1311 かくして今日も
「クウちゃんだけに、くう! クウちゃんだけに、くう! クウちゃんだけに、くうううううう!」
「……えっと、どうしたの、セラ?」
「クウちゃんだけにぃぃぃぃ!」
「くう?」
「はい」
たずねると、急に落ち着きを取り戻してセラはうなずいた。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、我が家であるふわふわ工房の店内にいます。
マウンテン先輩が無事に合格した翌日、私は朝から店番をしていました。
そして、昨日の約束通り、セラが遊びに来たのですが……。
セラは私に挨拶した後、店内にいたファーにも言葉をかけて、私は束の間、セラから離れて棚の整理をしていたのですが……。
いきなりセラが叫び出して驚いたのでした。
幸いにも、まだ開店前。
お客さんはいないのでいいのですが。
ちなみにエミリーちゃんは、まだ出社していません。
そろそろ来る頃だけど。
フラウとヒオリさんは、ファーには負けてはいられないと、朝から熱心に奥の工房でぬいぐるみの生成に挑んでいる。
「ねえ、ファー。いったい、どうしたの?」
「おそらく、理由はこれかと」
ファーが指し示すのは、ファーが襟につけた工房の社章だった。
「そうですー!」
するとセラが全力で肯定してきた。
「クウちゃん! 酷いですよー! どうしてわたくしにはくれないのですかー!」
「え。だって、これは社章だよ……? うちの社員の証だし……」
セラは違うよね。
「では、わたくしも社員になります」
「それは無理だよね?」
さすがに。
「わたくし、今までも働いてきたではないですかー!」
「まあ、たまにだけね……」
役に立ったことは……。
ないけど……。
「クウちゃん」
「はい」
「わたくし、今日も全力で働く所存です。いえ、失礼。違いますね。こほん。ボクは今日も全力で働くのだ! だから社員にしてほしいのだ!」
誰だー!
なぜ、わざわざ気持ちを入れ替えて、謎のボクっ子になるのだー!
その子は卒業したんじゃなかったのー!?
したはずだよねー!
と、私は大いにツッコミたかったけど、結局、負けました。
「……はい。これでいい?」
セラの襟に社章をつけて差し上げました。
「ううう! やりましたー! ファーちゃん、わたくしもついに、ようやく、晴れて、ふわふわ工房の一員となれましたよー!」
「おめでとうございます、セラ」
「ありがとうござます! ありがとうござます!」
セラが大いに感激していると――。
「おはようございます。あ、今日はセラちゃんもいるんですね」
エミリーちゃんが出社してきた。
セラは早速、自分も社章をもらえたことを自慢する。
「では、セラちゃん。今日は工房の仲間として、どうぞよろしくお願いします」
「もちろんなのだ! ボクも店員として頑張るのだ!」
セラは元気いっぱいに力こぶを作って、やる気をアピールした。
するとエミリーちゃんは……。
いいんですか、これ?
と言わんばかりの顔で、私の方に目を向けてきた。
いや、うん。
だよね。
普段の言葉使いでいいのに、どうしてわざわざボクっ子になるのか。
「まあ、うん。よろしくね、エミリーちゃん」
「え?」
「私はちょっとヒオリさんたちの様子を見てくるからっ!」
セラの指導は、エミリーちゃんに任せよう!
その方がいいよね!
私には、たぶん無理だし!
「さあ、エミリーちゃん。いいえ、エミリー先輩。ご指導をお願いします。お願いしますなのだ。ボクはまず何をすればいいのだ? 指示を下さいなのだ」
「えっと……。あの、クウちゃん……?」
あははー!
私はいったん逃げた!
漫画1巻発売しました! よかったら見てやってください!\(^o^)/
■アマゾンページ:
https://www.amazon.co.jp/dp/4801985971




