1312 今日も工房は賑やかです
工房に入ると、ヒオリさんとフラウが必死に精神集中をしていた。
生成の最中だね。
だけど残念ながら今回は失敗のようだ。
かたまりかけた光は――。
弾けた。
テーブルの素材が、ぬいぐるみへと変化することはなかった。
「2人とも、朝から頑張ってるねー」
「なかなかうまくいかないのである」
「申し訳ありません、店長。ファー殿に差をつけられてしまい……」
「あはは。ファーは私の能力を引き継いでいるんだから、そりゃ、生成だって出来るよ。比べない方がいいと思うよー」
「はい……。そうですね……。しかし、無念です」
ヒオリさんはガックリとうなだれる。
「で、ある。妾たちも、クウちゃんの力にもっとなりたいのである。ただぬいぐるみは、ゴーレムのように力づくで固めるだけでは上手くいかないのである。難しいのである。極めて繊細な魔力操作が必要なのである」
「もう少しだけお待ち下さい。必ずや成果をあげてご覧に入れます」
「あはは。期待はしているけど、そうなったら私、本気でやることがなくなるね」
ちなみに期待です。キタイではありません。
私は簡単に踊ったりする子ではないのです。
「店長は発展に尽力していただければ、と」
「で、ある。クウちゃんは走り続けるのである。足元は、妾たちが支えるのである」
なんというありがたい言葉か。
私にやる気さえあれば!
でも、まあ、2人の気持ちはありがたく受け取っておこう。
私はお礼に、今日も生成のコツを教えてあげた。
しばらく工房にいると――。
あああ……。
「「「クウちゃんだけに、くう!」」」
お店の方から、イケナイ合唱が聞こえたぁぁぁぁぁぁ……。
私は仕方なく店内に戻った。
すると朝っぱらから、なぜかボンバーとサクナが来ていた。
どうしてよりにもよって2人そろって!
なんと偶然らしいけど……。
2人とも、偶然にもポーションを買いに来たという……。
「ふふ。巫女ちゃんさんのいる時にこの偶然、まさに運命ですね」
「ええ。その通り! 我らクウちゃんず! 導かれる者たちです」
「ではあらためて、わたくしがクウちゃんの巫女として、もう一度だけ言いましょう」
「こほん」
またやろうとしたセラの背後で、私は咳をした。
「クウちゃん!? いつからそこに!?」
「ねえ、セラ。約束したよね?」
「は、はう! ちがうんです! ちがうんです、クウちゃん! 今のは新年の挨拶! ただの新年の挨拶ですからぁぁ!」
「はぁ……。なら、もうしないよね?」
「はい! もちろんなのだ!」
まったく、もう。
いつから私の友人セラフィーヌさんは、こんなギャグキャラになったのか。
ボンバーとサクナを従えて、ビシッと敬礼するセラの姿に……。
私のため息は自然とこぼれるのでした。
「すみません、店長……。あまりの勢いに止める間もなくて……」
「ううん、いいよ。エミリーちゃんは気にしないで」
エミリーちゃんを慰めていると――。
ドアが開いて、今度はロックさんが現れた。
「よー、クウ! 来てやったぞ! おまえ、アニーたちんとこに行ってやったそうだな! いいとこあんじゃねーかよ! というわけで、おまえが来た記念に、アニーたちに鞄をくれてやることにしたから制作頼むわ、って――。なんでいるんだよ、テメェは!」
「ふ。ロックさんですか。なんですか? この私、ボンバーに何か御用でも?」
「あるわけねぇだろ、このデカブツが」
ロックさんとボンバーは、早食い対決から始まって――。
それなりに因縁の仲だ。
とはいえ、あくまでそれなりなので、本気で憎しみ合っているわけではない。
と、思う。
放置でいいだろう。
いつも、その内には収まるし。
いがみ合う2人の横を抜けて、ブリジットさんが私のところに来た。
「おはよう、クウちゃん」
「おはようございます、ブリジットさん」
「今日もいい天気だね」
「はい」
「んき!? んき!?」
いきなり手のひらを閉じたり開いたりして、ブリジットさんが奇声を上げた。
なんだろか……。
あ!
わかった! そういうことか!
「今日も綺麗な手ですね!」
いい手、んきんき!
意味はよくわからないけど、さすがはブリジットさん。
今日も好調だ!
――かくして今日も、私の工房は大賑わい。
楽しい日々は、続くのでした!
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