1306 最強で最高のディナー、それは……。
「さあ、エミリーちゃん。次はどうしようか」
「そうだなぁ……。難しいね……」
「サラダとかは?」
「うーん」
私が無難な提案をすると、エミリーちゃんは悩んでしまった。
「サラダはよくない? 無難に最初にほしいところかなーと思ったけど」
「ねえ、クウちゃん」
「うん。なぁに、エミリーちゃん」
「……無難と最高は同じなのかな」
「なるほど」
違うか。
無難と最高は、むしろ異なるものだ。
私はつい、ありふれたコースメニューで最高を考えていたようだ。
反省せねばなるまい。
「そうだね。最高とは、自由なものであるべきだね」
私は言った。
「うん。そうだよね。わたしもそう思うの。あと今回は、最強でもあるんだよね」
「うん。そうだね」
エミリーちゃんの言う通り、今回のテーマは最強で最高。
すなわち、それは並ではないということ。
並ではダメなのだ。
だとするならば……!
「そう。大盛りだね」
私は答えを導き出し、それを口にした。
エミリーちゃんが戦慄する。
「大盛り……!? いいの……!? それは――。ヒオリさんやらフラウちゃんならともかく、わたしたちには危険だよ……!?」
「そうだね。そうかも知れない。だけど、並ではダメなんだよ」
「うん……。そうだよね……。わかった。大盛りだね」
方針は決した!
それが危険な決定であることは、私たちも理解している。
エミリーちゃんが言葉を続ける。
「ギリギリを見極めないとね……。わたしたちが残さず食べることのできる、最大値を……」
そう。
お残しは厳禁。
それは前回の最高祭りで大いに反省すべき点だった。
前回は、食べきれない量を作ってしまったから……。
その上で大盛りを目指す……。
なんという難題を、私たちは自らに課してしまったのか……!
私は体が震えるのを覚えざるを得なかった!
しかし、やるしかない!
私は今夜、エミリーちゃんと最高のディナーを食べるのだ!
「でもその前に、メニューをどうするかだね」
私は考えた。
何を、選ぶべきか……。
テーマは無限大。
何を選んでもいい。
だけど、それ故に、選ぶことができない。
そう、それは――。
まさに、一年中が夏休みでは、夏休みの価値がなくなるのと同じ。
不自由があるからこそ、自由は輝く。
何を食すか……。
難問だよ、これは……。
私が答えを出せないでいる中、エミリーちゃんが言った。
「――ねえ、クウちゃん。突き抜けてみようか。お芋バターと、姫様ドッグ。それだけで、わたしたちはどこまで行けるのか……」
「エミリーちゃん……! それはまさか……!」
「うん」
驚く私に、エミリーちゃんがまっすぐな瞳でうなずく。
「でも、それはあまりにもリスクが……。ううん……。違うか。違うよね。リスクを怖れていては最高なんて目指せない……」
「うん。目指してみよう、私たちの最高が、どこまで最強になれるのか」
「わかった。そうしよう」
方針は決した!
それは私たちにとって、恐るべき決断でもあった!
私たちは早速、調理を始めた。
2人で力を合わせて、蒸し芋バターを作る。
姫様ドッグはアイテム欄に何十個かのストックがあるので、それをすべて取り出した。
取り出して、丁寧に重ねていく。
高く、高く……。
そして最大限に、姫様ドッグを潰さないように、細心の注意を払いながら……。
難しい作業だったけど、前世の動画で見た組体操の記憶を元にして、私たちは知恵と勇気でやり遂げていった。
やがて完成する。
私たちの、最強で最高のディナー。
それは、蒸かし芋バターと姫様ドッグ、2つの山。
名付けて――。
「できたね、わたしたちの、ダブル・マウンテン」
エミリーちゃんが自然に名付けていた。
ダブル・マウンテン。
それが私たちの、最強で最高のディナーだ。
蒸し芋と姫様ドッグ、好きなものひとつで突き抜けた完全なる自信作だ。
「これはすごいものができたね」
私は大いに満足して、そびえる山を眺めた。
料理には見た目も重要だ。
実にインパクトのある、素晴らしい仕上がりとなった。
満足だ。
私たちは顔を見合わせ、微笑みを交わした。
その後、私は……。
視線を外して、ちょっと照れてしまいながらも、本当に言いたかったことを言った。
「……これからもよろしくね、エミリーちゃん」
「うん。クウちゃんっ!」
エミリーちゃんは笑顔でうなずいてくれた。
よかった。
許してもらえたかなぁ……。
この後、私たちは、お腹いっぱい、心ゆくまで、大好物を堪能した。
それは間違いなく最強で最高のディナーだった。




