1298 バルディノールさんと
「なるほど。そういうことでしたら、我にお任せくだされ。早速、岩屋を作って、その中にしばらく閉じ込めておきましょう」
「それはありがたいけど……。そんなことしちゃって大丈夫なんですか……?」
精霊界大戦争とかになりそうで怖いけど。
「平気です。よくあることです」
「よくあるんだ!?」
「ははは!」
思わず聞き返すと、豪快に笑われた。
イルとキオは、迷惑なことに精霊界でも定期的に大喧嘩をしているようだ。
精霊界で力を行使すると、その影響は物質界にも現れる。
2人の大喧嘩は、すなわち中央大陸での、暴風や大雨、大雪となる。
たまに度を超えた規模になってしまうようで――。
その時には、同じ中央大陸を管轄するバルディーノさんが喧嘩を預かって、しばらく岩屋に閉じ込めておくのだそうだ。
しばらくして落ち着いたら、解放するらしい。
「正直、クウちゃんさまの登場は絶妙なタイミングでした。最近ではイルサーフェもキオジールも力をつけてきて、2人を捕まえるのも困難になってきておりましたからな。しかし、閉じ込めてしまえばこちらのものですので、ご安心下さい」
ともかくお願いすることにした。
2人は、まさに牢獄みたいな浮遊する岩屋に閉じ込められた。
しばらく反省してもらおう。
まったく、災害になるような力を感情だけで振るわれてはたまらないよね。
「あ、でもそれだと……。昨日の挨拶会もけっこう暴れたけど……。あの場所に重なる物質界は大変なことになっていたり……?」
「ご安心ください。物質界では大海の上です。どうせ騒動になるからと、ゼノリナータが万全を期していましたので」
「そかー」
さすがはゼノさんだ、抜かりないね。
本当に便利な子だと思ってしまって、あわててその感情は消した。
ゼノは大切なお友だちなのです!
「ところで、クウちゃんさま」
「うん。なぁに?」
「昨日は話になかったのですが、我ら大精霊が物質界に出ることを許可されたというのは事実だと理解してよろしいので?」
「あ、えっと……。それはね……」
問われて、私は返答に困った。
どう考えても、解禁したよ! なんて気楽には言えない。
なにしろつい先程、大惨事になりかけた。
「シャイナリトーにゼノリナータはともかく、まだ幼いイルサーフェとキオジールまで物質界に住むと伺いましたが?」
「あー。それはねえ……。いろいろと事情があってね……。全面的に解放したわけではないから自重してもらえると嬉しいかなぁ……。あはは」
「わかりました。特別な事情があるのですね」
「は、はい……」
本当は特にはなくて、ただの成り行きなのですが……。
すみませんです……。
本当に私、ナリユキだけのナリユ卿のことを言えないよね、これでは……。
「とりあえず、みんなは今まで通りでお願いしますっ!」
私は頭を下げた。
「承知」
バルディノールさんは即座に了承してくれた。
ありがとうございます。
「……でもあの、実は行きたかったりとか、そういう気持ちもあるんですか?」
「なくはありませんな」
「そかー。ですよねー」
そもそも精霊は、物質界にも普通にいたわけだし。
「じゃあ、あのお……。とりあえずお礼ということで、今回は特別に、私の招待ということで少しだけ一緒に来ますか?」
「ほお。よろしいのですか?」
「はい。よければ」
というわけで。
イルとキオには岩屋でしばらく反省してもらって――。
私の緑魔法『昏睡』がかかっているので、丸一日は寝たままだろうけど――。
私はバルディノールさんを連れて、物質界へと帰ることにしたのでした。
バルディノールさんはいかにも常識人だし、問題はないだろう。
ちなみにバルディノールさんの見た目は――。
まさに武人。
ボンバーよりも大きな体は、もう本当にムッキムキのムキ。
髪は金色のショート。
肌は、こんがりと焼けている。
年齢は、陛下やバルターさんと同じ、30代の半ばから後半くらいに見える。
顔つきは怖い。
まさに岩のようにいかついです。
服装は、実にシンプルで、ズボンにタンクトップ。
冬だと軽装すぎるかな……。
とも思うけど、そもそも筋肉が鎧みたいなので問題はないだろう。
まあ、うん。
目立つは目立つけど、普通に町を歩くことはできると思う。
そもそも帝都では、まさに都会らしく、明らかにおかしな格好をしていてもいちいち声をかけてくる一般人はいないし。
バルディノールさんには、帝都を楽しんでもらおう。




