1308 1月15日のこと
朝。
この日の私は、妙な緊張感の中で目覚めた。
何故ならば……。
今日は1月の15日。
マウンテン先輩の運命を決める、中央騎士団の一般選抜試験の当日だからだ。
とはいえ、試験は非公開だし、こっそり見学に行くつもりもない。
なのでやれることと言えば、「頑張ってね、先輩」と心の中で声援を送ることだけで私の生活はいつもと変わらない。
「店長、今日はどうなされるのですか?」
朝食を取りつつヒオリさんに聞かれた。
「んー。そうだなー。ファーのことは、みんなに任せていいんだよね?」
「はいっ! 今日は店番をしつつ、4人で生成を極めたいと思います!」
「で、ある」
ヒオリさんの言葉にフラウがうなずいた。
「皆での仕事と生成は、とても楽しいです。今日も頑張ります」
続けてファーも同意した。
ちなみにファーも今朝は一緒に食事を取っている。
まだぎこちない様子で、小さくパンをちぎって慎重に食べる仕草が可愛らしい。
ちなみに、うん。
ヒオリさんの言う4人とは、ファー、ヒオリさん、フラウ、エミリーちゃん。
いつもの店員メンバーのことで……。
ファーの言う「皆」の中にも私は入っていないようです。
ぐすん。
まあ、うん。
私自身が、私を外して「みんな」と言っていたか。
自業自得なのですが……。
とはいえ、どうしても手伝ってほしいと言うなら手伝ってあげなくもないけど……。
ちらちら。
なんとなくそれっぽく視線を送ってみたけど……。
ヒオリさんとフラウとファーは、すでに生成の話に移っていて、私の視線にはまるで気づいてくれませんでした。
ぐすん。
食事の後は、みんなでカメ様の木像にお祈りする。
……今日も一日、楽しくありますように。
さあ、気を取り直して、今日を楽しもう。
今は貴重な冬休み。
毎日を大切にしていかないとねっ!
「じゃあ、行ってくるねー」
私は1人、空の上へと浮かんでいくのでした。
ふわふわ。
ふわふわ。
しばらくは、精霊としての仕事をした。
精霊はふわふわするのが仕事なのです。
大切なことだよね。
ふわふわしつつ、今日はどうしようか、あらためて私は考えた。
「そうだなー。セラのところに行こうかなー」
精霊界での話もあるし。
私は『帰還』の魔法で、いつもの願いの泉のほとりに飛んだ。
ただ残念ながら、さすがにセラはいなかった。
執事さんやメイドさんも、私のことを待ってはいなかった。
なのでとりあえず、奥庭園の景観を楽しみつつ、大宮殿へと歩いて向かった。
庭にはミルの気配もない。
ミルはまだ、妖精郷に戻ったままのようだ。
大宮殿にはいつも通り顔パスで入れた。
すぐに執事さんがやってきて、私に用件を聞いてくる。
で……。
遊びに来たことを伝えていると――。
「クウちゃん!」
光の魔力をきらめかせて、セラが現れた!
「やっほー。セラ、遊びに来たよー」
「わたくしとですか?」
「うん」
「それは嬉しいです! 本当に久しぶりですねー!」
「と言っても数日ぶりだよね? ファーネスティラに旅立つ前に少し会っていたような」
「そんなの、もう一週間近くも前じゃないですか! 遠い過去のことですっ!」
「あはは。そかー。それで、今日って暇?」
「もちろんです」
セラは即答したけど――。
「こほん」
と、うしろでシルエラさんが咳をついた。
どうやら用事はあるようだ。
「シルエラ、至急、連絡を。今日のお茶会は中止とします」
「あのー、セラ……。私、また来るよ?」
「ご安心ください。今日のお茶会の相手は、あの女と、あの女の友人数名です。クウちゃんが来たとなれば納得してくれます」
「……ちなみに聞くけど、あの女って、もしかしてエカテリーナさん?」
「失礼しました。エカテリーナさんですね」
「あと友人って……。初めての招待とか?」
「はい。そうですね。わたくしとは、本日が初対面の方々です」
「それは中止したらダメだよ。可哀想だし、エカテリーナさんの顔が丸潰れになるよ」
皇女様のお茶会に招かれるのは本当に名誉なことなのだ。
それが直前に中止なんて、ね……。
「その通りです、姫様。特に本日は昼食から一緒のご予定です。すでに先方は、身支度を整えて出立されている頃合いです。今さら中止などできません」
シルエラさんも冷静に同意してくれた。
「私はまた来るからさ。ね」
「うう……。じゃあ、明日はどうですか?」
「うん、私はいいけど……」
私はちらりとシルエラさんに目を向けた。
するとシルエラさんが、明日の予定は勉強だけだと教えてくれる。
つまり、いいのかな……。
「明日は朝一番に、わたくしの方から工房に遊びに行きますね! ファーさんやエミリーちゃんの顔も見たいと思います!」
「うん。わかったー。あ、そうだ」
私はファーが超進化したことを教えてあげた。
あと、私の挨拶会が無事におわって――。
エミリーちゃんが、やってきた土の大精霊から指導を受けたことも。
「そ、それは! 属性違いとはいえ、わたくしも会いたかったですぅぅぅぅ! わたくしはなぜ皇女なのでしょうかぁぁぁぁ!」
「あはは。セラやアンジェにも近い内に紹介するからさー」
私が笑って、セラが落胆していると――。
「いったい、誰に会いたがっているのだ? 朝から元気な我が妹は」
お兄さまが現れた!
「ごきげんよう、クウちゃん」
お姉さまも一緒だった。
「ごきげんよう、お兄さま、お姉さま。お2人は、どうしてここに?」
「当然、君が来た急報を受けたからに決まっているだろう? 精霊界での出来事の報告に来てくれたのではないのか?」
お兄さまが、まるで私がちゃんとしているかのようなこと言った!
「ふふ。その様子では、ただ遊びに来ただけなのかしら」
お姉さまが鋭いことを言った!
正解はお姉さまです!
「……では、わたくしは明日のため、今日は義務を果たしますね。クウちゃんのことはお兄さまとお姉さまにお任せします」
「義務じゃなくて、お茶会は楽しんであげてね?」
「クウちゃんだけに、ですか?」
「うん。そーそー」
よくわからないけど、私はうなずいた!
「わかりました。キチンと気持ちを切り替えて、おもてなしさせていただきます」
よかった。
セラはわかってくれたようだ。
いい笑顔でそう言ってくれた。




