 大陸王か!?


「まあ、いいや。ねえ、この女がしていたような石の仮面みたいなアイテム? そういうのはまだ他にあるの?」

「い、いえ……。それだけみてぇです」

「どこで手に入れたのかはわかる?」

「へえ……。賛同者からもらったと、その女は言っていましたが……」

「賛同者? 誰?」

「すいやせん、俺は知りません! 本当です!」

「ふーん。まあ、いいや。じゃあ、この女が知っているんだね?」

「へい! そうです! その通りです!」


 俺は全力でうなずいた。


「それで、君はどうして、こいつらと一緒にいたの? 仲間なの?」

「俺は違いますぅぅぅ! 連れて来られただけなんですぅぅぅぅ!」

「ふーん。なんか怪しいけど」

「本当なんですぅぅ! 俺には病気の妹がいて、少しでもお金が必要なんですうう! どうか命ばかりはお助けをぉぉぉ!」


 俺はテラスに頭をこすりつけて懇願した。


「まあ、いいか。まだ動かないでね。邪魔されると困るし」

「へ、へい……!」


 俺は待った。


 すると目の前で、なにやら怪しげな光が生まれた。

 俺はおそるおそる、ちらりと見た。


 すると怪しげに黒光りする魔法陣から――。

 いかにも邪悪な気配を発した、黒ドレス姿の亜人の少女が現れた。


「はいはーい。悪魔メティネイルちゃんですよー。もー、やだ。やだやだやだ」


 少女はくたびれきっていたが――。

 悪魔、と名乗った……。


「さっきはごめんねー、つい蹴っちゃった☆」


 てへと魔王が笑う。


「それで、ご契約の内容はー?」

「うん。この女だけど、ちょっといい子にしてくれるかなー。なんでもいうことを聞く、とってもいい子にお願いねー」

「はーい」


 俺の目の前で、女が悪魔に何かをされる。

 女は自我を無くして……。

 まるでアンデッドのようになった……。

 女は問われるまま、石の仮面を手に入れた経緯を話していく。


 やべえ……。


 俺が教祖だなんて言われたら、俺も殺されちまう。

 俺は恐怖に震えて、ただ精霊様に祈った。


 時間は過ぎていき――。


「ありがとね、メティ。おかげでまたひとつ悪魔の隠れ家を潰せそうだよ」

「サイアクなんですケド……。あー。もー。やだやだやだー」

「じゃあ、またねー」


 契約を完了した悪魔が消えていき――。


 魔王もまた、空へと浮かんだ。


 俺は取り残された。


 俺は身を起こすと、倒れて動かない教団の連中を見て――。

 それから、大勢が倒れている広場を見て――。


 全力で逃げた!


 もう駄目だこの都市はおしまいだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 俺はオム。


 覇王でも大陸王でもオムライスでもない。


 今はまだチンケな、一匹のはぐれ狼。











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― 新着の感想 ―
えっ?オム、蹴られないの? オム、逃げちゃうよっ? いいの?オムも密かに蹴られたいって思ってるかもよ! オム、キタイかもよ?ヾ(*´∇`)ノ
まぁた逃げたし で、逃げた先でも此処と同様の気持ちが大きくなる様な事を仕出かすんでしょうねー これはオーク大帝国にでも落としてアンテナとして活用する未来も有りかも?(鬼畜発言)
あれ、クウさん本当に魔王になった?行動が魔王でしかないのだけど。まあゼノさんを態々呼ぶよりは気楽に使える人材という程度でしかないのでしょうけど
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