1289 1月12日、朝
1月12日、朝。
この日、私は目覚めても布団の中でぐずっていた。
1日を始める気が起きない。
昨日、学院で思いっきりやらかしてしまった自己嫌悪が目覚めても残っていた。
よりにもよって、アンジェとスオナの前で暴走するなんて……。
しかも、たかがハッピーで……。
本当は、私もやりたかっただけなのに……。
でもそんなこと、ボンバーになんて言えるわけがない……。
無理ぃぃぃぃ……。
ああ……。
もうヤダー。
このまま布団の中で、今日はグダグタと過ごそう……。
そう思った。
幸いにも、今は冬休み。
私には何の義務も責任もないのだ。
いや、うん。
本当はあるんだけどね、何しろ工房主だし……。
ヒオリさんかフラウかファーが起こしにきたら、仕方がないから起きよう……。
それまでは、もういいや……。
と思っていると――。
「ねえ、クウ」
意外なことにゼノが、何故かいきなり現れた。
「なによー」
私は布団の中から返事をした。
「いや、何をじゃなくてね? 出かける支度もせずに何をしているのさ」
ゼノに呆れた声で言われた。
「支度なんていいのー。まだ冬休みなんだしー」
「冬休みは関係ないよね?」
「ありますー」
「まったくもう! ボクにだけ仕事をさせて、勝手なことばかり言って!」
「あああ!」
布団を引っ剥がされたぁぁぁぁぁ!
「何するのよー。今日は私、1日グダグダする予定なのにー」
私は頬を膨らませて抗議した。
するとゼノは冷たい目を向けてこう言った。
「今日は精霊界で挨拶をする日だけど? まさか忘れているわけじゃないよね?」
「え」
「え、じゃなくてね? 今日は挨拶会の当日なんだけど?」
「あー」
挨拶会があることは、思い出した。
今だけど。
「おはよ、ゼノ」
私はいそいそと布団から身を起こした。
「おはよ、クウ。で?」
「っていうと……?」
「ちゃんと準備はしてくれているんだよね?」
「えっと、なんの……?」
たずね返すと、思いっきり、これでもかとため息をつかれた!
「もういいから! さっさと着替えて!」
「はーい」
とりあえず言う通りにした。
洗面台で顔を洗うと、幾分、気持ちはスッキリとした。
それにしても、そうかー。
今日は12日。
精霊界に行って、挨拶をするんだった。
昨日のハッピーのせいで、完全に頭からすっ飛んでいたよ……。
まあ、うん。
それがなくても忘れていたけど……。
なにしろ調印式でもいろいろあったしね……。
私は大変だったのだ。
着替えたところで、私はゼノにたずねた。
「それでゼノ、今日はどうするの?」
「みんなのことは責任持って集めたから、あとは任せるよ」
「とういうと……?」
具体的にどうすれば……。
「キオみたいに怯えまくっているヤツもいるし、逆にクウのことなんでぶちのめすって言っているヤツもいるから、ま、好きにしてよ」
「そう言われても困るけど。私、暴力なんて振るわないよ? 私なんて、人見知りで大人しくて可愛いだけの子だよね?」
「あはは!」
思いっきり笑われた!
何故だ!
と一瞬だけ思ったけど、はい。
何かあればすぐに蹴っちゃうのが私ですよね、わかります……。
「あーでも、みんな、クウと違って世界の営みに関わっている歴然とした大精霊だから、消し去るのだけは許してあげてね」
「だから、そんな乱暴ことはしないってばー。私ほど温厚な子なんていないよね?」
「あはは!」
また笑われたぁ!
まあ、いいけど。
「とりあえず朝食を取ろうか。ゼノも食べるよね?」
「くれるのならいただくよ」
2人で2階のリビングに降りた。
すでに朝食の時間はおわっていて、ヒオリさんとフラウは工房に降りていた。
ただファーは、私のことを待ってくれていた。
「おはようございます、マスター。朝食はいかがなさいますか?」
「おはよ、ファー。ゼノの分と合わせてお願い」
「了解しました」
ファーが手際よく準備をしてくれて、すぐにテーブルには朝食が並んだ。
どっさりと。
ほとんどはゼノの分です。
ぱくぱく。
食べていると、ヒオリさんが2階に戻ってきた。
「ヒオリさん、今日も私は出かけるみたいだから、お店のことよろしくね」
「はい。本日は精霊界ですよね。お店についてはお任せ下さい。ぜのりん、店長のことをよろしくお願いします」
「任せといてよと言いたいところだけど今日は無理かなー。なにしろクウのことをぶっ殺すって息巻いているヤツも多いし。ボクは大人しく見ているよー」
「あのお……ゼノさん。多いんだ?」
私はおそるおそるたずねた。
「そこそこね」
「そかー」
それは、うん、行く前から早くも気が重くなるね。
「店長、相手の皆様は大精霊……。この世界の守り手たる方々ですし、できるだけ優し目にしてあげてくださいね……?」
なんてヒオリさんには言われたけど……。
「んー。くまったねー」
「……店長は、まさにクマのように暴れるのですか?」
「暴れると言うか、くまったなんだけどね」
困った的な。
ただの語呂合わせ的な。
そもそも今日の私は元気がないのだ。
暴れたい気分ではないのだ。
「クマねえ……。とりあえず、みんなにはそう伝えておくよ」
脇ではそんなことをゼノが口にしていたけど、私は気にしなかった。
何故ならヒオリさんがこう聞いてきたからだ。
「ところで店長、大精霊の皆様への挨拶は考えてあるのですか? クマの前に、まずは皆様に何かを語るのですよね?」
「忘れてた」
うん、はい。
クマはともかく、なんて言おうか!
私の頭は真っ白ですよ!
まあ、それはいつものことなんですけれどもね!




