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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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1292 閑話・精霊は見た




 ぼんやりと戻ってきた意識の中、まだ揺らぐ視野で私が見たもの――。

 それは――。


「ぐはっ!」「がはっ!」


 まるで棒切れのように蹴飛ばされていく――。

 武闘派の大精霊様たちの姿でした。


「ゼノ、リト。拾ってきて」

「はーもー。めんどくさー」

「なのです」


 蹴飛ばされた方に向かうのは、黒い髪と白い髪をなびかせる2人のヒト型の大精霊――。

 ゼノリナータ様とシャイナリトー様ですね。

 2人はすでに、青い髪の新女王に服従を誓っているのでしょうか。

 素直に命令に従っています。


 私は火の精霊。

 自我を持ち、実体を持つことのできる中級精霊の1人です。

 たった今蹴飛ばされた火の大精霊サラマンディア様の部下の1人でもあります。

 今日はサラマンディア様に従って新女王を名乗る者を倒すために来たのですが、もはや私の体はほとんど動きません。

 何もしない内に負けていました。

 手も足も出ないとは、まさにこのことです。


 しばらくすると、ゼノリナータ様とシャイナリトー様が、サラマンディア様を含めた3人の被害者を連れて戻ってきました。


「はい、クウ。持ってきたよ」

「なのです」


 2人が新女王の足元に、無造作に大精霊たちを投げ捨てます。

 皆、意識をなくしている様子です。


「起こして」


 明らかに不機嫌な声で、新女王が命令すると――。


「はいはい」


 仕方なくの様子ながらも、光と闇を司る2人は再び命令に従いました。


「う、ううう……」


 サラマンディア様たちが意識を取り戻します。


「ねえ、アンタたちさ」


 サラマンディア様たちに、新女王が青く輝く剣の切っ先を向けます。

 私は思わず他人事なのに悲鳴をあげました。

 だって、はい……。

 その青い刃の輝きは、私たち精霊の存在そのものを押しつぶさんとするばかりです。

 圧倒的な力を感じずにはいられません。


「やるなら早く立ってもらえる? 私は優しいから最初は蹴ってあげたけど、次からはこの剣で斬るからね? 手加減はしてあげるけど、覚悟はしなよ?」


「ひいいいいいいいいいい! みみみみみ、みんなー! もう降伏してクウちゃんさまの支配を受け入れた方がいいよー! クウちゃんさまに逆らうなんて不可能だからー! ふえーん! ふえーん! 怖いよー!」


 脇ではキオジール様がいつものように泣いています。


「あのね、キオ。私は支配とかそういうことをするつもりはないからね? 挨拶できないから攻撃するのはやめてねと言っているだけで」

「ふえ」

「わかった?」

「わわ、わかってるからー! 私はわかってるから降参してるからー!」


 見る限り、もはや立ち向かえる者はいないようです。


 小精霊たちはとっくに新女王側で、


 ――ヒメサマ、最強!

 ――ヒメサマ、最強!


 と、新女王のまわりで喜びの舞を披露して――。

 そこには火の小精霊もいますが、サラマンディア様を心配する様子は微塵もありません。


「ははー。クウちゃんさまは最強なの。イルは最初からクウちゃんさまの下僕なの。いくらでも挨拶をしてくださいなの」


 威勢よく戦争を扇動していたイルサーフェ様も、とっくに鞍替えしています。


「ともかく、姫様に害意がなくて良かったです。皆、そろそろ観念して、大人しく姫様からのお言葉を聞くとしましょう」


 サラマンディア様と同じ火の大精霊イフリエート様は、すでに達観した様子です。


「そうだよー。もういい加減にしてよねー」

「なのです」


 光と闇の2人は、うんざりした顔を見せています。


「クソがぁ……! なめやがって! こうなったら、新女王サマの本気の力とやらも見せてもらおうじぇねぇか!」


 だけど残念ながら、サラマンディア様はまだやる気のようです。

 炎の髪を揺らめかせて身を起こします。


「見せたら挨拶させてくれるの?」

「ああ――。それが本当に、屈服に足りるものならな」

「然り」


 バルディノール様もやる気のようです。

 サラマンディア様の言葉にうなずいて、こちらも立ち上がります。


 炎の大剣と岩の大槍を突きつけられても、新女王に怯む様子はありません。


「なら、来なよ。もうみんなの力はわかった気もするけど、今回はちゃんと受けてあげるから少しは私を驚かせてね?」


 むしろ楽しそうに新女王は言いました。

 ああ、そうですよね。

 私は妙に納得します。

 新女王もまた、基本的には戦うことが大好きのようです。


 その時でした。


 突然、無限に続いた青い海のような精霊界の遠くから、ぞっとするような冷たい気配が無数の針のように伸びてきました。

 真っ先に反応したのは小さな精霊たちです。


 ――ヒメサマ、タイヘン!

 ――幻獣!

 ――幻獣、アラワレタ!

 ――大軍!

 ――タベニクル! タベニクル!


「あちゃー。暴れすぎたかー」


 ゼノリナータ様が額に手を当てて顔をしかめます。


「どういうこと? 幻獣ってなに?」


 新女王は、事態をわかっていない様子でした。


「幻獣っていうのは、時折、この精霊界に純粋な霊界から入り込んでくる、本能を持った霊的な力の集合体のこと。空間の歪を見つけると入り込んできて、たっぷり霊力の詰まった精霊くんたちを食べようとするんだよね」

「あー、なんかわかった気がする。もしかして、この子たちが暴れたせいで、次元の壁みたいなものが揺らいで開いたってこと?」

「この子たちじゃなくて、クウね?」

「クウちゃんだけに?」


 新女王が可愛らしくこてりと首を傾けると――。


「そう。食うの! ボクたちを!」


 ゼノリナータ様がイラッとしつつも肯定した。


「そかー」


 何でしょうか。

 この緊急事態に、こののんびりとした生返事は。

 新女王には危機感がないようです。


「皆! 気力を振り絞って立つのです! 急いで障壁を張るのです! とにかくまずは相手の突撃を跳ね返すのです!」


 シャイナリトー様が指示を出します。


 私にもわかります。

 よほど大きな空間の歪が発生したのでしょう。

 本当に――。

 雪崩を打つように、幻獣の群れがこちらに押し寄せてきます。


 やるしかありません……!

 やられたばかりで、まだ正直、立ち眩みがしますが――。

 私も必死に力を振り絞りました……!

 サラマンディア様やバルディノール様も同じです。


 そんな中、何故かゼノリナータ様は平然としていました。


「ねえ、クウ」

「なぁに、ゼノちゃん」

「責任、取ってくれるんだよね?」

「私のせいではないけどね、断じて。まあ、でも、いい加減に私も挨拶したいか。空間の修復は任せてもいいよね?」

「うん。幻獣さえ始末できれば、ボクとリトでパパッと済ませるよ」

「ならいいね。問題なし」


 いったい、何の問題がないのか。

 私にはわけがわかりません。


 でも……。


 それはすぐに、わかりました。


 刺すほどの冷気と呪わしい咆哮を伴って、幻獣の大軍が迫ってきます。

 幻獣は飢えた野獣です。

 常に獲物を求めて、本能をたぎらせる存在です。


 私はゾッとしました。


 幻獣の大軍の中心にいたのは、厄災と呼ばれる、巨大なクジラのような大幻獣でした。

 見たことのない規模の襲撃です。

 たくさんの精霊が集まっているのですから大丈夫だとは思いたいですが……。

 ただ私たちは、すでに大きなダメージを受けています……。

 万全の状態ではありません……。

 どうしても、食べられる自分を想像していしまいます。


「――いくよ、アストラル・ルーラー。まずは、デカいのだけ片付けるからね」


 新女王が剣を構えました。

 呼びかけに応えるように、その青い刃が輝きを増します。

 次の瞬間でした。

 まさに光の速さで飛び込んだ新女王が――。


「武技、トリプルスラッシュ!」


 青い閃光の三連撃で、厄災の幻獣を塵のように消し飛ばして――。

 さらに――。


「いいね! 続けていくよ! ここから先は抑え気味で!」


 新女王は手に持った剣に語りかけると――。

 木の葉でも斬るかのような気楽さで、次から次へと幻獣を消滅させていきます。


 私たちはそれを、呆然と眺めました。






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― 新着の感想 ―
私が可愛いだけの普通の子だと、みんなにわかってもらおう。 とか前話でいっていたクウちゃん 普通の子じゃないことしといて無理がある笑
まぁVR世界でもブイブイ言ってたであろうクウさんですからねー。こうなるのは判ってたw
ああ、周りから観るとゼノもイラッとしつつ対応してるんですね 反論して躾けられてるリトに比べると大人やな クウちゃん様は小鳥さんブレインで深いこと考えないから大変だ
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