1315 悪魔と仲良く?
「はー。もう、好きにすればー?」
メティネイルは、魔法陣の上であぐらを組んで座ると、腕組みしてそっぽを向いた。
攻撃の意思はないようだ。
意外なことに敵感知にも反応していない。
私は逆に、何か秘策を得ているのではないかと警戒を強めたけど――。
何かしてくる様子はなかった。
「店長、とにかく契約を」
「あ、そうだね」
ヒオリさんに急かされて、私はメティネイルの拘束に入る。
悪魔は契約に縛られる。
契約という繋がりを得て初めてこちらの世界に居続けられる異界の存在なのだ。
逆に言えば、このまま放っておけば遠からず消える。
ただそれでは呼び出した意味がない。
「じゃあ、メティネイル。私の命令には絶対服従すること。今この瞬間から、君は私の忠実なる永遠の下僕です」
かなり広義な契約を私は告げてみた。
どうだろうか。
もっと具体的に内容を絞らないと無理かも知れないけど。
お。
でも、メティネイルの体が光に包まれた。
感覚でわかる。
どうやら契約は成されたようだ。
「立て」
「え。はわっ!」
命令すると、驚き戸惑いながらもメティネイルは立ち上がった。
「回れ」
「ちょ、ちょー!」
命令すると、今度はちゃんと回った。
「しゃがめ」
「ね、あの」
うむ、メティネイルはしゃがんだ。
「ジャンプ。しゃがめ。ジャンプ。しゃがめ。立て、回れ、とにかく回転!」
「ちょー! やめてー! 目が回るからー!」
回りながらメティネイルが悲鳴を上げる。
その様子を見てヒオリさんとフラウが言った。
「さすがは店長です。まさか悪魔との契約で、悪魔を完全に操ってしまうとは」
「で、ある。妾も悪魔のことに詳しいとは言えないのであるが、悪魔を人形に代えてしまう契約など恐らく史上初なのである」
む。
いかん!
これは危険な状況!
私は気づいたけど、間に合わなかった。
「さすがはクウちゃんなのである」
「さすがは店長です」
くううううう。
クウちゃんだけに、くううううううう。
まさかの「さすクウ」を許してしまったぁぁぁぁぁぁぁ!
「む。どうした、クウ? 異常か?」
悶える私を見て、お兄さまが警戒した顔を浮かべる。
「あ、いえ。なんでも」
いかんいかん。
ホールにはお兄さまや陛下たちもいるんだった。
今度は陛下が言う。
「なあ、クウ。契約は成功したのだな?」
「はい。多分」
「ならばこの悪魔は、未来永劫、おまえの下僕ということなのか?」
「さあ、どうでしょうか」
確かに「永遠に」とは言ってみたけど。
それにどれだけの実行力があるのかはわからない。
なので本人に聞いてみた。
「ねえ、メティちゃん。そのあたりはどう? 永遠に私の下僕になっちゃった? そういう感覚はある?」
「ありすぎて怖いんですケド! どうしてくれるのよ、これは!」
メティネイルが涙目で訴えてくる。
「ふむ」
なるほど。
「ちなみに契約期間はどれくらいなの?」
私はメティネイルにたずねた。
「永遠?」
こてりと首を傾けて、メティネイルは質問を返してくる。
「永遠かぁ。ならこれで、脅威はひとつ減ったね」
よかったよかった。
「ねえ、ねえ、ちょっと……」
「なぁに? メティちゃん」
「メティちゃんは、清く正しい悪魔なのよ? 悪いことなんてしていないのにそれはちょっと酷いと思うんだけど?」
「そかー」
まあ、うん。
悪魔的にはそうなんだろうね。
価値観が違うのは当然だ。
「まあ、でも、安心して? 本当に永遠かはわからないよね? 基本的に契約って、魔界に帰ればそれで切れるんだよね?」
「帰してくれるの!?」
「あーなるほど。帰さずに永久にどこかに閉じ込めておけばいいのか」
「やめてぇえええ!」
「せっかくですし、有効活用できればよいですな」
バルターさんが言った。
「これ、私はいらないので差し上げますよ」
うん。
家に連れて帰ってもね……。
邪魔だし……。
私の提案を受けて、バルターさんや陛下たちは真剣に検討に入った。
ただ残念ながら、それは時期尚早という結論になった。
「じゃあ、どうしましょうね、これ」
「クウちゃん、とりあえず、検証に利用するのがいいと思うのである。対悪魔用に開発研究している魔道具を試してみたいのである」
「あー、それはいいねー」
「ちょー! 悪魔よりも残酷なことをしようとしていませんかー!」
「平気平気。なるべく痛くないようには、お願いするからさ」
というわけで。
メティちゃんの使い道は決まった。
ただ、私の目の届かない場所に置くのはやはり危険ということで――。
実験には私も付き合うことになったけど。
この日は深夜まで、いろいろと試させてもらった。
そして、深夜。
「メティちゃん、お疲れ様ー」
「…………」
いろいろ試されて、メティちゃんは少しだけお疲れの様子だ。
「おかげさまで、対悪魔の魔道具はますます発展しそうだよー」
「…………」
ぐったりとしている。
魔力もかなり抜かせてもらっちゃったしね。
やむなしか。
「じゃあ、お疲れ様。今日のところはこれで帰してあげるね。また呼び出すと思うからその時にはよろしくねー」
このまま残しておけば本当に永遠かもだけど、さすがに一緒に暮らすのは嫌だ。
ほんの少しだけ情もわいて、幽閉というのも可哀想になった。
なので、メティを送還して今日はおしまいということにした。
すでに日付としては明日だったけど。
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