1297 朝の出来事
「私はこいつらを精霊界に捨ててくるからさ、3人はいつも通りでお願い」
こいつらとはもちろん、昏倒させて肩に担いだキオとイルのことです。
悲しいけれど、今はいらない子なのです。
「了解しました。いつものように開店準備を進めます」
「うん。お願いね、ファー」
幸いにも、フラウとヒオリさんとファーは動揺することなく冷静だった。
3人とも普通にエプロンを外してくれる。
「クウちゃん、妾とヒオリは今日、大宮殿に行く予定なのである。悪魔召喚呪文の解析をアルビオと進めるのである」
「申し訳ありません、店長。本日は行かせていただきます」
「それも大切なことだよね。お店のことは気にしないでー」
今日は私も家にいる予定だし。
久しぶりにお店に出よう。
たまには出ないと、私が店長なのに、本気でお客さんに「誰?」と思われてしまうしね。
今さら手遅れのような気もするけど……。
「呪文の解析はどう?」
「はい。すでにほとんどおわっています。遠からず試験は可能かと」
「おお、それは楽しみだねー」
「クウちゃんにやってもらうのは確定として、いつ、どこで、誰の立会でやるのか。それについても検討中なのである。呼び出して何をするのかも、慎重に検討中なのである。クウちゃんから意見があればそうするのであるが……」
「そのあたりについては2人に任せるよー」
悪魔召喚は、遊び半分で気楽にやっていいことではない。
国の立会はあるべきだ。
ということになっている。
私的には、うん……。
遊び半分でメティネイルを呼び出して、そのままメイドにしてやるつもりもあったけど。
悪魔は契約に縛られるという。
私と契約させてしまえば、逆に安全なのかなぁと。
ただ、うん。
……それだと、よく考えてみると、すべての責任が私にのしかかる。
それは、かなりイヤだ。
なので、契約内容等についても丸投げした。
すべてお任せだ。
うん。
私は何よりも、自分の平穏と平和を愛する、ふわふわの精霊さんなのです。
「じゃあ、行ってくるね」
起きたばかりでお腹は空いているけど――。
私は仕事を優先させた。
イルとキオを置いたままでは、落ち着いてパンも食べられないし。
というわけで。
ヒュンと空を飛んで、大宮殿の奥庭園にある願いの泉に入った。
さすがに朝一番とあってセラはいなかった。
ざぱん。
水面をくぐれば、そこは精霊界。
海の中のような世界だ。
しばらく精霊界に来るつもりはなかったけど、昨日ぶりにまた来てしまった。
「さーて。この2人はどうしようかなー」
私はあたりを見回す。
適当に置いて帰ってもいいけど、どうせなら誰かに預けたいよね。
となれば……。
「んー」
すんごい嫌だけど、イフリエートさんか。
真面目な彼に預ければ、イルとキオをしばらく謹慎させてくれるかも知れない。
そうなれば、しばらく私は平穏だ。
「でもなぁ……。彼と会うと、どうしても緊張するしなぁ……」
ならばゼノに……。
とは思うけど……。
最近、ゼノを便利に使おうとしちゃう自分には自覚があるので……。
さすがにこの程度のことでオネガイはできない……。
だってゼノは便利屋さんではなくて、大切なお友だちなのだし……。
私が悩んでいると――。
「おお。これは女王陛下ではありませんか。いや、クウちゃんさまでしたな。失礼をば」
いきなり目の前に、巨大な筋肉のかたまり――。
土の大精霊バルディノールさんが現れた。




