1303 土の加護
「じゃあ、アタッチメントは、裁縫スキル、彫金スキル、白魔法スキルでいい?」
「はい。それでお願いします」
「了解」
家に帰ってすぐに、私はファーにアタッチメントをつけた。
裁縫スキルは、ぬいぐるみやクッションを作るため。
彫金スキルは、ランプやオルゴールを作るため。
白魔法は、エミリーちゃんやヒオリさんに万が一のことがあった時、すぐに治療して最悪の事態を避けるため。
アタッチメントには、戦闘用から生活用までいろいろな種類があったけど――。
ファーは迷わずに上の3つを選択した。
ファーは献身的な子のようだ。
もっと自由に好きに選んでもいいよ、とは言ったんだけど、好きに選んだ結果だというのでそのままつけてあげた。
ちなみにアタッチメントのレベルは、ファーのレベルに依存する。
ファーは現在20レベル。
なのでスキルのレベルも20となる。
スキルごとに熟練度という名称で個別にレベルが設定されているプレイヤーよりも、フェローは便利にスキルを使えるのだ。
とはいえ、フェローと同じ仕様だとするなら――。
フェローは、スキル効果を高めるアビリティやアイテムが使えないので――。
プレイヤーと同等というわけではないけど。
「早速だけど、ぬいぐるみを作ってみようか。メニューの開き方はわかる? 開けと念じれば出てくるはずだけど」
「お待ち下さい。確認します」
その間に私はテーブルに素材を並べた。
ぬいぐるみは裁縫のレシピ。
手のひらサイズのクマさんなら、熟練度20で生成可能だ。
心配なのはメニューを開けるかだったけど……。
幸いにもファーには私と同じ法則が適用されているようで、ちゃんとメニュー画面を開くことはできたようだ。
ファーが目の前に開いたメニュー画面は、私にも目視できていた。
「これは……すごいですね。リストから選べば作れるのですか?」
「うん。そうだよー」
「精霊ちゃんぬいぐるみは残念ながらないようです」
「それはオリジナルだしね。頭の中でイメージを作る必要があるかな。まずは慣れるために、リストのクマちゃんを作ろう」
「はい。わかりました」
さすがはファーだった。
難なく完成させた。
で、次に精霊ちゃんぬいぐるみに挑戦したのだけど……。
残念ながら、最初の3回ではデフォルトのクマさんしか生成されなかった。
ただ4回目では、クマさんの色が私の髪と同じ空色に変わった。
「おお! 少し進化したね!」
「はい。今のでいいのですね。少しわかりました」
正直、ファーのイメージ生成については、自我があるのだからできるとは思いつつも本当にできるのか心配もしていたけど……。
ちゃんとファーの自我は、想像力も有していたようだ。
よかった。
なんにしてもファーは、生成の分野でヒオリさんとフラウを追い抜いたわけだ。
2人が大いに羨みそうだ。
そうやって、ファーと2人でアレコレしていると――。
「ただいま戻りました」
エミリーちゃんがお店に帰ってきた。
「おかえりー」
「ありがとうございました、クウちゃんさま。ニンゲンの町を堪能できました」
「実に有意義な時間でしたね。クウちゃんさん、バルディノール殿は無事、クウちゃんさんの真理を理解してくれましたぞ」
バルディノールさんはいいとして、なぜかボンバーまで一緒に帰ってきたのは蹴っ飛ばしてやりたいところだったけど――。
私はいい子なので、ここはぐっと我慢した。
ちなみに真理が何かは絶対に聞かないです。
完全スルーです。
聞かなくてもわかってしまうしね!
「クマさんのぬいぐるみだね。何をしていたの?」
エミリーちゃんはすぐに、テーブルに並んだクマさんに気づいた。
「これ、ファーが生成スキルで作ったんだよー」
「えええ!? ファーって生成ができたの!?」
私は、アタッチメントのシステムがファーに追加されていたことを説明してあげた。
エミリーちゃんに隠す必要はないしね。
「ほほお。それはすごいものですね。さすがはクウちゃんさんのゴーレムです」
しまったボンバーもいたか。
ボンバーにまで、腕組みして感心されてしまった。
まあ、いいか。
ボンバーズのメンバーは、ファーがメイドロボだと知っているわけだし。
「それで、エミリーちゃんはどうだった? バルディノールさんとは仲良くできた? いろいろとお話はできた?」
「はい。とっても勉強になりました」
「バルディノールさんはどうだった? うちのエミリーちゃんは優秀だったでしょ?」
「我が属性への適性も高く、将来が楽しみですな」
「ちなみに、クウちゃん」
「うん。どうしたのエミリーちゃん」
あらたまって。
というか、自然な口調に戻って。
「わたしも、クウちゃんだけに、くう! だからね?」
「え?」
「わかった?」
エミリーちゃんに、妙に迫力のある笑顔でニッコリ確認されて――。
「あ、うん」
思わずうなずいた私だったのだけど……。
なんのことだろか。
というか、まさかエミリーちゃんがクウちゃんだけになんて、驚いたです。
初ではなかろうでしょうか……。
「店長、よろしいですか。少し折り入ってご相談があります」
「あ、うん。どうしたの、ファー」
私が困惑していると、ファーに奥の部屋に連れて行かれた。
そして、教えられる。
エミリーちゃんは、大精霊からの加護とか契約はいらなくて、あくまで私との契約を大切にしたいと思っていて――。
さっきのクウちゃんだけには、そのアピールなのです、と。
「あ、うん。そなんだぁ……」
「はい。その気持ちは、どうか汲んでやって下さい」
「そかー」
はっきり言って、私との契約は薄っぺらだ。
契約していても、魔力が大幅にアップしたりとかのメリットはない。
水の大精霊から加護を受けたスオナは、目に見えてパワーアップしていた。
なので私的には将来のことも考えて、エミリーちゃんに土の加護をと思ってバルディノールさんを連れてきたのだけど……。
私はお店に戻って、エミリーちゃんに謝った。
「えっと……ごめんね。これからもよろしくね、エミリーちゃん」
「うんっ! わたし、クウちゃんずの一員としてがんばるねっ!」
よかった!
エミリーちゃんは笑顔でうなずいてくれた!
「よかったですね、クウちゃんさん」
「然り。エミリー殿も、わかってもらえてよかったですな」
バルディノールさんはともかく、ボンバーまでもが妙に大人の笑顔を見せてきたのには心の底から腹が立ちましたけどねっ!