131 セラと空の散歩
「よしっ! 今日は夕方まで遊ぼう!」
「え。あの。剣と魔法の修行は……?」
ランチの後、私とセラは2人で奥庭園に出た。
「私、疲れたもーん」
ふわふわ浮かびながら、私は肩を落とす。
お腹いっぱいで気持ちは爽やかだけど、なんか同時に疲れている。
「あ、そうだ! セラもふわふわしてみる?」
「ふわふわ……ですか?」
「うんっ! ちょっと待ってね」
抱きかかえて『浮遊』では面白さに欠ける。
ここは銀魔法だね。
重力操作で、こう、セラを持ち上げて。
「え。あわわわわ!?」
よし。
ちゃんとセラを浮かび上がらせることができた。
「あ、あのっ! これってクウちゃんの魔法ですか!? わたくし、クウちゃんと同じように浮いているんですけど!?」
「うん。そだよー」
「……あのクウちゃん様。それは安全なのでしょうか?」
シルエラさんが確認してくる。
「うん。平気。任せて」
セラの手を取る。
「よーし! セラ、空に浮かんで、雲みたいにお昼寝しようっ!」
「え。あのクウちゃん……」
「あ、ごめん。セラは日焼けとかあるよね。えっと」
緑魔法の魔力障壁をかける。
ゲームでは、ビーチでこれをかけて日焼け防止するイベントがあった。
「これでオーケー。ダメそうならすぐに帰ろ」
「……うう」
「どうしたの? ごめん、嫌だった?」
「……いいえ。わかりました。修行はいつでも出来ます! わたくし、今日はクウちゃんと遊んじゃいます!」
「やった! うれしいっ!」
「はいっ!」
「でも、そうだよね……。あとで陛下に怒られると嫌だから、一応、勉強ってことにしないとマズイよね……」
どうしようかな。
「じゃあさ、今日は魔力を感じる訓練ってことにしとこう。私の魔力を流してあげるからそれを感じるの」
「それって、どういう意味があるんですか?」
「植物だって、太陽の光を受ければ元気いっぱい育つよね。それと同じことさー」
「なるほどわかりました! さすがはクウちゃんです!」
「はっはー」
私、かしこい。
「あの、クウちゃん様……。
申し訳ないのですが、私には意味がわかりません。
このままお2人でお出かけになるのならば、私が相応の説明を陛下や皇妃様に行う必要がありますので――。
具体的な効果を教えていただけると、ありがたいのですが……」
「シルエラさん、考えてはダメです。感じるのです。これは、そういう訓練です」
「そうですか。わかりました。私にはお止めする権利がありませんので、そのまま伝えさせていただきます」
「シルエラ、行ってきますね! お父さまたちにはよろしくお伝えくださいっ!」
「――畏まりました、姫様」
「じゃ、ゴー」
セラの様子を確かめつつ、ゆっくりと浮き上がった。
同時に少しだけセラに魔力を流す。
お。
なんか陛下の執務室にいるローゼントさんと目が合ったぞ。
ふふ。
驚いてる驚いてる。
楽しいね!
セラは自分のことに夢中で気づいていない。
やっほー!
なので私が手を振っておく。
そのまま大宮殿よりも高く上がって。
さらに。
高く。
あんまり高すぎるのも危険なので、適度なところで静止。
「んー。気持ちいいっ!」
青空の中にいるのは、やっぱり最高だ。
とんがり山への旅を思い出す。
「すごいです……。
大地の縁が、丸く見えます……。
本当に気持ちいいですね……これが……空の中なんですね……」
「ねー」
嫌なことも疲れも吹き飛ぶくらいの、広い広い景色だ。
大空が青くて、青い。
そして視線を下げれば、白と緑。
帝都の町並みと、自然。
風も心地よい。
「ねえ、セラ。わかる? 私の魔力の励起状態。感じられてる?」
セラには魔力を流し続けている。
とても直感的なことだから説明は難しいけど、魔法を使っている時の魔力の波動は覚えて損はないはずだ。
「はい。感じられています、クウちゃん。ありがとうございます」
「セラは皇女様なのに、ありがとうって言えて偉いね」
「もう。そういう言い方、嫌いです」
「あはは。ごめん」
「すぐにクウちゃんはお姉さんぶるんですから。同い年ですからね?」
「だよねー」
「あ、でも、今は先生ですよね。ごめんなさい」
「セラは皇女様なのに、ごめんなさいって言えて偉いね」
「もうっ!」
「あはは。ごめんごめん。ねえ、セラ。どこか行ってみたい場所はある? 気持ちいいから眠気も飛んじゃったし連れて行ってあげるよ」
「……そうですね。
このままでも十分に楽しいし勉強になりますけど。
そうだ!
エミリーちゃんのところに行きませんか?
たしか、近場なんですよね?」
「いいよっ! 行ってみよう!」
銀魔法の『飛行』で飛びつつ、『重力操作』していけば、2人でも1人の時と変わらずに行けるかな、たぶん。
「嬉しいです! わたくし、帝都から出るのは生まれて初めてです! エミリーちゃんにまた会えるのも嬉しいです!」
銀魔法の併用は大変そうだけどセラも喜んでくれているし、頑張ろう。
「アンジェちゃんにも会えるといいんですけど……。
アーレはかなり遠いんですよね?」
「だねー。アーレに行くのは、さすがに日帰りでは無理かな。今日はエミリーちゃんだけにしとこう」
「はいっ! 楽しみですっ!」
というわけで。
出発したのですが。
帝都を出て、最初の丘陵地帯を飛び抜ける前に限界が来た。
一本だけの大樹が立つ、丘の上の草原に着地する。
「……大丈夫ですか、クウちゃん?」
「ごめん、セラ……。疲れた……」
銀魔法の併用は予想より遥かに高負荷だった。
集中力が持たない。
「エミリーちゃんのところまでは無理かも……。ごめんよお……」
「気にしないでくださいっ! それよりほら、ここもすごくいい景色ですっ! わたくしここでも十分ですっ!」
たしかに、見事な草原だった。
丘の上だから見晴らしもよい。
そうだ。
いいことを思いついた。
「セラ、ランチしたばかりだけど、ピクニックごっこしようか。
実は、学院祭で買ったいろんな食べ物があるんだ。
大陸各地の名物。
私もまだ食べてないから、ちょっとずつ食べてみない?」
「大陸各地の名物ですか……。学院ってすごいんですね……。はい、わたくしも食べてみたいですっ!」
「決まりだねっ! やろうやろうっ!」
大樹の木漏れ日の下で、シートを広げて飲み物を準備して。
それから名物を並べて。
青空の下、緑の世界。
楽しくおしゃべりつつあれこれ食べていると、自然にアクビが出てきた。
いつの間にか……。
私たちは横に並んで寝ていた。




