1323 1年生対決、テオルドvsラシーダ!?
「いえ――。失礼しました、マイヤ様、いえ、先輩」
幸いにもテオルドは、すぐに失言に気づいて頭を下げてくれた。
「謝罪はいいから、どうしたの?」
私は嫌々ながらも、お久しぶりのテオルドにたずねた。
「俺らが白騎士と黒騎士の強さを話していたら、そいつがいきなり絡んできて、騎士より親衛隊の方が強いとか言いやがって――。です」
「あー」
突っかかったのはラシーダか。
そしてまた、プリンセス・トラベラーズ絡みなのか。
くまったものだ。
私に口を塞がれて、ラシーダはもがもがしている。
何か言いたげだけど、また叫びそうだから、しばらくはこのままだね。
マリエに任せたいところだ……。
残念ながらマリエは、帝都中央学院にはいないけど……。
さて、どうしようか。
まあ、うん。
このままラシーダを連れて、さようならでいいかな。
と私は思ったのだけれど……。
「ところで、マイヤ先輩。エミリーのヤツは元気で――」
テオルドは、どうやらまだエミリーちゃんのことを忘れていないようだ。
テオルドは以前、パーティー会場でエミリーちゃんに怒られて、それでエミリーちゃんのことが好きになってしまったのだ。
だけど残念ながら、そのコイバナは切り飛ばされた。
なぜかいきなりエンゼが言ったのだ。
「ジルドリア王国でも、騎士団より親衛隊――正確な名称は王女専属メイド隊ですが、そちらの方が強いですよ。それが時代の流れです」
と。
これにはテオルドだけでなく、ラシーダの相手をテオルドに任せて様子を見ていた他の男子生徒たちも怒った。
「なんだと貴様! 騎士を愚弄するか!」
「帝国騎士の強さは大陸一だぞ!」
「ローズ・レイピアのことは知っているが、騎士が負けるはずはない!」
「実際に去年の御前試合で優勝したのは黒騎士だぞ!」
全員がエンゼに詰め寄る。
男同士なら遠慮は無用、といったところだろう。
あーあ。
騒ぎが拡大してしまった。
ただ幸いにも、たまたまお姉さまが通りかかってくれた。
「あら。これはいったい、なんの騒ぎですか?」
さすがはお姉さま。
その一言で、全員が静かになった。
「それでクウちゃん、1年生を相手に何があったのですか?」
「あ、いえ。なんでもないので」
「ならいいですけど」
お姉さまに視線を向けられて、テオルドたちも野次馬も、全員、去って行った。
ラシーダも大人しくなったので解放した。
「ラシーダさん、お久しぶりですね」
「はい。アリーシャ様。ご無沙汰しております。わたくしもついに念願の帝都中央学院に入ることができました。これからはマリエお姉さまと幸せな生活を送りたいと――。
そうだ、スカイ様!
マリエお姉さまはどこでしょうか!」
「どうしてマリエはマリエで、私はスカイなのかなー?」
「失礼しました。マイヤお姉さま」
まったく、礼儀正しく振る舞えば、可愛らしいご令嬢なのに。
どうしてこう残念すぎるのか。
「マリエはここにはいませんわよ」
お姉さまが答えてくれた。
「それは? 課外授業なのでしょうか?」
「いいえ。マリエは帝都中央学院の生徒ではありませんから。マリエは普通に一般の学校に通っていますのよ」
「いっぱんとは……。普通科のことでしょうか?」
「いいえ。他の学校のことです」
「他……。ここ以外にも、学舎があるわけなのですね……」
「いいえ。別の学校のことです。マリエは別の学校の生徒ですよ」
「え」
「なのでここにはいません」
お姉さまに繰り返し否定されて、ついにラシーダは完全に固まってしまった。
「クウちゃん、わたくしは生徒会の仕事があるので、あとは任せますね」
「あ、はい」
お姉さまは行ってしまった。
「クウちゃんさん、ごめんね。僕も余計なことを言ってしまったよ」
「ううん……。それはいいけど……」
はぁ。どうしようか。
「あの……マイヤお姉さま、今の皇女殿下のお話は……」
「真実です。マリエは学院にはいません」
「そんなぁ」
「とりあえずラシーダ、そういうことだから。もうプリンセス・トラベラーズのことは忘れて普通に楽しい学院生活を送るんだよ? そもそもプリンセス・トラベラーズのことは秘密。その約束を簡単に破りすぎていると信用を失うからね?」
「うううう……」
「わかった?」
「はい……。反省します……。申し訳ありませんでした……」
ラシーダがうなだれて涙ぐむと――。
お友達らしき1年生の女生徒が、私の様子を見つつ慰めてくれた。
「じゃあ、またね。いい子にしていたら、ちゃんとマリエのところには連れて行ってあげるから」
「ホントですか!?」
「うん。本当」
「わかりました! わたくし、いい子にしています!」
「うんうん。くれぐれもね」
よし、逃げよう!
私は急いで、その場から離れるのだった。