1320 夕方、ジルドリア王国にて
疲れた……。燃え尽きた……。
いや、うん、それは私ではなくて、勉強に付き合ってくれたエカテリーナさんやアヤの言うべき言葉ですよね、わかります。
というわけで……。
学校のおわった後、午後から私はひたすら勉強をした。
明日に行われる確認テストの予習だ。
おかげでなんとか、1年生に学んだことは思い出すことができた。
テストはそれなりに頑張れそうだ。
エカテリーナさんたちには、帰っても油断せず復習を――。
と言われたけど――。
今日の私は、これから予定があるのです。
ごめんなさいなのです。
「さあ、いくかぁ!」
私は気を取り直して、学院の制服姿のまま、転移魔法でジルドリア王国に飛んだ。
エリカに、いきなり現れた留学生――。
エンゼ・ディ・ロデスというオトコノコのことを聞くためだ。
「エリカぁ」
「なんですか、いきなり。あ、まさか」
すでにいつものことなので……。
執務を終えて、部屋で寛いでいたエリカのところにいきなり現れても、驚かれることもなく平然と返された。
「まさかって、オーノー?」
まさかりだけに、斧。
「オーク大帝国の周囲に、何か異変がありましたの?」
「ううん。それはないけど」
「なら、オーノさん?」
「ううん。そういう人でもないけど」
「なら、何ですか?」
「なんだっけ?」
なんか、忘れた。
斧とオーノーに塗り替えられてしまったよ。
「それならわたくしからいいかしら?」
「うん。なぁに?」
「クウたちには以前に話しましたが、わたくし、国内の反抗勢力を一掃して、今度、うちの兄たちで新設の公爵家を作ることにしましたの」
「うんー。それは聞いたよー」
「ついては、兄たちに正妻も準備したいのですけれど……。うちの兄たちは、ずっとわたくしの信者でしたから、未だに婚約者もいなくて」
「あー。だねー」
エリカの家族は、エリカが転生の時に願った通り、全員もれなくエリカ大好きなのだ。
大好きすぎて、エリカの歌で踊り回るくらいに。
エリカの兄弟は全員美男子なのに、それはもう残念なのだった。
「それで、なのですが……。帝国のディレーナさんをいただくことは可能かしら?」
「ん?」
「長男の嫁に、です」
「そんなこと考えてるんだ……?」
びっくりした。
「ええ。国外の人間で、血筋と家格に問題がなく、今後の発展にもつながる。政略結婚としては適切な人材だと思いませんか?」
「そ、そうかなぁ?」
「本当は、第二皇女のセラフィーヌが最適なのですが……」
「それは駄目です」
絶対。
「わかっていますわ。なので、第二候補で妥協しようと思いましたの」
「……第二候補の政略結婚で、幸せになれるの?」
「子が出来れば、ジルドリア王家と帝国皇家の血を持つハイブリッドとなるのですよ? 強力な基盤が得られますとも」
「なるほど」
私にとってそれは幸せではないけど……。
ディレーナさんなら、幸せにつながる気もする。
「でもそれ、私に聞かれても、だよね? 帝国に聞いてもらわないと」
「もちろん打診しますが、その前にクウの許可がないと。どれだけ話が進んでもクウに反対されればおわりでしょう?」
「えー。私、そんな権力なんてないよー?」
「何を言っているのか」
ため息をつかれた!
「では、反対はないということで、よろしいですのね」
「うん。まあね。ただ、ディレーナさんの意思は尊重してあげてよ?」
ディレーナさんはお兄さまを狙っていると思うし。
「わかりましたわ」
「それで、エリカの方はどうなったの? キンニクの人と婚約するの? それとも顔だけの人を改造して使うことにした?」
「改造とか使うとか、酷い言い方ですわ」
「でも、そうだよね?」
「まあ、それはそうですが……。確かに彼は顔だけですし……」
「私的には、キンニクの人がいいと思うけど」
キンニクの人、ニクルス子爵家のキンブリーさん。
ボンバーに匹敵する肉体派だ。
「まあ、アレです。わたくしについては、ゆっくりいきますわ。ユイにお相手でもできたら急いで考えますが」
「ユイかー。ユイはねー、無理そうだよねー」
ユイは結婚願望を強く持っているけど……。
なにしろ信奉されすぎて、対等にしゃべれる相手すらいない。
まだエリカの方がマシなくらいだ。
「なのでわたくしも安心ですわ。それでクウの用事は?」
「えっと。そうだったよね……」
なんだっけ。
私はあらためて考えて、ようやく思い出した。
「そうそう! オトコノコ! オトコノコのこと! 私を籠絡しようだなんて、そうはいかないんだからね! どういうことなのさ!」
「意味がわかりませんの」
「だからー! オトコノコだってばー!」




