1293 ごあいさつっ!
「みんなーっ! こーんにーちわー! 私はクウと言いまーす! 私のことは、気軽にクウちゃんと呼んでねー! 女王とか呼んだらぶっ飛ばすからねー!」
私は精一杯、バカみたいに明るく、というかむしろ幼く、最大限に敵意を持たれないように柄にもなく愛想を振るった。
でも、うん……。
また襲いかかられると嫌なので、ほんの少しだけ……。
オーラを放って威圧もしちゃいましたが……。
そればかりはしょうがないのです。
なにしろ、はい。
挨拶するために会場に来た途端、問答無用で襲いかかられて……。
とっくに、うんざりしていたから。
おまけに、一か所に大精霊が集まって……。
その彼と彼女たちが容赦なく力を振るったことで……。
空間の比重が崩れて……。
次元の壁に歪が生まれてしまって……。
そこから幻獣と呼ばれるモンスターが現れて襲いかかってきて……。
幸いにも幻獣というのは、邪神に関わる存在ではなく、霊界で生まれるゴースト系のモンスターということで……。
襲撃もまた自然現象の一部ではあったのだけど……。
なんにしてもひとつだけ言えることは……。
私は悪くない!
うむ。
それだけは確かなのです。
なのにこうして愛想を振りまくなんて、私はなんていい子なのだろうか!
我ながら、自分のいい子っぷりに感心するのです。
というわけで。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、精霊界に来ています。
挨拶会の会場です。
眼の前にはずらりと、たくさんの精霊が並んでいます。
彼らはこの世界の営みを管理する、大精霊とその部下である中級の精霊。
皆、ヒト型をしている。
ただヒト型は場に合わせたもので、普段の姿はそれぞれの属性に合わせた鳥や狼やモグラや魚などの姿をしていることも多いそうだ。
なんにしても、幻獣の襲撃を経て、やっと大人しくなってくれた。
不幸中の幸いなのだけど……。
私は、うん……。
決して力を見せつけに来たわけでもなければ……。
まして支配するために来たわけでもないんだけどね……。
仲良くなるために来ただけで……。
「ほらみんなもー。こーん、にーち、わー!」
私はあらためて挨拶して、みんなからの返事を待った。
だけど返事はなかった。
なので仕方なく、
「言え」
と、ほんの少しだけ睨んだ。
するとようやく、あちこちから……。
こんにちは……。
こんにちは……。
と、つぶやくような挨拶が返ってきた。
ちなみに小さな精霊くん精霊ちゃんたちには少し離れてもらっている。
あの子たちはみんないい子だから挨拶は必要ないしね。
「声が小さいよー。もう一度ー。ほら、みんなで声を合わせて、大きな声でねー」
私は根気よくオネガイして――。
でも反応が悪くて、ほんの少しだけイラッとして――。
ほんの少しだけ、また威圧して、命令してしまったところ――。
ようやくそれで――。
「「「「こんにちは! こんにちは! こんにちは!」」」」
と、みんなの声が揃った。
私に最初に突っかかってきた岩の大男、土の大精霊バルディーノさんが率先して声を出してくれたことが大きかった。
彼には今度、あらためて感謝してあげよう。
私はちゃんと、よくできた子にはお褒めを差し上げる優しい子なのだ。
火の大精霊という赤髪に褐色肌の勝ち気そうな美女サラマンディアさんも、嫌々ながらも挨拶をしてくれている。
彼女は、バルディーノさんほど丈夫ではなかったようで……。
よく見れば、消えかかったろうそくのようで……。
かなりボロボロだけど……。
まあ、平気だね。
挨拶の中で目が合ったので、私は精一杯に友好的に笑顔を向けてあげた。
これからは仲良くしようね!
ちなみにゼノとリトは、挨拶には参加せず、脇で様子を見ている。
2人はとっくに仲良しで挨拶は必要ないしね。
イフリエートさんも脇で様子を見ていた。
彼とは最大限に関わりません。
何故ならば、彼はまるで、エリートサラリーマンのような外見をしているからです。
しかも言動までまんまなのです。
前世で就活に失敗した私にとって……。
彼は、トラウマそのものなのです……。
目も合わせる予定はないので、好きにして下さいなのです。
幼稚園児枠のキオとイルは、まるでお遊戯のように参加して声をあげていた。
「よし、いいね」
私は満足して、みんなの挨拶を認めてあげた。
軽く手を上げて、挨拶をやめさせる。
会場が静まる。
とりあえず挨拶会としては、これでおわってもいいのだろうけど……。
せっかくだし、ちゃんと仲良くなりたいよね。
というわけで!
「では次に、見て下さい。いきます」
私は背筋を伸ばして、心と体の準備を整えた。
そう。
面白いことをする時には――。
面白いことをするからこそ、まずは心身を整える必要があるのだ。
十分に緊張感を高めた後――。
私はくるりと身を回す。
そして、いつもの肉球ポーズを決めた!
「にくきゅうにゃーん」
からのー!
さらに、軽く広げた両腕をゆるゆると揺らせて、
「波、ざばざばー」
うむ!
さらにさらに!
「あ、指が! 切れちゃったー!」
今日も私はバッチリだ!
我が必殺の芸、3連発で完璧に決めてしまった。
さあ、みんな、笑ってもいいのよ!
感心してもいいのよ!
私は今、喜んで道化になる!




