1317 2年生の教室
「おっはよー、みんなー!」
朝、私は元気に教室のドアを開けた。
普通科2年5組。
それが私の新しい居場所だ。
とはいえ、実のところ、メンバーは変わらないのだけどね。
1年生から2年生でクラス替えはないようです。
「なんだよ、おまえ、まだ生きてたのかよ、クウ」
最初に返事をくれたのは、出入り口の近くにいた貴族青年のレオだった。
まあ、うん。
のっけからただの悪態ですが。
「レオこそ、よく生きてたね。春の園遊会にも来ないから、てっきりお爺さんのところでクマにでも食われたかと思ったよ」
「はっ! 冒険者を目指すこの俺様が、クマごときに負けるかよ」
「はいはい。今年こそギザのヤツをぶっ倒してねー」
「え。あ」
あはははっ! ざまー!
ギザの名前を出したら、レオのヤツは固まって止まった。
ギザは、同じ学年の騎士科にいる獅子族の青年。
それもう暴れん坊だったけど、今では立派なメイヴィスさんの舎弟だ。
レオとは秋の研修で一緒になって、ギザの方が一方的にレオをそれなりの戦士だと認めて、友人扱いをしている。
もちろんレオにギザとやりあえる力量なんてないので……。
レオはひたすらにギザから逃げている。のです。
「おはよう、マイヤさん。今年もよろしくね」
「うん。よろしくね、ラハくん」
次に挨拶してくれたのは、ラハくん。
温厚な文学肌の青年だ。
だけどなんと個性派揃いな私の友人知人の中でもひときわ目立つ2人、ボンバーとシャルさんの弟だったりする。
「クウちゃん、久しぶりー!」
「うん。そだねー、アヤー!」
アヤとは手を叩き合って、久しぶりの再会を喜んだ。
アヤはクラスで最初に友達になった子だ。
犬系の獣人族で、同じ族系のタタくんのことが実は大好きな子だ。
タタくんは今のところボンバーズの仕事に夢中のようだけど……。
うまくいくように、私は密かに応援している。
「2年生でもよろしくねっ! 勉強はちゃんとしてきた?」
「え。なんで?」
「なんでって……。今日から新学年だよ? まずは明日、確認テストだよね?」
「え」
「えって……。忘れてたの?」
「それは、えっと」
ヒオリさんも、そんなことは言っていなかったし……。
どういうことだろうか。
「まったく。初日から困ったものですね」
私が困惑していると、エカテリーナさんがやってきた。
「あ、やっほー」
私は笑顔で手を振った。
エカテリーナさんとは久しぶりではない。
エカテリーナさんはちゃんと貴族令嬢として大宮殿のパーティーに参加しているので、春の園遊会で顔を合わせている。
「やっほーではありません。テストは大丈夫なのですか? 2年生では、1年生以上にクラス順位が評価の対象となるのです。皆の将来もかかっているのですよ」
「う。それは、あの……」
「幸いにも今日は午前だけです。午後から、しっかりと予習しますからね」
「クウちゃん、私も付き合うから! 一緒に頑張ろう! ね!」
うううううううううう!
これだから……。
これだから、クラス順位は廃止したかったのにいいいいいい!
お兄さまに気づかれて、阻止されたのが悔やまれるうううう!
でも、はい……。
みんなに迷惑はかけられないので、頭を下げて予習はお願いすることにしました。
ちなみに私の失態と見れば喜び勇んでからかってくるレオは……。
この時、私と目が合いましたが、サッとそらして逃げました。
うん。わかる。
君も予習なんてやってくるわけがないよね。
ちゃんと誰かに教えてもらいなよ。
そんなこんなの内、朝礼の時間になる。
先生が教室に来て、壇上で言った。
「みなさん、おはようございます。本日よりみなさんも2年生ですね。
本日はまず新しいクラスメイトを紹介させてもらいます。
他国からの留学生です。共に学び、切磋琢磨しましょう」
教室がざわめく。
誰だろう。
留学生が入ってくるなんて、まったく聞いていなかった。
少なくともナオではない。
ナオの留学は残念ながら中止になった。




