1313 悪魔召喚
1月18日。
なんだかとてつもなく長く続いたように感じる冬休みも、残すところついに、今日を含めてあと3日となった日の朝――。
「ねえ、ヒオリさん、フラウ。そろそろ悪魔召喚してみよっか?」
私は、ふと思いついたことを口にした。
「わかったのである」
「了解しました。では本日は大宮殿に参りましょう」
「あ、いきなりでもいいんだ?」
しかし、いきなりではなく、2人は、精霊界での仕事をおえた私がそろそろ言い出す頃合いだと予測していたようだ。
なので密かに準備は進められていた。
というわけで。
お店のことはファーとエミリーちゃんにお任せして、途中で黒猫のゼノをひょいと拾い上げて、大宮殿に飛んだ。
大宮殿でも話は早くて――。
すぐに陛下からの了承を得て、ランチの後、すぐに行うことになった。
同席するのは、こんな人たちだった。
私、ヒオリさん、フラウ、人の姿に戻ったゼノ。
陛下にバルターさんにお兄さま。
魔術師団長のアルビオさんに、騎士団長のグラバムさん。
中央魔術師と中央騎士の精鋭が数名。
さらには、セラ。
あと、お姉さままで来ていた。
帝国の中枢たる方々の立会の下、大宮殿の豪華なホールにて……。
「……えっと。あの。本当にここでいいんですか? それに皆さんお揃いで。何かあった時に大変だと思うのですけれども」
「はははっ! ふわふわ工房の精鋭にゼノリナータ殿までいて事故となるなら、どこにいても同じであろう?」
陛下が鷹揚に笑った。
「左様ですな。それならば、この目で見ておかねば損というものです」
バルターさんも同意する。
「それでクウちゃん、どんな契約にするんですか?」
セラが好奇心旺盛にたずねてくる。
「それについては任せてっ! 悪いようにはしないからさっ!」
「クウ、くれぐれも言っておくが、遊びすぎるなよ?」
陛下がたしなめてくる。
「少しはいいですよね?」
「少しならな」
「くくく。クウちゃんの遊びほど怖いものはないのである。妾は、悪魔の泣き面を想像して笑みが止まらないのである」
「しかし念の為、対魔障壁は最大出力で張っておきましょう」
「うむ。妾たち渾身の魔道具の力を、示す時が来たということなのである」
フラウとヒオリさんがふわふわ工房特製の魔道具を起動させる。
ホール全体が障壁に包まれた。
その上に、私とゼノで結界を被せる。
うむ。
万全だろう。
このホール内から悪魔は逃げ出せないし、十分に力も発揮できないはずだ。
加えて全員に防御魔法もかけた。
攻撃されても、とんでもないことにはならないだろう。
すべて、「はず」「だろう」というところに不安はなくもないけど、こればかりは初めてなのだから仕方がない。
「さあ、やろうか」
私は笑って言った。
気負いはない。
悪魔といっても呼び出すのはメティネイルだしね。
「はい」
みんなを代表してヒオリさんがうなずく。
ホールに緊張が走った。
「で、どうやればいいの?」
私はたずねた。
「え」
と、言ったのは、こちらもヒオリさんだ。
「て、店長……。それはどういう……」
ヒオリさんが、おそるおそると言った様子で私にたずねる。
「どういうと言われても、私、知らないし?」
うん。
すべて丸投げでしたし。おすし?
「ヒオリよ。クウちゃんはあえて、妾たちにやってみよと言っているのである。妾たちに経験をくれようとしているのである」
「そ、そうでしたか。これは失礼しました」
そういうことになった。
この後、ヒオリさんとフラウに魔法陣を描いてもらった。
そして、魔界への門を開けてもらう。
普段、普通に過ごしていると忘れがちだけど……。
2人はハイエルフと古代竜。
しかも学院長であり、竜の里の長。
並の人間よりも遥かに優秀で強大な研究者であり魔術師なのだ。
2人の呪文で門は開いた。
それは門といっても、手のひらほどの小さな隙間でしかなかったけど、それでもホールに異様な気配が満ちた。
さあ、私の出番だ。
普通ならここで、願いを叫んで、悪魔に呼びかけて――。
悪魔に応じてもらうところだけど――。
今回は違う。
こちらから相手を指定して、超強力な魔力で強制的に呼びつけるのだ。
「来い! 悪魔メティネイル!」
メティネイルの魔力と姿をイメージして、私は叫んだ。
次の瞬間だった。
ぽんっ。
と、異様な気配と共に門が弾けて――。
魔法陣の上に現れたのは――。
コウモリのような翼を背中に持ち、黒いドレスに身を包んだ灰色髪の少女だった。
髪からは牛のような角が出ている。
女の子は、しゃがんだままの姿で、その真紅の瞳を私に向けると――。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
あきらめきった顔で、深々と、わざとらしくため息をついた。
うむ。
成功みたいだね。
魔力も姿も、私の見知っている彼女そのままだ。
「久しぶりだねー、メティちゃん。さあ、御主人様との契約の時間だよー」
私はにこやかに声をかけた。
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