1310 午後のこと
結局、お兄さまたちとのお話は、あれやこれや多くの議題があって、午前だけではおわらなくてランチタイムにまで続いた。
今日のランチは、冬の野菜を使ったコースメニューだった。
いつもの如くではありますが、豪華なのです。
美味しくいただきました。
「ところでクウちゃん、今日は午後からもお付き合いいただけるのですか? 実は学院でメイとブレンダと待ち合わせをしているのですが」
食事の後、お姉さまが言った。
「へー。今日も訓練ですか?」
「今日もではなく、今年になって初めての訓練ですわね」
「そかー」
どうしようかな。
生返事をしつつ私は考えた。
「ふふ。わたくしたち、年末の修行を経て、また一回り強くなりましたの。さすがのクウちゃんも魔法なしでは苦戦するかも知れませんよ」
「ねえ、お姉さま……」
「ええ。なんですか、クウちゃん」
「お姉さまたちは一体、そこまで強くなって、どこに行くんでしょうね」
すでに並の騎士以上なのに。
さらに鍛えるなんて。
するとお姉さまは自信満々に言った。
「無論、行けるところまで、ですわね」
おお……。
なんと、そんなカッコよく覚悟が決まっているのか……。
と思ったら、お姉さまは肩をすくめて、
「と、メイとブレンダは言っていますわ。わたくしはむしろ料理の勉強がしたいですし、運動は適度で良いのですけれど。とはいえ、あの2人はわたくしの数少ない友人です。付き合いというのは大切ですわよね」
「あはは。それはそうですね」
お姉さまは戦闘狂にはなっていないようで私は安心した。
メイヴィスさんとブレンダさんは、まあ、うん。
ですよね、って感じだからいいけど。
「まあ、でも、わかりました。付き合いは大切ですよね。せっかくですし、お姉さまたちの訓練に付き合いますよ」
「それは嬉しいですわね。よろしくお願いします」
「ちなみにお兄さまも一緒なんですか?」
「残念だが俺は別の用事だ。そもそも、さすがに普段から妹たちと行動を共にしすぎては、情けない噂が立ちかねないからかな」
「あはは。それは、まあ、そうですね」
「その代わり、ダンジョンに行く時は俺にも声をかけてくれよ?」
「はーい」
「……そうですわね。いっそ、今日はダンジョンでも」
「それはやめておきましょう」
お姉さまの提案については、ピシャリとお断りさせていただきました。
なにしろお姉さまたちとダンジョンに行く時には、キチンと事前に、陛下に連絡して許可をもらう約束になっている。
お姉さまたちは平気で約束を破ろうとしてくるけど……。
私としては、胃が痛くなるのだ。
ただでさえ最近は、イルとキオが暴れて帝都に迷惑をかけているからね……。
「さて。俺は先に失礼させてもらおう。クウ、遊びに来たところ、時間を取らせて悪かったな」
お兄さまが椅子から身を起こした。
「マウンテン先輩の結果がわかったらお願いしますねっ!」
「わかっている。夕方にはわかるだろう」
お兄さまが先に食堂を出ていく。
「マウンテンのことを、クウちゃんは随分と気に入っているのですね」
「はい。まあ」
「学院祭で見た彼は、体力不足で自信過剰――。選抜に通らなかったのは、むしろ自然かとわたくしは感じているのですが」
「それは否定しませんけどね。ただ、本人は自戒して、努力していますから」
「クウちゃんがそう言うのなら確かでしょうね。失礼しました」
お姉さまがペコリと頭を下げる。
「いえ、あの……。私の言葉がすべて正しいということはないですからね? 最近、妙に持ち上げられて困ることもあるので……」
「今のは、クウちゃんの友人に失礼なことを言ってしまった分ですわ。確かにマウンテンは努力しているようでしたし。合格すると良いですわね」
「はい。ありがとうございます」
この後はお姉さまと2人で馬車に乗って学院に移動して、いつもの屋内練習場で、久しぶりにお姉さまたちと打ち合った。
メイヴィスさんとブレンダさんは、本当に一回り強くなっていた。
正直、その剣の鋭さには驚かされた。
負けはしなかったけど、それなりに気は抜けなかった。
お姉さまも、まあまあ戦えた。
私にとっても、楽しい時間となった。
ニンゲンってすごいねえ……。
どんどん成長していく……。
そんなことを思ってしまう私の目線は、けっこう上からというか、完全に自分をニンゲン以外だと認識しているね……。
まあ、実際、精霊なんですけれども。
ただ、うん。
そうは言っても、私にだって成長の余地はある!
たとえば格闘スキルとか!
格闘は、前世のVRMMO時代には使わなかった技能だ。
こちらの世界に来た時には0だった。
だけどいくらか訓練して――。
最後に使ったのは、お姉さまたちとダンジョン「ロロルト寺院」に行った時なので、もう半年は前のことだけど……。
0から30にまではスキルを上げていた。
そう。
私だって、やればできる子なのだ!
まだまだ育ち盛りなのだ!
というわけで。
格闘武器の「鉄の爪」を両手に装着して、ブレンダさんと戦ってみた。
もちろん、精霊の服等の、ステータスを大幅にブーストしてしまうレア装備は、すべて外して生身になった上でだ。
己の力のみで正面からぶつかるのだ!
結果は大熱戦だった。
ブレンダさんが両手に握った大剣に魔力を込めて武技を放ってきた時なんかは、あやうく私も転倒しかけた。
最初は受け止めて――。
これは無理だと瞬時に判断して受け流そうとしたものの――。
受け流しきれずにバランスを崩したのだ。
その時にはひやっとした。
「あははは! やるねえ!」
私も思わず興奮して、哄笑してしまった。
「ちっ! 惜しかったな! 師匠の首まであと一歩だったぜ!」
ブレンダさんも笑っていた。
戦いの後でお姉さまには呆れて言われたものだ。
「本当に貴女たちと来たら、闘争が好きですのね」
と。
「う。それは否定できないです」
実際、楽しかった。
私は戦うのが大好きな子のようです。
「さあ、クウちゃん。次は私とです。今ので動きはわかりました。ついにクウちゃんから一本を取る時が来たようです。覚悟して下さい」
「はっはっはー! できるかなー?」
メイヴィスさんの挑戦も、もちろん受けて立った。
メイヴィスさんもまた、格闘武器を身に着けた私と互角の死闘を演じてくれた。
この日はこうして――。
冬の空が赤くなって、お兄さまが来るまで、ひたすらに戦い続けた。
マウンテン先輩の結果は、すぐに聞けた。
合格だった。
おめでとうございます、先輩。
立派な騎士になって下さいね。
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