1327 こ、これは……。
こんにちは、クウちゃんさまです。
今日は休日。
私は今、悪魔のメティを連れて、久しぶりの海洋都市に来ています。
正直、トラブルは予想していました。
なにしろ海洋都市で平和に観光できたことなんてないので。
なのですが……。
さすがの私もこれは予想していなかった。
訪れた広場は狂気の渦だった。
時計塔のテラスに立つ、石の仮面をつけた怪しすぎるローブの女が、広場に居合わせた民衆に邪悪な力を広げまくっていたのだ。
女のうしろには、怪しいローブ姿の連中がずらりと並んでいて……。
まさに邪教の一派だった。
人々は、女の先導に合わせて、声を揃えて叫ぶ。
「「「「魔王様に祝福を! 我等に呪いを!
我等の破滅は糧となる! 我等の命は闇となる!
我等はそこに永遠の楽園を求める!
魔王様に祝福を! 偉大なる青き闇に、青の魔王に大いなる破滅を!」」」」
それを聞いたメティがからかって言うのだ。
「ぷぷっ! 青の魔王だって! それってクウのことじゃないの!? やったわね! ついに日頃の悪行が報われているじゃない!」
と。
はい。
青の魔王とは、海洋都市での私の異名ではあります。
ただし断じて、目の前の狂気とクウちゃんさんとは何の関係もありません。
なにしろ私は、かわいいだけが取り柄の無害な子ですし。
おすし。
そもそも破滅を願われているし……。
私はドン引きした。
「ほら、前に出てやったら? 私が青の魔王です、てさ! そして願い通り、何もかも破壊して殺戮してやりなよ! もちろん、メティちゃんも手伝ってあげるからさ! やっぱり海洋都市って最高に楽しいわね! きゃはははははははは!」
「ねえ、メティちゃん……」
「なぁに、クウ?」
「あの石の仮面って、悪魔が作ったものなの……?」
石の仮面が呪具であることは明白だ。
「悪魔っていうか、メティちゃん作ですケド?」
「おまえかぁ!」
「フォグにあげた試作品のひとつだけど、予想以上の効果でメティちゃんも嬉しいよ。あ、そうだ。フォグと言えばね、最近は南大陸にいるって話したけど、向こうは面白くないから、やっぱり中央大陸に戻ってくるってさ」
「え?」
「またこっちも楽しくなると思うよー。しててね、キタイ♪」
「キタイだとおおおおおおおおおお!」
「怒るとこそこおおお!?」
まあ、うん。
キタイはいいか。
キタイは……。
ともかく、それは大変なことだ。
なにしろ悪魔フォグは隠密能力が高くて、私の索敵にも引っかからない。
今までは、偶然にもいつの間にか撃退してきたみたいだけど……。
狡猾でいやらしい難敵なのだ。
だけど、うん。
今はそれどころではない。
まずは目の前の狂乱騒ぎをなんとかしないと。
私は石の仮面に標的を定めた。
「マジック・アロー!」
魔法の矢を放って――。
よし、命中!
石の仮面は粉々に砕けました。
これでいいだろう。
はい、解決。
と、私は思ったのですが……。
割れた仮面から、邪悪な力が渦のように吹き出したぁぁぁぁ!
そして、メティに纏わりついていくぅぅぅぅ!
「これは……。予想以上にすごっ! ついにメティちゃん、悪魔としてワンランク上の存在になる時が来たのかもぉぉぉ! はああぁぁぁぁぁ! ぐはぁぁ!」
なにやらメティが力をたぎらせて、まるでスーパー野菜人のようになっていくので……。
このままではマズイかなぁと思って……。
とりあえず蹴った。
魔力を込めて、邪悪な力ごと粉砕するように。
壁にめりこんだメティちゃんがぐったりして動かなくなる。
合わせて邪悪な力も砕け散った。
よし。
さすがは私。
カンペキなのです。
あ、でも、どうやら少し強すぎたようだ。
メティの姿が揺らいでいく。
……消えてしまった。
「まあ、いいか」
どうせ悪魔は殺されても魔界に帰るだけだしね。
まったく面倒なことに、基本的には不滅なのだ。
また今度、呼び出そう。
次に私は、広場の人たちを「スリープ・クラウド」の魔法で眠らせた。
そして、時計塔のテラスに上がる。
石の仮面をつけていた女は、すでに倒れていたけど……。
そのうしろにいたローブの仲間たちは、未だ健在なのだ。
「おい」
私はその連中を睨みつける。
すると一斉に、なぜか感動されて跪かれた。
「魔王様! 魔王様! 青の魔王様! どうか我等にも滅びと絶望を!」
ああああ……。
そかー。
青の魔王って私だったかぁ。
私は途方に暮れて、信仰する連中を見やって――。
そして、気づいた。
一番奥で立ちすくんでいる、どこかで見たことのある、大柄な狼族の男に。




