1288 クウちゃんさま、キレる
スオナとアンジェがどこにいるのかは、ひときわに強い水と火と風の魔力反応ですぐにわかった。
学院の訓練場のようだ。
早速、行ってみると、大変なことが起きていた。
なんと……。
アンジェとスオナの眼の前に、筋肉のかたまりのような大男がいるのだ!
しかも剣を構えて!
そして、その大男はボンバーだった!
「あぶなぁぁぁぁぁい!」
私は迷わず助けに入った!
ボンバーを蹴っ飛ばす!
ボンバーは、いつものようにどこかに飛んでいった。
「ふう」
私は額の汗を拭った。
汗は出ていないけど、焦ったから、汗の出たような気持ちなのだ。
「え。クウ? どうしたの?」
「本当だよ。何かあったのかい?」
アンジェとスオナがポカンとした顔で言った。
「2人とも大丈夫だった? キタイとかハッピーとかは、されていないよね?」
私は念の為に確認する。
「何のこと、それ?」
「そうだね……。僕にも心当たりはないけど……」
「ならいいけど」
よかった。
キタイもハッピーもされていないのか。
されていたら大変だよね。
とんでもないことになるよね。
「それより、どういうことよ? 現れたと思ったら、いきなり先輩を蹴るなんて。先輩のことだから平気だとは思うけど……」
ボンバーの飛んでいった空に目を向けて、アンジェが言う。
「ちゃんと理由を教えてくれるかな、クウ」
「理由というか……。スオナたちはボンバーと何をしていたの?」
「接近戦の訓練さ」
「ボンバーと?」
「そうだよ。アンジェが頼んだら、快く了承してくれてね。僕も付き合っていたのさ」
「そうよ。せっかく勉強になっていたのに。ホントにクウ、どういうこと?」
あらためて2人に責められた。
「どうと言われても……。キタイとかハッピーとかしていたら大変かなぁと思って……」
うん。
はい。
「ねえ。クウ。本当に意味がわからないんだけど? ちゃんと教えてくれる?」
「もしかして、なんとなく挨拶代わりに蹴ったのかい?」
「う」
2人にじっと見られて、私はたじろいだ。
まあ、はい。
とはいえ、うん。
「はははは! クウちゃんさんは相変わらず元気で可愛いですね!」
と、すぐにボンバーが無傷で戻ってきたので、追求されるのは免れたのですが。
私は反射的にもう一度蹴りかけたけど……。
ぐっと我慢してこらえた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「必要なら回復魔術をかけますが」
アンジェとスオナがボンバーのことを心配する。
「はははは! 心配は無用ですぞ! クウちゃんさんの蹴りは愛のある蹴りなので、蹴られれば蹴られるほど元気になるのです!」
くううううううう!
これは久しぶりに、クウちゃんだけにくうですよおおおお!
実は、ボンバーの言っていることは確かなのだった。
私は無意識にやっていたけど、以前にリトから指摘を受けて自覚した。
「さあ、フォーンさんにエイキスさんも、私の筋肉を見て下さい。見ての通り、クウちゃんさんの愛を受けてツヤツヤに輝いていますよ!」
私はボンバーを蹴る時、無意識に防御魔法をかけていた。
ボンバーは私の魔法で保護された状態で普通なら即死級のダメージを受けて、結果としてそれが経験値へとつながって……。
蹴られれば蹴られるほど成長していくのだった。
「ツヤツヤって……」
いきなり目の前でマッスルポーズを決められて、アンジェは引いていた。
わかる。
キモいよね!
「でも本当に、輝いているような気もするね……。問題はないのかな……」
スオナは冷静に観察していた。
「はははは! そうですとも!」
「ならいいけど」
何がいいのかはわからないけど、アンジェも納得してくれたようだ。
私はホッとした。
よかった。
さすがに友達から暴行犯だと思われるのは嫌だし。
今度からは本当にちゃんと我慢しよう……。
というか、ボンバーに近づくのは本当にやめよう……。
「さあ、では! 気を取り直して、再びですが準備から始めますか! クウちゃんさんもよかったらどうですかご一緒に――」
「ヤーですー。興味ありませーん」
「そう言わずに!」
「アンジェ、スオナ、せっかくだし、少し見ててもいい?」
私は2人にたずねた。
いいよと言ってもらえたので、下がって見学する。
ボンバーの訓練、見せてもらいましょうか。
ふざけたことをしていたら、今度こそ蹴っ飛ばす……ことはしないけどね!
うん!
自重自重!
「……残念ですが、では3人でやりますか。準備いきますぞー!」
ボンバーの合図で、スオナとアンジェも身を正した。
準備体操からとは、ちゃんとしているね。
私はそう思った。
ボンバーがポーズを決める。
そして言った。
「ハッピー!」
と。
「え?」
あまりに突然のことに、私の思考は、一瞬、停止した。
「ちゃっちゃ!」
ボンバーがそう続けて、ポーズを変える。
あわせてスオナとアンジェも動いた。
それは、うん……。
全身を動かす、けっこう激しめの運動ではあった。
「ハッピー! ちゃっちゃ!」
「ハッピー! ちゃっちゃ!」
「ハッピー! ちゃっちゃ!」
3人が踊る。
ハッピーの声に合わせて。
私はそれを離れた場所で見ていた。
夢にまで見たハッピーが、今、眼の前にあるのに……。
参加することもなく……。
「さあ、激しくいきますよー! 2人とも、ちゃんとついてくるのですよー!」
ボンバーの宣言通り、ハッピーが激しさを増す。
それはまさにハッピーだった。
私は見ているだけなのに、眼の前にはハッピーがあった。
ああ……。
あああ……。
あああああああああああああああああああああああああああああ!
ハッピーぃぃぃぃぃぃ!
私の中で、何かがプツンと切れた。
気付いた時、私はボンバーをぶちのめしていた。
いや、ぅん。
はい。
無意識に防御魔法はかけていたので、死んではいないけど……。
意識はぶっ飛ばした……。
「はぁはぁはぁはぁ」
私は肩で息をして、足元でピクつくボンバーを見つめた。
「あのさぁ、クウ……。本気で何がしたいの……?」
「本当だよ。これも訓練なのかい?」
友人2人に白い目を向けられて、私は我に返った。
「あ、うん……。ごめん……」




