1291 挨拶会とは……?
えー。はい。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、精霊の皆様に挨拶をするため、精霊界の会場に来たのですが……。
なんか一斉に襲いかかられたので……。
つい、はい……。
反射で、『アストラル・ルーラー』を抜いてしまいました。
結果……。
なんかもう、アレです。
チーン。
って言葉が聞こえてきそうな感じに……。
全員、倒してしまいました……。
まわりには人型の精霊たちが、ごろごろと倒れております……。
いや、うん。
はい。
もちろん『アストラル・ルーラー』で斬ってはいません。
そんなことをしたら存在ごと消滅させてしまいますしね。
私は優しい子なので、ちゃんとそのあたりはさじ加減をしてあげるのです。
ただ斬らなくても、『アストラル・ルーラー』を装備することで得られるステータス補正は私の圧倒的なフィジカルをさらに倍増させるほどには凄まじい。
すなわち当社比2倍で蹴って殴ってしまったのです。
特に最初に突っ込んできた土色の髪の大男は、思いきり蹴っ飛ばしちゃったけど、生きていてくれるだろうか……。
彼については、ゼノが追いかけてくれたから平気だとは思うけど……。
でも、さ……。
挨拶しようと会場に転移したら、いきなり……。
うおおおおおおおお!
って咆哮をあげて、ボンバーみたいな筋肉のかたまりがタンクトップにズボン姿で、槍を突き刺してくるんだよ……?
蹴っただけなんて、私、優しいよね……?
しかもその後、陣形を組まれて一斉に襲われてさ……。
明らかに計画的にね。
私もやるしかなかったのです。
結果、現場は散々たる有り様になったけど、これだけは言えるのです。
私は悪くない!
うむ。
見ればリトも倒れていたので、肩を掴んで揺さぶってみた。
するとリトが目を開ける。
「やっほー」
私は微笑んだ。
「げぇ! クウちゃんさま!」
リトがどこかの三国志の武将みたいな叫び方をするので、軽く優しく魔力を流して気持ちを落ち着かせてあげた。
私は優しい子なのです。
「で、これはいったい、どんな騒ぎなの?」
「どんなもなにも、クウちゃんさまが抗えというので抗っただけなのです。リトたちは何も悪くないのです無実なのです」
「はぁ? 完全に有罪なんだけど?」
「ひいいいいい! おわりなのです! 精霊は皆殺しなのですー!」
「はぁ。もう」
またリトが錯乱したので、もう一度ピリピリしてあげた。
「くう」
と、リトがぐったりする。
いや、うん、クウちゃんは私だけどね?
まあ、いいけど。
「……で、なに?」
私はあらためてリトにたずねた。
すると、そこに……。
そういえば近くにいなかった色とりどりの球体――小さな精霊くんや精霊ちゃんたちが一斉に私に近づいてきた。
――ヒメサマ、カッタ?
――ヒメサマ、カッタ?
「うん。勝ったよー」
――メデタイ。
――メデタイ。
たくさんの精霊くん精霊ちゃんが勝利を祝ってくれた。
うん。
みんなはいい子だねっ!
周囲に転がっている大精霊とは大違いだ!
「ねえ、みんな。いったい、どういうことなのか教えてもらえるかな?」
みんなは教えてくれた。
私がぶっ倒した人型の精霊たちは、私が凶暴なクマと化して襲撃をかけてくるのだと思い込んでいたようだ。
防げなければ、そのままぶち殺す、と。
生き延びたければ、クマの襲撃を退けてみせよ、と。
私が命令したらしい。
うん!
そんな命令をした記憶はありませんよ!
そもそも私は、命令したり暴力を振るったり、そんなことをする子ではありません。
可愛いだけが取り柄の大人しくて温厚な女の子なのです。
ただ、うん。
クマか。
そういえば、クマクマ言っていた気はする。
それを曲解されたのだろう。
私がなんとなく理解した、その時だった。
足元から、にゅう、と……。
何やら黄色いものが浮き上がって……。
何故か偉そうに腕組みした大きな筋肉のかたまりが現れた!
眼の前に!
「うわあああああああ!」
思わず蹴っ飛ばして、
「あ」
それが最初に蹴っ飛ばした大精霊だと気づいた時には、もはや手遅れだった。
「あのさ、クウ。せっかく連れて帰ったのに、どうしてまた蹴るのさ」
遅れてゼノも現れた。
「ごめん。もう一回、連れてきて」
「えー。ヤダよー、めんどくさい」
「命令です」
「もー。勝手なんだからさー」
ゼノは仕方なく、再び筋肉のかたまりさんを連れに出てくれた。
「ふう」
私は息をついた。
ちなみに黄色い髪の筋肉さんは、名前をバルディノールというそうだ。
私の住む中央大陸を司る土の大精霊らしい。
リトが教えてくれた。
大精霊の中でも、一、二を争うほどの戦闘力の持ち主らしい。
ちなみにライバルとなるのは、いつの間にか倒して起きる気配のない、他の大陸の火の大精霊さんなのだそうだ。
その火の大精霊さんは、特に私をぶっ倒すと息巻いていたらしいけど……。
うん。
一欠片の印象も残っていないです、ごめんね。
しばらくするとゼノが戻ってきた。
「ほら、連れてきたよ」
と、無造作に筋肉の大男なバルディノールさんを投げ落とす。
今回は、まだ気を失っていた。
私はあらためて周囲を見渡す。
大半は知らない顔だけど、キオとイルは知っている顔だね。
あと、クールで知的な火の大精霊さんも。
「ゼノ、リト。2人でみんなを起こして。命令です」
「はいはい。わかりましたよーっと」
「リトはもう嫌なのです。ユイのところに帰りたいのです」
まったく面倒だけど……。
私のことをわかってもらうためにも、ちゃんと挨拶はした方が良さそうだね……。
仕方がない。
ここは笑顔を振りまいて……。
ちょっぴりドジなところなんかも見せて……。
私が可愛いだけの普通の子だと、みんなにわかってもらおう。




