1322 壁ドンっぽい告白?
新年。4月。
確認テストも無事にクリアして、ようやく普通の生活が始まった日のこと。
学院のお昼休み――。
ランチも食べおわって、アヤたちは教室でカードゲーム、私は歩きたい気分だったので今日は1人で散歩することにした。
新年度も始まって、1年生が入って来て――。
去年のギザみたいなヤツが騒いでいないかなぁと期待しての部分もある。
いいよね、元気な1年生。
メイヴィスさんに矯正される前に、見つけて、見ておかないと。
と、思っていたところ――。
え。あ。
なにやら1人でキョロキョロとあたりを見ているクラスメイトに遭遇してしまった。
女の子に見えるほどの美青年、綺麗なオトコノコ。
ジルドリア王国から来たエンゼだ。
目が合ってしまう。
するとエンゼがこちらに来た。
「やあ、クウちゃんさん、奇遇だね」
なんて、朝日のような笑顔を向けてくる。
クウちゃんさん……。
エンゼと話すのは、実はこれが初めてだけど……。
いきなりそう呼ばれるとは思わなかった。
「どうしたの?」
私は、少しだけ緊張しつつも、何をしていたのか聞いてみた。
「うん。実はね……。クウちゃんさん、少しいいかな」
「え。あ。うん」
「こっちに」
「え。あの」
いきなり腕を取られて、壁際に連れて行かれました。
で……。
ほとんど壁ドンの状態で、耳元に囁かれます。
「僕のことは、聞いておられますか……?」
と。
「え。あ。うん。いくらかはね……」
「そうですか。ですが、告白させて下さい」
え。え? いきなり!?
出会って2分で!?
「実は僕は、エリカ様の命令で来ています」
なるほど。そっちか。
「だよね。知ってるよ」
「僕もクウちゃんさまのことは存じておりますが――。申し訳ありません、学院にいる間はクラスメイトとして普通に接してよろしいでしょうか?」
「私としても、そうしてほしいところだけど……」
「ありがとうございます。では、失礼します」
そういうとエンゼは、やっと離れてくれた。
「いやあ、僕のことを知ってくれている人がいてくれて本当に嬉しいよ。僕、せっかくの学院生活だからさ、許可もいただけたし、思いっきり羽を伸ばして、こんな男勝りな格好で来てしまったのだけれど思ったより大変でね」
男勝りって……。むしろ女の子みたいなんですが……。
と思ったけど、私は優しい子なので、もちろんそれは口しない。
「クウちゃんさん、今後はよろしくしてもらってもいいかな?」
「え。ぁ。うん」
「やった。ありがとう」
手を取られて、喜ばれてしまった。
よろしくって、なんだろう。
私、トリスティン送りにされてしまうのだろうか。
「……秘密のことも、お願いしたいかも」
なんて囁かれた!
秘密ってなに!
オトコノコの秘密って!
「どうしたの、クウちゃんさん」
「あ、うんん。なんでも……。それより、エンゼ。あ、エンゼって呼んでいい?」
「もちろんさ!」
「なら、エンゼ。いったい、何をしていたの?」
「そうだ。僕と同じ留学生の――。ほら、銀狼族の――。彼女はどこかと思って――。姿だけでもまずは見ようかと……」
「ああ」
ナオか。
そういえば、ナオが来ている前提の偵察任務だったね。
私はエンゼに、ナオの留学が中止になったことを教えてあげた。
「そうなんだぁ……。それは無念だなぁ……」
エンゼはいきなりの任務挫折に、大いに落胆してしまった。
でもすぐに立ち直った。
「でも、クウちゃんさんがいるか。これから君のことを、たくさん見せてほしい」
「私じゃなくて、学院ね」
一瞬、ドキリとしつつも、私はなんとか平静を保った!
いちいち心臓に悪い!
「せっかくだし、少し案内してあげるよ」
「それは嬉しいな。ありがとう」
というわけで、2人で並んで、お昼休みの学院を歩くことになった。
そしてすぐ……。
新入生同士のトラブル現場に遭遇した。
私の知っている2人――。
北方辺境伯嬢のラシーダと、黒騎士隊長の息子テオルドが……。
お互いに退かない構えで睨み合っていたのだ……。
正直、私は2人とも得意ではない。
ラシーダに見つかればミストだスカイだと騒がれる可能性が高いし……。
テオルドには以前に悪魔扱いされている……。
「こっちに行こうか」
私は横道に逸れることにした。
逃げよう。
だけど、うん。
「あ!」
そこにラシーダの明るい声が響いた!
そして言うのだ!
「テオルドさん! 貴方の運命もここまでのようですね! ついに来てくれましたわ! 我等が英雄プリンセスガードの1人――」
「おおっとお!」
私は一瞬に跳んで、即座にラシーダの口を塞いだ!
「げっ。貴様は悪魔!」
私の顔を見たテオルドがのけぞる。
はい……。
逃げることは、できませんでした。




